中国の新型旅客機、初めて“海を渡る” セールス本格化?…だけじゃなさそうな”狙い”とは

中国国産の小型旅客機C919が、中国本土以外に初めて姿を現しました。中国製旅客機の海外進出の前触れともとれることに加え、違った側面からの狙いもありそうです。

2023年は中国旅客機のメモリアルイヤー

 中国国産の小型旅客機C919が、2023年12月12日から約1週間、中国本土以外に初めて姿を現しました。場所は香港国際空港。目的はプロモーションと見られており、さらにC919以前に実用化されたジェット旅客機ARJ21も同じように展示されました。

 中国領内の香港とはいえ、今回のC919の“初海外進出”は、中国製旅客機の海外進出の前触れともとれるうえ、香港の中国化を一層推進することを示す、多面的な企みを持たせたイベントと見ることができます。

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C919旅客機(画像:COMAC)。

 C919は、客室の通路が1本の「単通路型」で、約150人を乗せることができるジェット旅客機で、エアバスのベストセラー旅客機「A320」、そしてボーイングのベストセラー機「737」を明らかにライバル視したと見られるモデルです。展示期間中の16日には、C919が香港随一の観光地であるビクトリアハーバー上空も飛行しています。

 C919は、2023年5月から中国国内で商業運航を開始しましたが、前出のとおり中国本土以外での運航はありませんでした。その一方、香港で同時に展示されたARJ21は、2023年4月にインドネシアの地域航空会社が中国国外で初めて導入しています。

いわば、2023年はC919とARJ21にとってエポックメーキングな年だったのです。

 加えて、香港は世界的に有名なうえ、中国返還後も独自の制度を持つ「特別行政区」です。いわば、香港でのC919の披露は“国際デビュー”を果たしたと言ってもよく、中国は今回のデモ飛行をもって、C919の2023年を飾る“トリ”としたかったのでしょう。

 筆者は今回のC919・ARJ21の展示について、中国が香港市民に“自国”の科学技術力を見せつけ、中国国民へ、自国に対する誇りを持たせたい意味合いがあったと推測しています。

なぜ香港?ここからC919は下剋上できるのか

 香港では折しも2023年12月現在、「香港生まれの宇宙飛行士が誕生するかもしれない」という話題で国内が盛り上がりを見せています。これに乗じて、中国は航空機開発力でも欧米に並ぶ力を持ったと、2007年にあったエアバスA380のデモ飛行と同じように、C919をビクトリアハーバー上空で飛ばして、依然欧米のような民主化を願う香港市民に中国の力を示したのでしょう。このデモ飛行が香港市民の心に届いたかまでは、現地の人ではない筆者は推測できないことではありますが……。

 ちなみにC919は、2023年11月に胴体を短くし140人乗りとした短胴型と、逆に210人乗りに胴体を長くする2タイプの開発も発表されています。バリエーションを増やすこの発表も、A320と737に対抗するアピールでしょう。

 さて、今回ついに海を渡ったC919ですが、2大航空機メーカーのメガヒット機であるA320と737の牙城を崩す日は来るのでしょうか。

 もちろんどうなるかはまだ全く持って不明ですが、例を挙げるならば、エアバスの今日までの成長が一つのヒントといえるかもしれません。

 同社が最初の旅客機A300を初飛行させたのは1972年。それまでも欧州では旅客機がつくられていましたが、米国内でA300の売り込みは苦労がたえないものだったと記録されています。しかしその後、徐々に販売機数を増やし、A320がヒット機に。現在では、アメリカの航空機メーカーの老舗中の老舗、ボーイングと旅客機市場を2分しています。

 半世紀後に中国は旅客機製造の世界第3局になっているのでしょうか。もちろん、今回の香港での展示で、中国製旅客機の海外進出が本格化したとまではいい難いです。しかし、こうした海を渡った機体披露を続けるのか、その場合、次の中国本土以外で、どこを展示先に選ぶのかによって、中国の野望が露わになってくるかもしれません。

【映像】ビルより高度低い! 「中国製旅客機」圧巻の展示飛行の様子

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