西側戦車を生け捕ったら…とんでもない報奨金! 喉から手が出まくっているロシアの本音

ウクライナ侵攻の初期は、ウクライナが西側兵器を要望しても、欧米はなかなか応じませんでした。理由のひとつはロシアに鹵獲されることを恐れたから。ロシアでは、西側兵器を稼働状態で鹵獲した者に莫大な報奨金を与えるとしています。

報奨金の額、平均給与のほぼ10年分も!?

「レオパルト2、M1エイブラムス、チャレンジャー2なら1両当たり50万ルーブル(約80万円)。高機動ロケット砲システムHIMARSなら30万ルーブル(約47万円)。ほかの旧式戦車なら10万ルーブル(約16万円)」
 
 これはロシア兵が、これらの兵器を撃破したら支払われるとされる報奨金の額です。さらにレオパルト2、M1、チャレンジャー2を稼働状態で鹵獲(ろかく)したなら、50万ルーブルは1200万ルーブル(約1900万円)に跳ね上がります。これはロシア人の平均給与のほぼ10年分に相当します。

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6月のウクライナ軍の反攻作戦で撃破されたレオパルト2A4とM2ブラッドレー歩兵戦闘車(画像:VOIN DV テレグラム動画よりキャプチャー)。

 このほどロシア軍が鹵獲したアメリカ製M2ブラッドレー歩兵戦闘車を検分、解説する動画がSNSに投稿されました。このM2は稼働するということで、画面には鹵獲に成功して「勇敢勲章」を授与されたロシア軍兵士も登場しています。彼らは偵察チームとエンジニアチームで編成されたユニットのようで、鹵獲の準備や訓練をしていたようです。

 西側諸国の戦車を鹵獲したら報奨金を出すという話は、2023年初めに欧米の戦車や装甲車がウクライナに供与され始めた頃に出てきます。石油生産資材を扱うロシア企業「フォレス」は、ロシア兵やロシア側で戦う戦闘員がM1やレオパルト2を無傷で鹵獲した場合、500万ルーブル(約800万円)の報奨金を支払うと発表しました。この金額はロシア人の平均年収の4倍です。

 続いて、ウクライナ南部でロシア軍とともに戦っているパヴェル・スドプラトフ志願兵大隊が「フォレス」の報奨金を倍掛けし、稼働可能な状態のレオパルト2、M1、チャレンジャー2を鹵獲すれば1両につき1200万ルーブル(約1900万円)を支払うことを提示しました。

政府もついに支払いを表明

 ロシア政府もこれらの報奨金を支持し、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「これらの戦車は我が軍によって破壊されることになるだろうが、(中略)このようなインセンティブがあれば、より兵士の士気は上がるだろう」と述べています。

 ついにロシア政府も報奨金を出す意向を示し、シベリア南部ノボシビルスクの市長室がロシア国防省の報奨金だとして、レオパルト2、M1、チャレンジャー2戦車の破壊に対して50万ルーブル(約80万円)、HIMARSと地対地ミサイル「トーチカU」発射装置の破壊に対して30万ルーブル(約47万円)、ヘリコプターに20万ルーブル(約32万円)、旧式戦車に10万ルーブル(約16万円)を提供するとSNSに投稿しています。

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鹵獲作戦に参加したロシア兵の1人。左胸に、授与された勲章を付けている。

 戦場では、敵の兵器を鹵獲することは普通に行われており、性能を調査研究したり、再整備して自国戦力に組み入れたりすることもあります。最新のロシア戦車であるT-90Aもすでに複数が鹵獲されており、取り付けられていた反応装甲(ERA)の中身の映像はSNSで拡散。ウクライナは積極的に鹵獲戦車を修理して自軍で使っています。

 ロシアは鹵獲したM2をSNSに晒すだけでなく徹底的に分析するでしょう。特に注目するのは搭載されている25ミリ機関砲「M242ブッシュマスター」で、あえて自軍装備に試射し、装甲の改良や対策を練る資料としています。

「本当に支払うかは問題ではない」政府の本音とは

 ウクライナに供与されている西側兵器は、少なくとも2030年まで北大西洋条約機構(NATO)で第一線として活躍することになります。ロシアにとって、鹵獲を通じて兵器の装甲やそのほかの特性、部品などを研究することは、NATOの兵器とどのように戦い、対抗するにはどういった装備が必要なのか重要な研究材料になります。

 そういった意味ではウクライナ戦争は研究素材を手に入れる絶好のチャンスでもあり、ロシアにしてみればM1やレオパルト2ならどんな報奨金を出しても手に入れたいところでしょう。

 欧米がウクライナの強い要請にも関わらず戦車の供与に躊躇してきたのは、鹵獲されるリスクがあったのも理由のひとつです。ゆえにウクライナへ供与されたM1やレオパルト2は最新バージョンではありませんし、チャレンジャー2は鹵獲されないよう、とにかく前に出さない、孤立させない、放棄させない、さらには民間軍事会社の奪還特殊部隊まで用意するという、本当に使わせる気があるのか疑いたくなるような制約付きです。

 M2を鹵獲したロシア兵に勲章が授与されるというのは、それだけ論功に値するということです。もっともM2の報奨金がいくらで実際に支払われるのかは明らかではありません。

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ロシア軍によって鹵獲されたM2の車内には、ウクライナ軍兵士が読めるように内部の操作パネルにキリル文字の盤が簡易的に貼り付けられていた。

 しかしながら、報奨金は実際に出すつもりはなくても、兵士の士気を上げるという効果は期待できます。当局にしてみれば最も安価な士気向上策です。実際に砲撃や地雷、対戦車ミサイルや無人機が交錯する戦場で、敵戦車を破壊、鹵獲した功績を特定の兵士に認証することがどれだけ現実的でしょうか。鹵獲した戦車を操縦して味方戦線まで戻って来ない限り、確証を得るのは困難でしょう。古今東西において戦場の論功行賞は難しい問題です。

 しかし戦車生け捕りの危険性と年収10年分と比べたら、どう見ても割の良い稼ぎには思えません。実際に士気向上効果があったのか知りたいところです。

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