「空気レスタイヤ」は空気入りタイヤを超える? メディア初試乗で“走り”を体感 実用化近し!

ブリヂストンが開発している空気充填のいらない「エアフリータイヤ」を装着した車両のメディア試乗会が初めて行われました。スペアタイヤが不要になり、リサイクルの面でもメリットがありますが、“走り”の面ではどうなのでしょうか。

タイヤそのものが変形!? エアフリータイヤの仕組みとは

 空気を充填する必要がないブリヂストンの「エアフリーコンセプト」が、実用化に向けて動き出しています。すでに出光興産と超小型モビリティを使った実証実験を2023年2月から開始していましたが、12月7日、その車両を使って「エアフリーコンセプト」を試乗する機会を得ました。ブリヂストンによれば、このような機会をメディア向けに設けるのは初めてということです。

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エアフリータイヤを履いた車両(会田 肇撮影)。

 エアフリーコンセプトとは、これまでのタイヤのように空気を高圧で充填して膨らませる構造とは異なり、タイヤ側面の特殊形状スポークによって荷重を支える構造となっているものです。

 空気をまったく使わないことから、パンクしないだけでなく空気圧管理などタイヤメンテナンスは一切不要となり、路面に接するゴムの部分についても張り替え(リトレッド)で対応できるようになっています。

 特に注目したいのが路面から受けたショックの吸収方法で、従来のタイヤなら充填されている空気がバネのような役割を果たしますが、エアフリーコンセプトでは特殊形状スポークが衝撃に応じて変形し、その代わりを果たす仕組みとなっています。つまり、このスポークの素材や造り込み次第で、乗り心地やその特性を変化させることもできるのです。

 そして、パンクしないエアフリーコンセプトのメリットとして、スペアタイヤが不要となることも見逃せません。最近はスペアタイヤを非搭載のクルマも増えていますが、それでもパンク修理キットは搭載されればその分だけ重量は増します。これが不要となることで軽量化が可能となり、燃費や走行性能にプラスとして作用することにもなるのです。特にバッテリーによる重量増が避けられないEVにとってはメリットが大きいと言えます。

 また、このスポーク部分は再生可能な樹脂製で作られており、これをリサイクル利用することで「サーキュラーエコノミー」、つまり、循環経済を目指せることもこのタイヤの重要なポイントとなっています。ブリヂストンの言葉を借りれば、この展開により「省資源で持続可能な製品の設計・生産、持続可能な消費活動、使用後の製品や資源の適切な回収、再生・再利用を通じ、資源のムダを省き、環境破壊のリスクを低減させる」ことにつながるというわけです。

車両は超小型EV

 さて、今回の試乗で用意された車両は、タジマモーターコーポレーションが開発した超小型EV「ジャイアン」でした。ブリヂストンはこの車両を使い、出光興産と共に千葉事業所内の移動用に活用する実証実験を行っている最中です。タイヤのサイズは145/70R12で、これを4輪すべてに装着。この日は、東京都小平市にあるブリヂストンのテストコース「B-Mobility(ビー モビリティ)」での試乗となりました。

 試乗に使ったエアフリーコンセプトは、サイズからもわかるように、主として超小型モビリティなど、軽量な車両で使うことを前提に開発されたものです。もちろん、今後の製品化に向けたロードマップでは、より大型の車両での展開も考慮されているのは確かです。

 しかし、ブリヂストンによれば、高速道も走れる一般車両を想定すれば、高速域での操安性や空力などへの対応も考慮する必要が出てくるとのこと。ミニバンやSUV、EVといった重量車を対象にすれば、スポークの設計も見直しは欠かせないということでした。

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「エアフリーコンセプト」について説明するブリヂストン デジタルツイン開発第7課主幹、ソリューション開発第2部兼務の筑後知昭氏(会田 肇撮影)。

いざ試乗 タテ・ヨコ・直線で「空気入りタイヤ」と比較

 試乗方法は、最初に空気を入れた一般的なタイヤを装着したジャイアンに大人ふたりが乗車し、その後でエアフリーコンセプトを履いた別のジャイアンに乗り換えます。テストコースは、直線路に並行して大きさを違えた突起を乗り越えるコースを用意し、ここを通過することで路面からのショックを体感します。そしてタイトコーナーや連続するS字カーブでは横方向のグリップ力を試し、直線路では速度域が上がった時のロードノイズを検証するといった流れです。

 まず、空気が入ったタイヤを履いたジャイアンを試乗します。アクセルのレスポンスは良好で、絶対的なトルク感はないものの、30km/hを過ぎるぐらいまではスムーズに加速してくれました。

 で、肝心の乗り味は思いのほか、しっとりと落ち着いた印象。路面の突起を乗り越えると、車体の剛性の低さは感じるものの、ショックを上手に吸収してくれるので不快な印象はほとんどありません。コーナーでの通過でもステアリングの動きにリニアに反応してくれるので、違和感を感じることはほとんどありませんでした。

いよいよ空気レスタイヤを試す!

 次にエアフリーコンセプトを履いたジャイアンに乗り換えます。走り出しは空気タイヤよりも若干ゴツゴツとした硬さが伝わってきます。ただ、これも20km/hを超えるぐらいからなくなり、空気入りタイヤとの差はほとんど感じなくなりました。

 特に突起を乗り越えた時に伝わる衝撃の感触は、空気タイヤとそれほど変わらない印象。さらに連続するS字カーブでの路面との接地感も悪くない印象でした。

 試乗を終えて感じたのは、空気と特殊形状スポークの差が思った以上に近づけられていたことです。低速域でこそ硬さは感じたものの、速度域が上がれば突起物を乗り越えても不快な印象はなく、それほど剛性が高くない「ジャイアン」でも十分な“いなし”を発揮していたのです。むしろハンドリングのシャープさでは、空気入りのタイヤよりも上回っているのではないかと感じたほどでした。

空気レスタイヤはどうリサイクル?

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使用済みのスポーク部分は粉砕してチップ化して再利用できるようにしている(会田 肇撮影)。

 これまでタイヤのリサイクルは、熱(燃料)と他製品へのマテリアルリサイクルが中心でした。しかし、そこではCO2排出量の削減とタイヤへの資源循環が課題となって立ちはだかっていたのは事実です。このエアフリーコンセプトは、そういった課題を解決する一つの答えなのです。

 ブリヂストンとしては、まず普及が予想される身近な超小型モビリティからこの需要を高め、そこから100%リサイクルが可能な循環型社会の実現を目指していく考え。そんなブリヂストンが進める今後の展開に大いに注目していきたいと思います。

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