新型「ユーロファイター」は“分身の術”搭載か!? まるで空中妖術合戦な電子戦 高度化する“見えない攻防”

エアバスが新たに開発するユーロファイター戦闘機の電子戦機タイプは、敵のレーダーを妨害するだけでなく、破壊したり、自機を防護したり、あるいは敵を欺いたり……物理兵器とは別の“見えない攻防”が進化しています。

ドイツ空軍の電子戦機後継がユーロファイターの派生型に

 エアバスは2023年11月30日、ドイツ空軍向けにユーロファイター戦闘機の電子戦機型「ユーロファイターEK」を開発すると発表しました。

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ドイツ空軍のユーロファイター。これをベースにした電子戦機型が開発される(画像:ドイツ連邦軍)。

 電子戦機は、電磁波で敵の戦闘機や地上施設のレーダー波の妨害を行いながら、レーダー波を逆探知する「対レーダーミサイル」によって地上のレーダーを攻撃する「SEAD機」(敵防空網制圧機)と、味方の戦いを有利に進めるため、戦闘機などの後方から強力な電磁波などを照射して敵の戦闘機や地上施設のレーダーを妨害する「電子妨害機」、敵のレーダー波の情報を収集する「電子偵察機」の3つに分類できます。ちなみに防衛省がC-2輸送機をベースに開発を進めている「スタンド・オフ電子戦機」は電子妨害機に相当します。

 ドイツ空軍は2023年12月現在、パナヴィア「トーネード」IDS戦闘攻撃機をベースに開発された電子戦機「トーネードECR」を運用しています。同空軍は老朽化したトーネードIDSとトーネードECRの後継機として、アメリカからF/A-18E/F「スーパーホーネット」と、その電子戦機型であるEA-18G「グラウラー」の導入を構想していました。

 その後ドイツ空軍はトーネードIDSの後継機としてF-35Aの導入を決定。電子戦機に関しては当初の計画通りEA-18Gをそのまま導入するか、エアバスなどのヨーロッパ企業が提案したユーロファイターEKを導入するかで揺れていました。

 ドイツ空軍、さらに言えばドイツ政府が実績のあるEA-18Gの導入ではなく、ユーロファイターEKの新規開発を選んだ背景には、ドイツとフランス、スペインが共同開発計画を進めている、新有人戦闘機を核とする将来航空戦闘システム「SCAF/SCAF」の生産開始が見込まれる2040年代まで、自国の戦闘機の製造基盤を維持したいという思惑もあったのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

対レーダーミサイルは最新鋭 地上のレーダーを確実にたたく?

 ドイツ空軍のトーネードECRは、原型機のトーネードIDSに搭載されている機関砲を撤去して、レーダー波を察知・分析するシステム「ELS」(Emitter Locator System)を装備。これにより電子偵察機としての役割と、搭載するAGM-88「HARM」対レーダーミサイルによるSEAD機としての役割を果たしています。

 そのトーネードECRを後継するユーロファイターEKは、同様に電子偵察機とSEAD機として運用されることになりますが、SEAD任務に使用する対レーダーミサイルはHARMからノースロップ・グラマンが開発したHARMの発展型「AARGM」に変更される予定となっています。

 SEADの概念が定着したベトナム戦争以降、地上のレーダー施設はSEADによる被害を軽減すべく、SEAD機の接近を感知すると一時的にレーダー波の照射を止めて、対レーダーミサイルによる逆探知を困難にしていました。

 このためHARMには、外部の電波による支援を得ることなく、搭載するセンサーによって自らの位置や速度を算出し、発射時にあらかじめ設定した目標へと飛翔する「慣性誘導装置」が途中から追加されています。しかし、敵にレーダー波の照射を止められて慣性誘導装置だけを使用した場合、精密な誘導は難しくなっていました。

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2018年ファンボロー・エアショーに展示された「AARGM」対レーダーミサイルのモックアップ(竹内 修撮影)。

 このためAARGMは、電波源からの電波の発信が停止した場合でも精密誘導を可能とするため、GPS/デジタル慣性誘導装置とアクティブミリ波レーダー画像シーカーを併用する誘導装置WGU-48/Bを採用しています。AARGMの運用能力を得ることで、ユーロファイターEKの地上のレーダーに対する攻撃能力は、トーネードECRに比べて大きく向上するものと思われます。

ほとんど忍者!? 見えない戦い

 エアバスはユーロファイターEKに、サーブが開発した送信機位置特定システムと、自己防御システムが搭載されると発表しています。

 サーブは、敵のレーダー波を探知すると自動的にチャフやフレアを発射して、敵の地対空ミサイルの攻撃から航空機を護る自己防御システムHES-21「シリウス」を実用化していますが、ユーロファイターEKに搭載するものは、これとは異なるようです。

 エアバスはユーロファイターEKの自己防御装置について「強力な電磁波の照射により敵のレーダーを破壊する能力も持つ」とし、さらに「2030年を目途にNATO(北大西洋条約機構)から使用認証を得たい」と述べています。このことなどから推察すると、同機にはシリウスではなく、サーブが開発を進めている新たな航空機用自己防御システム「EAJP」か、「アレクシス(AREXIS)」が搭載されると考えられます。

 EAJPは敵のレーダー波を検出してチャフやフレアを自動的に発射する従来の機能に加えて、強力な妨害信号を送信して敵のレーダーを破壊する機能も備えています。

 アレクシスはEAJPと同様、強力な電波によって敵のレーダーを破壊する機能に加えて、電子的に自機の囮を作り出すという、あたかも忍者のような機能も備えると筆者はサーブから聞いています。

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「EAJP」ポッドを懸吊して飛行試験を行うグリペンD戦闘機(画像;サーブ)。

 ユーロファイターEKにどちらのシステムが搭載されるにかはまだわかりませんが、いずれにせよユーロファイターEKが、電子偵察機とSEAD機に加えて、電子妨害機としての能力も備えた、強力な電子戦機となることは確実だと筆者は思います。

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