"反対派市長"の街へ知事突撃!「富士山登山鉄道」拍手&激論の地元説明会 はたして市長の"採点"は?

検討が進められている「富士山登山鉄道」。地元の富士吉田市で、長崎幸太郎知事みずから登壇する住民説明会が開かれました。どんな反応があったのでしょうか。

本格的な地元説明会

 山梨県が本格的に検討をはじめた「富士山登山鉄道」構想。オーバーツーリズム対策と環境対策とブランド強化の根本対策である「バスとマイカー乗り入れの根本排除」の結論としてできあがった新輸送方式です。

 山麓と富士山5合目をつなぐ道路「富士スバルライン」には上高地と同じマイカー規制がありますが、バスの急増であまり目立った成果が出ていません。ところがバスを規制しようにも法規的な限界があるといいます。鉄道であれば運行本数を自在に増減させることで入場者数をコントロールしやすいというわけです。

 登山鉄道は架線のいらない地面給電式LRTで、富士スバルライン上に敷設するため用地買収も基本的に不要。今の道路をそのまま使いまわすことで「自然改変ほぼ皆無」をウリにしています。重要なのは「技術的に実際に作れるのか」ということで、これまで「おそらく作れるだろう」レベルだった想定を「確実に作れる」レベルに引き上げるべく、さらに深掘りの検討が進められているところです。

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スバルライン上に線路が敷かれる富士山登山鉄道(イメージ画像:山梨県)。

 さて、このように全速前進中の県庁に対し、真っ向から対立しているのが、富士山の山梨県側登山口を抱える地元・富士吉田市。反対理由に「鉄道ありきで進めている県の態度」「環境破壊」「お金がかかる」「電気バスで十分」などを挙げ、インターネット上で広く賛否を問うアンケート調査もおこなっています。

 その富士吉田市で、長崎幸太郎知事みずから登壇する住民説明会が2023年11月23日に開かれました。記者会見で舌鋒強く知事を批判していた堀内 茂 富士吉田市長もじきじきに参加するということで、まさに「直接対決」も期待される場となったのです。

熱気に包まれた説明会会場 その内容は?

 富士吉田市の「ふじさんホール」は約800人の座席が埋まるほどの大盛況。いかに地元の関心が高いかがうかがえます。

 長崎知事の説明。「様々な富士山の恵みを大切にし、後世へ引き継いでいきたい、その思いはみなさんと共通であり、根本の価値観を共有しています」と語る場面で拍手が起きる場面も。いよいよメインともいえる質疑応答の時間になりました。抜粋すると以下の質疑応答がありました。

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説明会に登壇した長崎知事(乗りものニュース編集部撮影)。

市民「運賃が1万円というのは高すぎる。4人家族だと4万円だ」
知事「外国から来る人も含め、『1万円はらっても来たい』とよばれる場所にしたい。ただ、地元の方々は無料で乗れる、修学旅行の学生は大きく割引するなど、十分考えられます」

市民「登山道は静岡県側をふくめ4つの登山道がある。静岡県とは連携が取れているのか」
知事「静岡は『静岡の中で』議論を始めている段階。議論の状況は逐一共有して連携していきたい」

市民「世界遺産取り消しが懸念されるというのが議論の発端だが、そもそも世界遺産が取り消されるとどんな不利益があるのか」
知事「世界遺産指定によって、やっと世界にその名が知られ、広く人が来るようになったというのが大きい。ただ、実際の具体的な影響について、整理して研究してみたい。心情としては『いやいやこんなの宝じゃないよ』と言われるのは…というのはある」

市民「工事の期間はどれだけか。工事中、店が営業できない人もいるが、休業補償はしてくれるのか。宇都宮LRTは5年かかりましたが、富士山なんてそんなものでは済まないぞ」
知事「休業補償は当然。事業期間は、用地買収が不要というのが大きく、他事例と比較すると短期間になると思われる」

市民「山梨県ではオーバーツーリズム対策として富士山の入場規制の条例を検討している。これで十分ではないか」
知事「その条例は、弾丸登山などの対策のための、5合目より上の入山に関するもの。より喫緊の課題なので急いで動いている」

市民「富士山が噴火した場合、避難経路はどうなってしまうのか」
知事「その問題は現在も課題となっていること。スバルラインを起動にするとはいえ緊急車両は引き続き通行できる。噴火など災害にそなえ、現在もシェルター設置などを進めているところ」

富士吉田市長「反対という気持ち強くなった」その理由は?

 こうして約1時間の質疑応答も終了。質疑応答のほかに、知事の「富士山の恵みを大切にしたい思いは同じ」という発言に共感し「これからも議論を重ねてください」という声も複数見られました。共感意見、反対意見、それぞれに拍手が散発的に起こっていました。

 もちろん「いま各地の戦争で人々が苦しんでいるのに、なぜ登山鉄道の話をするんですか」「あなたは裸の王様だ。ジャニーズ事件と同じです。プラカード持って押しかけてやりますよ」とヒートアップする人もいましたが、おおむね穏当に終わったという印象でした。

 全体的に、やはり「なるほどわかった。富士山登山鉄道があってもいいのかもしれない」という空気にはまだ遠いように思われます。特にこれからの論点として、やはり「LRTか電気バスか」という話は長く付いて回りそうです。お互いのメリット・デメリットを比較する際も、その根拠となるデータ自体が技術変革や多様性で依然あやふやになってしまうところに、クリアな議論をしにくい難しさがあります。

 もちろん、今回の「富士山鉄道構想」について、国土交通省の関与の希薄さが「知事の孤軍奮闘」というイメージを払しょくできない要因になっているかもしれません。知事は今後地元住民と議論を重ねていくことが「集合知」による最適解を見つけるために重要と繰り返していました。「世界の富士山をどうしていくか」というプロジェクトについては、霞が関の「集合知」がカギのひとつとなりそうですが、今後の動きに注目です。

 さて、富士吉田市の反対の急先鋒である堀内市長はこの説明会をどう感じたのでしょうか。会場では客席で「聞き役」に徹していた市長ですが、閉会後の会見では「反対という気持ちが強くなった」とバッサリ。

 その理由については、「災害に対する保安の話がしっかりされていない。土石流に対する保安設備をしっかりしたうえで通すべきだ。説明に使われた比較データも古いものがあった。技術革新が進み、選択肢は増えているはず。事業規模1400億円の根拠に甘さがあり、一抹の不安がある」と挙げています。

 この発言には、知事の説明を巻き戻すような「富士山に工事はいらない」といった感情論は廃され、「改善の余地」に焦点を当てたようなニュアンスであるのが印象的。市長の知事に対する「戦友」のような心境が見え隠れします。

 堀内市長は囲み取材が終わったあと、取材陣に念を押すように「報道陣の方々に申し上げたいのですが、今回知事がここへ来て説明をしていただいたことは嬉しく、感謝しています。これからも議論を重ねていければと思います」と語っていました。

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