なぜ? 空自F-15改修計画が暗礁に 予算膨らみすぎ 中断も示唆…やらないとどうなるか

航空自衛隊F-15戦闘機の能力向上改修計画、その初期費用が膨張しすぎて、計画がストップ状態となっています。隊員の負担軽減だけでなく、差し迫った危機に対する防空力の強化にもつながる改修計画ですが、中断も示唆されています。

改修費用が膨張 2020年度の予算執行見送り

 防衛省が進めている航空自衛隊のF-15J戦闘機の能力向上改修計画が、暗礁に乗り上げています。その理由は「価格」です。

 2021年4月7日付の時事通信は、改修の初期費用が膨張したことから同省が改修内容を見直し、2020年度予算に計上されていた約390億円の予算執行を見送ったと報じています。

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対艦ミサイルを発射するF-15のイメージ(画像:ボーイング)。

 航空自衛隊は1978(昭和53)年から1999(平成11)年までに、合計213機のF-15J/DJを導入しています。1985(昭和60)年以降に納入されたC-6からC-17ロットの103機は、アメリカ空軍が、F-15J/DJの原型機であるF-15C/Dに対して行った、多段階能力向上改修計画(MSIP)に準ずる形で能力が向上しているため「J-MSIP」(Japan-Multi-Stage-Improvement Program)機、その前の1981(昭和56)年から1984(昭和59)年までに納入されたC-1からC-5ロットで製造された110機は、便宜的に「Pre-MSIP」機と、それぞれ呼ばれています。改修の対象は、このうちのJ-MSIP機です。

 F-15の運用寿命は8000飛行時間に設定されていますが、アメリカ空軍のF-15C/Dには1万飛行時間まで運用寿命が延長された機体もあり、それ以上に運用寿命を延長できる可能性もあることから、防衛省は早い段階でJ-MSIP機を今後も長期に渡って運用していく方針を定め、2018年12月18日に発表された現中期防衛力整備計画の期間中に、単座型であるF-15J 20機の能力向上改修を盛り込みました。

 なお、2020年3月の時点で航空自衛隊は201機のF-15J/DJを保有しており、うち99機を占めるPre-MSIP機は2018年12月に、105機のF-35戦闘機によって更新されることが決定しています。

アメリカの要求で当初見積もりの3倍に そもそもどんな改修を?

 防衛省が当初構想していたF-15Jの能力向上改修計画は、ボーイングがアメリカ空軍のF-15Cに対して提案していた能力向上計画「F-15C 2040」と同様、敵の戦闘機のレーダーやミサイルを電波で妨害する新型の電子戦システムの搭載と、制空戦闘能力を強化するための空対空ミサイルの搭載数増加、この2点に重きを置いていたようです。

 しかし、現中期防衛力整備計画に導入方針が盛り込まれた、空中発射型巡航ミサイル「JASSM-ER」(Joint-Air-to-Surface-Missile-Extended Range)と、長距離対艦ミサイル「LRASM」(Long Range Anti-Ship-Missile)の搭載母機としてF-15Jに白羽の矢が立ったことから、F-15Jの能力向上計画は当初の想定よりも大がかりなものになりました。

 防衛省はF-15Jのアップデートにあたり必要となる設計費や、改修作業に用いるための施設などを整備するための初期費用として、2019年度と2020年度に契約ベースで802億円を計上します。

 しかし、アメリカ側から数回に渡って初期費用の上積みを求められた結果、その費用は膨張し、4月12日に行われた参議院決算委員会に出席した岸 信夫防衛大臣の説明では、2020年末の時点で当初見積もりの3倍近くにまで増加したといいます。

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F-15Jへの搭載が計画されている長距離対艦ミサイル「LRASM」(画像:アメリカ海軍)。

 防衛省の土本英樹整備計画局長は4月12日の参議院決算委員会で、初度費が高騰した理由は、「電子戦装置とレーダーに関する部品が枯渇していることと、ソフトウェアの改修が必要となったため」と述べています。

 しかしF-15の能力向上計画で導入が検討されている電子戦装置とレーダーは、アメリカ空軍が導入するF-15の最新型「F-15EX」と共通のものであるため、部品の枯渇は考えにくいと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は推察するため、防衛省はより詳細な説明を行うべきだと考えます。

改修計画の継続可否「検討」 やめた場合に想定される危機

 岸防衛大臣は参議院の決算委員会で、アメリカ側と初期費用の減額交渉をしたうえで、F-15Jの能力向上事業について継続の可否を検討する必要があるとも述べています。

 前出のように、F-15JにはJASSMとLRASMの搭載も計画されているものの、JASSMとLRASMは南西諸島方面における防衛力強化策の柱と位置づけられているため、F-15Jの能力向上改修計画を中止することは、その柱を失うことを意味します。それだけでなく、日本の防空能力の弱体化につながる可能性もはらんでいるといえるでしょう。

 F-15J/DJのJ-MSIP機は搭載するレーダー警戒装置が3種類あるなど、生産時期によって微妙に仕様が異なっています。また防衛省は2004(平成16)年度から2016(平成28)年度にかけて、J-MSIP機にレーダーおよび電子戦システムの換装といった能力向上改修を行っていますが、少数にとどまっています。このためF-15J/DJの装備部隊には仕様の異なるJ-MSIP機が混在している状況であり、これが部隊運用だけでなく、修理や補給の面でも負担となっていました。

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能力向上改修を受けたF-15Jのイメージ。アメリカは改修機を「JSI」(Japanese Super Intercepter)という名称で呼んでいる(画像:ボーイング)。

 防衛省はF-15Jの能力向上改修によって、バラつきのあるF-15JのJ-MSIP機も仕様を統一して、部隊運用や修理、補給の負担を軽減することを構想していましたが、もしF-15Jの能力向上改修に関する事業が中止になると、航空自衛隊の負担軽減も不可能となります。

 F-15Jは、ステルス性能の面では周辺諸国の最新鋭戦闘機と比べて見劣りするものの、飛行性能や兵装搭載量などの面では、現在でもトップクラスの実力を備えており、能力向上改修を行えば、長期に渡って第一線で使用できる戦闘機です。改修事業の先行きは不透明ですが、メディアに報じられて問題になったから中止するのではなく、アメリカとの初期費用の減額交渉を粘り強く進め、かつ国民に情報をきちんと開示した上で、事業を継続すべきだと筆者は思います。

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