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国内防衛産業の再編加速か 三井E&S造船の事業整理 苦境の造船再編だけで済まない理由

造船大手の三井E&S造船が事業の整理を進めています。同社を支えてきた艦艇・官公庁船事業を三菱重工に譲渡する一方、商船事業でも常石造船と資本業務提携を締結。苦境に立つ国内造船事業再編の動きが、防衛産業にも及びそうです。

商船建造の穴を埋めてきた艦艇・官公庁船事業を譲渡する三井E&S造船

 2020年3月29日(月)、三菱重工業と三井E&Sホールディングスが、後者の傘下である三井E&S造船の艦艇・官公庁船事業を三菱側へ譲渡する契約を締結したと発表しました。

 三井E&S造船は1917(大正6)年に岡山県日比町の玉地区(現・岡山県玉野市)で創業した、三井物産造船部をルーツとする企業です。1937(昭和12)年に三井物産から分離独立して三井造船に社名を変更したのち、旧日本海軍の潜水艦や商船などの建造により業績を伸ばし、第2次世界大戦後の1956(昭和31)年以降は商船に加えて、海上保安庁や海上自衛隊の艦(船) 艇建造なども手がけてきました。

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2020年11月に玉野艦船工場で進水した護衛艦「くまの」。三井E&S造船の事業譲渡によって、海上自衛隊の艦艇を手がける企業は三菱重、JMU、川重の3社に(写真:海上自衛隊)。

 しかし21世紀に入って以降、韓国や中国などの猛追を受けて、タンカーやコンテナ船などの商船の受注が低迷。三井E&S造船は海上自衛隊の艦艇や海上保安庁の巡視船といった艦艇・官公庁船の建造によってしのいできました。

 それでも商船需要の低迷に歯止めがかからず、また海上自衛隊の艦艇に関しては、ほぼ毎年発注のある護衛艦や潜水艦ではなく、おおすみ型輸送艦を始めとして、補給艦や音響測定艦といった、数年に1度しか発注のない支援艦艇をおもに手がけてきたため、商船受注の低迷による玉野艦船工場の稼働率低下を埋めるには至りませんでした。

 このため三井E&S造船は2020年6月から、三菱重工業との間で艦艇・官公庁船事業の譲渡交渉を開始し、最終的な合意に至ったことを受け、今回、譲渡契約締結が発表されることとなりました。

商船の建造も終了する三井玉野造船所

 三井E&S造船は、2018年度から2021年度まで毎年2隻の建造が計画されている、もがみ型護衛艦の建造に三菱重工業の下請けという形で参加し、2020年11月19日に、もがみ型の2番艦「くまの」を進水させています。

 こうしたなか結ばれた事業譲渡契約の概要はこうです。玉野艦船工場の土地建物などは引き続き三井E&S造船が所有し、現在約700名が勤務する同工場の職員のうち約400名は、艦艇や官公庁船事業を継承する新会社へ転籍し、三菱重工業による新会社の買収完了後も引き続き玉野艦船工場で勤務します。

 さらに同社は、2021年度予算に建造費が計上された、もがみ型護衛艦8番艦の建造を三菱重工業からの下請けで建造する計画となっていましたが、三菱重工業への艦艇・官公庁船事業の売却により、もがみ型の8番艦は三菱重工業の子会社となる、前に述べた新会社が、玉野艦船工場で建造することになると見られています。

 一方で、三井E&S造船は4月23日(金)に、中堅造船企業である常石造船と資本提携に合意しています。2021年夏に三井E&S造船は玉野における商船の建造を終了し、今後商船の受注を得た場合は、常石造船の海外工場か、三井物産と中国の造船大手企業である揚子江船業と共同設立した合弁企の造船所YAMICで建造する方針を明らかにしています。

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三井E&S造船が建造した海上自衛隊の音響測定艦「あき」。同社の海上自衛隊向け受注は「あき」のような支援艦艇が多く、商船低迷の穴埋めにはならなかった(写真:海上自衛隊)。

 艦艇・官公庁船事業の三菱重工業への譲渡と、商船事業における常石造船との資本提携により、三井E&S造船は今後、温室効果ガスの排出量が少ない次世代船などの開発などに注力し、企業としての生き残りを図っていくことになります。

 一連の三井E&S造船における艦艇・船舶建造からの撤退は外国企業との競争激化が大きな要因となっていますが、実のところ防衛産業も同じ構造を抱えています。

「輸入」に押される防衛産業も再編不可避か?

 防衛省の予算の中で防衛装備品の調達に使用される経費は「物件費」と呼ばれていますが、物件費に占める輸入比率は近年著しい上昇傾向にあります。

 2010(平成22)年時点で物件費の輸入比率は8.0%でしたが、2012(平成24)年に誕生した第2次安倍政権は、同盟国であるアメリカ、事実上の準同盟国であるオーストラリアなどとの相互運用性を重視した結果、防衛装備品の輸入が増加し、2019年度の物件費の輸入比率は27.8%にまで上昇。とりわけアメリカからのFMS(対外有償軍事援助)を利用する防衛装備品の導入増加は顕著で、2019年度のFMS予算額は7013億円に達しています。

 三菱重工業の泉澤清次社長は3月29日に行われた会見の中で、防衛産業は右肩上がりの状況にないという認識を示したうえで、現時点では具体的な話はないものの、将来的に防衛産業のさらなる再編もあり得るとの見解を示しています。

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2021年3月29日に行われた会見で三井E&S造船の艦艇・官公庁向け船舶事業の譲渡契約締結を発表した三菱重、三井E&SHD、三井E&S造船の3社の幹部(竹内 修撮影)。

 外国からの輸入増加だけでなく、少子化によって将来、自衛隊の規模縮小が避けられない状況下で、国内の防衛産業を守るためには、企業の統合によって体力と競争力を強化する必要があると筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は考えます。また、国内防衛産業の中核的存在である三菱重工業のトップたる泉澤社長が、防衛産業の再編もあり得るという見解を示したことは、国内防衛産業の再編が加速する可能性が高くなったのではないかとも感じています。

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