急行「飯田線秘境駅号」何がおもしろい? JR東海担当者が明かす10年続いた人気のワケ

小和田、中井侍、為栗、田本といった、鉄道以外での到達が難しい「秘境駅」を巡るJR東海の急行列車「飯田線秘境駅号」。同社の担当者は、運行が10年続いた要因のひとつに「リピーターの多さ」を挙げます。人気の背景を聞きました。

「秘境駅」はとても日本的

 人里から離れ、駅に至る大きな道もなく、鉄道以外での到達が困難な「秘境駅」。そんな駅を訪れ、非日常感を味わう「秘境駅ブーム」がいまも続いています。2000年代後半から始まった動きですが、人気を受け、JR東海は飯田線の豊橋駅(愛知県豊橋市)と飯田駅(長野県飯田市)のあいだを結ぶ秘境駅観光列車、急行「飯田線秘境駅号」の運行を2010(平成22)年春に開始。以降、毎年春と秋を中心に不定期で運行しています。

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「秘境駅」の田本に停車中の急行「飯田線秘境駅号」(画像:JR東海)。

 飯田線に複数ある秘境駅を、本数が多くはない普通列車で1日に回るのは困難ですが、秘境駅をたどる「秘境駅号」ならそれが可能。10年目を迎えたいまもなお人気は衰えず、2019年5月には、世界が共感する“クールジャパン”を発掘・認定する「クールジャパンアワード2019」でも表彰されました。

 選考理由についてある外国人審査員は「誰も降りないひなびた秘境の無人駅に静かに止まる列車は映画の世界のよう。深い山の中、あたり一帯に囲まれ、蝉の鳴き声だけが聞こえるような情景はとても日本的」としています。

「秘境駅って何がおもしろいんだろうと、懐疑的でした」

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「秘境駅」の為栗に停車中の急行「飯田線秘境駅号」(画像:JR東海)。

 秘境駅の魅力とは何なのか、「秘境駅号」の企画を担当するJR東海 運輸営業部の大谷直也さんはこう分析します。

「正直に申し上げますと、私もこの観光列車を担当するまで、秘境駅って何がおもしろいんだろうと、懐疑的なところがありました。そこで実際に『秘境駅号』に乗って、いざ小和田駅や田本駅などに降り立ってみると、これまでにない興奮を覚えたんですよ」(JR東海 大谷さん)

古い木造駅舎、打ち捨てられたミゼット…秘境駅のロマン

 例えば小和田駅(静岡県浜松市)では、クルマが入って来られる道が駅につながっていないにもかかわらず、立派な古い木造の駅舎があるのですが、付近には製茶工場の廃屋があり、「ミゼット(かつての三輪自動車)」や「カブ(オートバイ)」も廃車となって横たわっています。

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クルマが通れる道も、人が住んでいる気配もない飯田線の小和田駅(2009年9月、恵 知仁撮影)。

 田本駅(長野県泰阜村)は、幅およそ2mしかないホームの前にダムのような巨大なコンクリートの壁がそびえ立っていて、駅の端に登山道のような細い道が接続しているだけであるため、一見すると出入口がないような錯覚に陥ります。

「田本駅は、なんでこんなところにコンクリートの壁があるんだろうと、駅に降りてまず思いましたね。そこに人工物の美しさや、昔は人の営みがあったんだろうな、というような、ストーリーやロマンを感じました。なるほど、こういう価値があるんだな、という発見がありましたね」(JR東海 大谷さん)

「秘境駅号」10年続く理由

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飯田線の小和田駅付近に横たわっている「ミゼット」(2009年9月、恵 知仁撮影)。

 急行「飯田線秘境駅号」が10年続いている要因に、大谷さんはリピーターの多さを挙げます。

「鉄道愛好家の方をはじめ、リピーターの方がすごく多いですね。ただ、近年は家族連れの方や、若い女性グループ、外国人の方もちらほらといらしており、『秘境駅号』そのものが浸透してきているのかなという手応えもあります。車内での施策としては、車掌による観光スポットの解説もご好評をいただいております」(JR東海 大谷さん)

駅での特産品販売、完売になるほどの人気

 急行「飯田線秘境駅号」はこの2019年秋、11月16日(土)と17日(日)、23日(土・祝)、24日(日)の4日間に1往復ずつが設定され、下りは豊橋駅を9時50分に出発。途中、秘境駅の小和田(こわだ)、中井侍(なかいさむらい)、伊那小沢(いなこざわ)、為栗(してぐり)、田本(たもと)、金野(きんの)、千代(ちよ)などに停車しながら、15時30分に飯田駅へ到着します。

 上りは、飯田駅を13時03分に発車し、同様に6つの秘境駅に立ち寄りながら、豊橋駅へ17時54分に到着。上下ともに、秘境駅に挟まれた途中の平岡駅(長野県天龍村)ではしばらくのあいだ停車し、お茶やゆずを使った加工品など地元の特産品の販売も行われます。

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急行「飯田線秘境駅号」の到着に合わせ、平岡駅で行われている特産品の販売(画像:JR東海)。

「平岡駅での特産品の販売は、いつも完売になるほどの人気です。地元の方々によるお見送りもあります。なるべく地元の方々のご協力を得るような形でやらせていただいており、弊社だけでなく、地元の方々と双方の利益になるようにと考えています」(JR東海 大谷さん)

 観光列車として10年続けていくうえで、顧客サービスの維持向上だけでなく、沿線自治体の住民の力を借りられたのも大きかったと、大谷さんは言います。

「お客さまにとっても、そうしたものがあるから行ってみようという気持ちが生まれると思うので、地域への密着はとても大事にしています」(JR東海 大谷さん)

「秘境駅」海外の鉄道好きも注目?

 急行「飯田線秘境駅号」は駅の窓口などで乗車券と急行券、指定席券を手配することで乗れるほか、JR東海ツアーズやクラブツーリズムといった旅行代理店を通じたツアーでも乗車が可能です。

 ツアーの場合、終点の飯田駅から日本屈指の星空が見られるという阿智村(長野県)の昼神温泉を巡る旅行商品も用意されており、翌日には大鹿村(長野県)のしし鍋や松川町(長野県)のフルーツ狩りが楽しめます。このほかにも各種旅行商品がありますが、個人で「秘境駅号」を手配した場合、値段は豊橋~飯田間で乗車券2590円、急行券980円、指定席券520円で計4090円です(消費税改定前)。

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急行「飯田線秘境駅号」の企画を担当するJR東海 運輸営業部の大谷直也さん(河嶌太郎撮影)。

 前回、2019年4月の運行について、大谷さんはこう振り返ります。

「一緒に乗らせていただきましたが、桜の開花の時期と重なったこともあり、花見も楽しめました。外国人の方が10人前後いらっしゃったのも印象的でした。欧米系のひとり旅の方々が中心で、他の観光地のインバウンド旅行者の方とは毛色が違うように感じます。もしかすると、海外の鉄道好きの方だったのかもしれません」(JR東海 大谷さん)

 この1か月後に「秘境駅号」は、「クールジャパンアワード2019」を受賞。国内だけでなく、海外にも「秘境駅ブーム」が飛び火する予感がうかがえます。JR東海はこの受賞を受け、2019年秋の運行から、新たに制作したという英語版「秘境10駅みどころMAP」の配布、スタッフへの携帯通訳機配備といった施策を開始するそうです。

「秘境駅号」に乗っていたら駅長になれる? 乗客へプレゼントも

 JR東海によると、急行「飯田線秘境駅号」2019年秋の運行では、乗車記念として「飛び出す乗車証明書」と「原寸大ヘッドマークシール」をプレゼントすることにしたとのこと(下り列車は東栄~大嵐間、上り列車は小和田~浦川間で配布)。

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2019年秋の急行「飯田線秘境駅号」でプレゼントされる「飛び出す乗車証明書」(画像:JR東海)。

秘境駅「小和田」での特別体験

 また、この2019年秋からは、「秘境駅」のひとつである柿平駅(愛知県新城市)へ新たに停車するほか(下り列車のみ)、乗客(子ども)から抽選で1名を選び「小和田駅一日駅長」に任命する企画も実施。一日駅長に任命されると、普段は閉鎖されている小和田駅の駅事務室に入って、「秘境駅号」乗客へ当日限定の「小和田駅記念入場証」を渡すという特別な体験ができます。

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2019年秋の急行「飯田線秘境駅号」でプレゼントされる「原寸大ヘッドマークシール」(画像:JR東海)。

 今年で10年目を迎えた「秘境駅号」、今後もますます利用者の拡大が見込まれそうです。

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