日本唯一となった「海をゆく路線バス」鹿児島に バスに乗ったままフェリーに「乗船」

バスに乗ったままフェリーに乗船し、都市間を結ぶ路線バスが鹿児島で運行されています。かつては複数あった「船に乗る路線バス」も、いまや日本唯一の存在です。

錦江湾をフェリーでショートカットする路線バス

 鹿児島市と、大隅半島に位置する鹿児島県鹿屋市を結ぶ「大隅半島直行バス」。鹿児島交通が運行するこのバスは、途中に「海路」を含むという、都市間を結ぶ路線バスとしては全国で唯一の形態をとっています。

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「大隅半島直行バス」の車両(画像:鹿屋市)。

 鹿児島市側の始発地は、市街の中心付近に位置する金生町バス停。目的地の鹿屋は、鹿児島市から錦江湾を隔てた大隅半島の中心です。直線距離では40kmほどですが、陸路では北側に大回りせねばならず、倍以上の距離となります。

 バスは発車すると、北側ではなく、おおよそ南方向へと進行。九州新幹線が発着する鹿児島中央駅などを経由し、乗客はどんどん増えていきます。

 バスはその後、ベイエリアの外れにある鴨池港へ。ここから、垂水鴨池フェリーを使って海を渡ります。自家用車がフェリーに乗り込んでいったあと、誘導を受けてバスが乗船、重量10トン以上の長い車体は、陸と船をつなぐスロープ板の継ぎ目で大きな音をたてて船内へ入ると、車両甲板の中央部に停車、船の乗組員が車輪を念入りに固定します。その後、バスの乗客に向け、いったん降りてフェリーの客室に移動するようアナウンスが。

 ここでバスを降りる際には、運転手から小さなチケットを手渡されます。垂水港に到着した際、チケットと引き換えに再度バスに乗車できるようになっているのです。約45分の航行中は、船内で自由に過ごすことが可能。このフェリーによる車両航送を含め、所要時間は鹿児島中央駅~鹿屋間で約2時間、全区間(金生町~東笠之原)を乗り通した場合で約2時間20分です。

近くて遠い「鹿屋~鹿児島」

 鹿屋市には1987(昭和62)年まで鉄道がありました。日南線の志布志駅(鹿児島県志布志市)から鹿屋、垂水を経て日豊本線の国分駅(同・霧島市)までを結ぶ国鉄大隅線です。廃止当時は、鹿屋から鹿児島まで約2時間で直通する快速が、1日1往復運行されていました。

 当時から、フェリーを経由して鹿屋から鹿児島市へ向かうこともできましたが、鹿屋からバスで1時間近くかけて垂水港へ向かい、フェリーに乗船し、鴨池港からまたバスでと、多くの乗り換えが必要になります。それぞれで乗車待ち、乗船待ちの時間が生じますし、港では長い通路を歩かなければなりません。

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バスは鴨池港でスロープ板を渡りフェリーに乗り込む。この時点ではバスの乗客は乗車したまま(oleolesaggy撮影)。

 このため鹿屋市は、九州新幹線が開通したのを契機に、フェリーにそのまま乗り込む「鹿児島への直通バス」の導入を検討。 これは、鹿屋市民の大きな期待を集めました。2009(平成21)年3月に公表された「鹿屋市地域公共交通連携計画」のアンケート調査では、特に50歳以上の市民の8割以上が「直通バスがあれば必ず利用する」と答えています。この結果を踏まえ、同年12月には「大隅半島直行バス」の運行に漕ぎつけたのです。

 ただし、当初は3年間の「実証運行」として5往復でスタートし、市による1便あたりの乗車率予想も8名程度とかなり控えめでした。しかし、蓋を開けてみれば平均14名以上と、ほぼ倍のペースで推移し、利用者からの評判も上々。2018年12月末現在は6往復となっており、年末年始などには2台体制で運行される便もあります。

過去にはほかにも「フェリーに乗る路線バス」が

 船で海上区間を移動する都市間路線バスは、かつて瀬戸内海を中心に数例存在しました。

 たとえば1998(平成10)年に明石海峡大橋が開通する前は、東京~徳島間の高速バス「エディ号」が、神戸で淡路フェリーボートに積み込まれ、淡路島 で船を降りたあと徳島へ向かっていました。また、広島県内と愛媛県今治市を結ぶ「しまなみライナー」のうち、かつてあった三原発着の便も、「しまなみ海道」の全通によりフェリーの航送から高速道路経由に変更された例です。

 大分・別府~広島間を運行していた高速バス「別府ゆけむり号」は、国東半島の竹田津港で「スオーナダフェリー」に乗船し、山口県の徳山港に向かっていました。陸路では200km以上ある区間を半分にショートカットする経路ですが、それでも6時間を要します。2015年には東九州道の開通により、大分~北九州間で新たな高速バスも誕生する一方、竹田津港は高速道路のインターチェンジから離れていることもあり、時間短縮の効果は薄まっていたかもしれません。結局、2017年には路線休止となり、その後は陸路で大分と広島を結ぶ高速バスも設定されていません。

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2017年に休止となった大分・別府~広島間の「別府ゆけむり号」。道中でスオーナダフェリーを利用していた(oleolesaggy撮影)。

 これにより、フェリー航送を含む都市間路線バスは、「大隅半島直行バス」が唯一の存在となったのです。かつては、錦江湾に海底トンネルを掘って鹿児島市と大隅半島をつなぐ構想もありましたが、総工費900億程度、年間維持費2.9億円という調査結果もあり、進展していません。このルートは、フェリーが活用される状況が当面続くのではないでしょうか。

 なお、「フェリーに乗るバス」としては、JR九州バスが桜島フェリーを介して鹿児島市内と桜島内を周遊する定期観光バスを運行しています。

※記事制作協力:風来堂、oleolesaggy

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