「映画の力で人々の心を動かしたい」パレスチナ・ガザ地区を舞台にしたドキュメンタリー作品を配給

2023年10月7日、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに大規模な攻撃を仕掛けてから200日が過ぎました。ガザ地区ではイスラエル軍の攻撃によって今までに3万4000人以上が亡くなっており、大きな人道危機と言われています。そんなガザ地区を舞台にしたドキュメンタリー映画の上映と、ガザの現状を伝えるトークを組み合わせたイベントが、4月24日に日比谷図書文化館のホールで行われました。

「天井のない監獄」ガザへと留学した、イタリア人医学生

上映されたのは、2021年に製作された『医学生 ガザへ行く』という作品。主人公はイタリア人医学生のリッカルド。将来の希望は救急外科医で、その実習のため、「天井のない監獄」と言われるガザ地区へと留学する。彼はそこで多くのパレスチナ人と出会って親しくなり、医者の卵としてイスラエル軍に撃たれた負傷者の治療を手伝ったり、空爆からの避難を体験したりしながら、葛藤し成長していく…。

上映に続いては、パレスチナ人と中東地域の子どもたちの支援を行っているNGO「パレスチナ子どものキャンペーン」事務局長の田中好子さんが登壇。ガザの現状とNGOとしての取組みについてトークを行いました。その内容のごく一部ですが、紹介いたします。

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NGO「パレスチナ子どものキャンペーン」事務局長の田中好子さん
「ガザの病院が、大きな病院が24ぐらいあるんですけど、今稼働しているのは3つぐらい。それも部分的な稼働なんですけど。大きな病院がほとんどダメになっていて。今は現地のNGOの診療所、ずっと前から支援しているところですけど、そこもホントに人がいっぱい来てて。でも薬が段々もうなくなってきていて…」

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現在、外国人はガザ地区への立ち入りが禁止されているため、「パレスチナ子どものキャンペーン」は、現地のメンバーなどの力を借りて、活動を続けています。さてこの日の客席に居た方々にも、お話を伺いました。

来場者の男性
「ニュースになるよう出来事はそれでまた胸が痛いんですけど、こういう普通の人間が生きているんだというのを改めて見て、じゃあそれに対して、もう1回ニュースの話に今度戻っていって、私たちが何か出来るのか出来ないのか、ちゃんと考えなきゃなと改めて思いました」

来場者の女性
「やっぱり半年以上経ってしまって、知り続けることとか発信し続けることがすごく大事なタイミングだと思うので、来られて良かったなと思いました」

来場者の男性
「自分は以前ちょっとヨルダンに住んでたことがあったんですけど、現地の友人にどういう状況か聞いて、自分でどういった支援が必要かというのを聞いてみたりとか、寄付だったり発信だったりしていけたらいいなと思います」

ガザ地区の人々の素顔を捉えた3作品

このイベントの主催は、映画の配給などを業務とする、ユナイテッドピープル。その代表・関根健次さんに、お話を伺っています。

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ユナイテッドピープル株式会社 代表取締役 関根健次さん
「去年10月のハマス・イスラエル間の紛争勃発以降、何とかこの戦争は1日も早く終わるようにということで、ガザ関連作品をこれまでに3作品届けてきました」

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その3作品というのは、『医学生 ガザへ行く』の他に、『ガザ 素顔の日常』と『ガザ・サーフ・クラブ』です。『ガザ 素顔の日常』は、ガザに生きる人々、タクシードライバーやラッパーの若者、大学生などの日常を追いながら、そこに戦争の影が差し込む様を捉えた作品。『ガザ・サーフ・クラブ』は、実はガザは地中海に面しているので、風が強い日には、絶好のサーフポイントになるというわけで、若者たちがビーチでサーフィンを楽しむ姿を収めています。元はおととし初公開した『ガザ 素顔の日常』の再公開・再上映からスタート。それに続けて関根さんは新たに2作品、『ガザ サーフクラブ』『医学生 ガザへ行く』を買い付けて、公開や上映活動を行っています。

活動の原点は、学生時代のガザ地区訪問

ユナイテッドピープルでは、戦争や飢餓、貧困や人権、気候変動等々社会的な問題をテーマにしたドキュメンタリー映画の配給を主に行っています。実はガザは、関根さんの活動の原点とも言える場所。今から25年前の学生時代、バックパッカーとしてガザを訪れた関根さんは、そこで子ども達と交流した際、衝撃的な経験をしたのです。

ユナイテッドピープル株式会社 代表取締役 関根健次さん
「子ども達の夢を聞いてたんですけど、多くの子ども達が、将来誰かの役に立ちたい、お医者さんになりたいとか、学校の先生になりたいとか、そういう夢を答えてくれたんです。その中でたった1人ですけど、『いつか僕は大人になったら、イスラエル人・ユダヤ人を沢山殺したい』そんな歪んだ夢を持ってる子どもとも出会ってしまいました」

その少年は目の前で、おばがイスラエル兵に射殺された経験から、爆弾を作って復讐することが夢になってしまったのです。関根さんはその時、彼の考えを変えられなかったことが原体験となって、やがて映画の力で人々の心を動かし、平和で戦争のない世界へと、一歩ずつでも近づいていくことが、大きな夢になったのです。

本日紹介した中で、『医学生 ガザへ行く』は、これから東京都内での上映が予定されています。5月16日(木)からJR田端駅下車の「シネマ・チュプキ・タバタ」で、17日(金)からは青梅市の「シネマネコ」でご覧になれます。詳しい情報や、各作品の上映活動に興味がある方は、ユナイテッドピープルのホームページをご覧下さい。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当・松崎まこと(放送作家/映画活動家))

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