「生理はなるべく止めたほうがいい」産婦人科医が語る、男も知らなきゃマズイ「生理」の基礎知識

ほとんどの女性が経験する生理だが、男性の多くはその知識がない


ほとんどの女性が経験する生理だが、男性の多くはその知識がない
もちろん存在は知っているけど、メカニズムやそもそもなぜ存在しているのかは知らない......。そしてなぜか話題にするのはタブーっぽい......。人類の半分が経験するのに僕らは知らなすぎる!ということで、そんな「生理」に関して、山王ウィメンズ&キッズクリニック大森の院長でYouTubeやTikTokでも性の情報を発信している産婦人科医の髙橋怜奈医師に質問をぶつけてみた!

*  *  *

■男にも生理があるって本当?

――まず何がわかっていないのかもわかっていないんですけど、そもそも「生理」ってなんなんですか?

髙橋怜奈医師(以下、髙橋) まず、子宮の内側に子宮内膜という膜があるんですけど、そこが排卵前には赤ちゃんを迎え入れる準備のために1㎝ほど厚くなるんです。ベッドのようなイメージです。

――妊娠しなくても?

髙橋 妊娠しなくても、です。厚いと着床もしやすくなるので。ただ、卵巣から卵子が排卵されて精子と出会うために卵管に送られるも、「今月は妊娠しなかった」となると、いったん作った内膜は不要になるので、その赤ちゃんのベッドが剥がれるんです。

その剥がれた子宮内膜が膣(ちつ)に出ていくのが生理です。なので、生理の血液はただの血ではなく、子宮内膜を含んでいます。

――つまり、排卵と生理はズレている?

髙橋 そうですね。排卵の約2週間後に生理が起きます。

数㎜だった子宮内膜は妊娠の準備のために1㎝ほどに厚くなる。卵巣から出た卵子は精子と出会うために卵管に入る。しかし、妊娠が確認されなかった場合は子宮内膜が剥がれて膣から血液と共に排出され、新しい層の子宮内膜が厚くなる。これが生理のメカニズム


数㎜だった子宮内膜は妊娠の準備のために1㎝ほどに厚くなる。卵巣から出た卵子は精子と出会うために卵管に入る。しかし、妊娠が確認されなかった場合は子宮内膜が剥がれて膣から血液と共に排出され、新しい層の子宮内膜が厚くなる。これが生理のメカニズム
――生理自体は1ヵ月に1回来るものですよね。

髙橋 周期は人によるのですが、25~38日の周期であれば正常です。1週間以上、生理がズレる場合は生理不順です。いつも25日周期だった人が38日になったら、正常な周期の範囲内ではあるものの生理不順になります。

――なるほど。そんな生理は、何歳で始まって何歳まで続くんですか?

髙橋 いわゆる初経(しょけい、初潮)っていうのが平均して12歳くらいにあって、50歳くらいで閉経する方が多いです。

ただ、個人差があって、9歳で始まる人や55歳まで生理が続く人もいれば、逆に早発閉経といって、40歳未満で閉経する場合もあります。

――生理に痛みが伴うのはどうしてですか?

髙橋 生理痛は、血液を子宮の外へ押し出す際、子宮の周囲の筋肉が収縮することによって生じる痛みです。

――生理の前はホルモンのバランスが崩れて、イライラしたりするというイメージがあるんですけど、これは合っていますか?

髙橋 実はそれには少し勘違いがあって、正確には「ホルモンバランスが崩れるから」ではなく「ホルモンバランスが整っているから」そうした生理前の症状が起きるんです。

イライラしたり、落ち込んだり、むくんだり、食欲が出たり。そういうのをPMS(月経前症候群)っていうんですけど、PMSは排卵してから生理が来るまでの間に、分泌されるホルモンの量が急激に変化することで起きるんです。

ホルモンバランスが崩れている人は逆にホルモンが正常に働かないので、比較的PMSが軽かったりします。PMSの程度はその人の体質やメンタル、あと普段の生活でどのくらいストレスを受けているのかも影響します。

――なるほど。ちなみに、男性にも月に1度調子を崩す「男の生理」があるって聞いたことがありますが......?

髙橋 ないですね!(きっぱり)。まず、1ヵ月周期で変動するようなホルモンはないです。

――で、でもどうにも調子が出ないときがあるんです!

髙橋 男性の場合は気圧や天気などの影響だと思われます。それは女性にも影響するものですから、男性の生理とはいえません。

例えば、必ず月1でそういう週があるという場合も、気が重い月例会議があるとか、給料日前とか、そういうストレスの影響も大きいと思います。

■戦前に比べて生理は9倍増!

――CMとかを見ていると、生理痛は痛み止めを飲まないとキツいイメージがあります。

髙橋 痛みがひどい際には痛み止めは躊躇(ちゅうちょ)せず飲んでもらいたいのですが、毎回痛み止めが必要な場合は、そもそも重症な月経困難症なので検査や治療を検討したほうがいいです。

月経困難症は月経に随伴して起こる腹部や腰の痛み、嘔吐(おうと)、下痢、憂鬱(ゆううつ)な気分などのこと。痛みや経血の量はほかの人と比べることが難しいので、異常さに気づきづらいんです。

――なるほど。

髙橋 また、生理についてぜひ知っておいてほしいのは、生理は繰り返せば繰り返すほど子宮内膜症という病気のリスクが高まること。そのため、実は妊娠を希望していない間は生理を止めておいたほうがいいんです。生理を繰り返すメリットは一切ありませんから。

――生理を止める?

髙橋 はい。ただ、こういう話をすると「生理を止めると体の中に悪いものがたまっちゃうんじゃないか」とか「次に生理が来たときにすごく重い生理になっちゃったりするんじゃないか」っていう心配をされる人がいるんですけど、そんなことはないんです。

生理自体、子宮の負担になっているし、排卵も月に1度卵巣から卵子が卵巣の壁を突き破って出ているので、卵巣に傷がついているんです。排卵を繰り返すことで卵巣がんのリスクが高まるので、妊娠を希望しない間はピルを飲むなどして生理と排卵はなるべく止めたほうがいいです。

昔の人ってたくさん妊娠と出産をしていたじゃないですか。妊娠中とか産後は生理が来ないので、戦前の女性が人生で経験する生理の回数がすごく少なくて、人生で50回くらいしかなかったっていわれているんです。

一方で、現代の女性って平均して一生で450回も生理があるっていわれていて、なんと9倍に増えているんです。それだけ卵巣や子宮への負担も大きくなっているわけです。

ピルは1日1錠内服する必要がある。一方、エストロゲンが入っていない黄体ホルモンだけの薬・ジエノゲストは1日2錠内服する


ピルは1日1錠内服する必要がある。一方、エストロゲンが入っていない黄体ホルモンだけの薬・ジエノゲストは1日2錠内服する
――では、どうやって生理の負担を軽減するんですか?

髙橋 まず、月経困難症の治療法は大まかに3つあります。

ひとつ目はピル。通常、ピルにはエストロゲン(卵胞ホルモン)と黄体ホルモンという2種類のホルモンが入っています。それらが排卵や子宮内膜が厚くなるのを防ぎます。ピルは基本的に1日1錠内服します。

ふたつ目はジエノゲスト。これはピルと違い、エストロゲンが入っておらず、黄体ホルモンだけの薬で、1日に2錠内服する必要があります。ピルは「飲むと具合が悪くなる」というイメージを持たれていたりしますが、それはエストロゲンによる作用が大きい。エストロゲンによって飲み始めに気持ち悪くなったり、頭痛が起きたり、血栓症のリスクが高まったりするんです。

ジエノゲストにはエストロゲンが入っていないので、吐き気や頭痛などの副作用はほぼありません。血栓症のリスクも上がらない。例えば、子供を持つ予定のない40代の人にピルを処方するとなると血栓症のリスクがあるため慎重投与になりますが、ジエノゲストを処方するのは問題ないんです。

ただ、避妊効果があるとはいえません。ピルには99%避妊効果があるのに対し、ジエノゲストはたまに排卵してしまうので、避妊薬ではなくあくまで月経困難症の治療薬。

3つ目はミレーナ®。子宮に直接入れるタイプの黄体ホルモン製剤で避妊もできます。一度入れると5年間は効果が持続し、過多月経や生理痛が重い人の治療になります。

ミレーナ®は黄体ホルモンを含む小さなT字形の子宮内避妊具。医師によって子宮内に挿入され、ホルモンを徐々に放出し、子宮内膜を薄くすることで妊娠を防ぐ


ミレーナ®は黄体ホルモンを含む小さなT字形の子宮内避妊具。医師によって子宮内に挿入され、ホルモンを徐々に放出し、子宮内膜を薄くすることで妊娠を防ぐ
――直接入れるタイプ!?

髙橋 T字形のデバイスを子宮内に留置します。その中にジエノゲストと同じように黄体ホルモンが入っていて、それが5年かけてじわじわと出てくるんです。

これによって子宮内膜が薄くなるので、剥がれる所が少なくなり、経血の量も痛みも減る。子宮頸管(けいかん)粘液を濃くして精子の移動を妨げる効果もあるので、避妊効果もあります。

ミレーナ®を入れた人の5人に1人は生理が止まることも。内服薬ではないので内服による吐き気や血栓症のリスクもない。ただ、排卵を止める効果はないので、ホルモンの波はそのまま。そのため、PMSに効果はありません。

ちなみに、これら3つとも月経困難症などの治療目的であれば保険適用内なんですよ。

――そうなんですね! 話を聞いていたら、PMSや生理痛の程度によらず、ジエノゲストなどを服用して付き合うのがいい気がしてきました。

髙橋 そうなんですよね。当院を受診される40代後半の女性も「生理はキツいけど、あと2、3年の辛抱だから」と話すことが多いのですが、必ず50歳で終わるものではありません。もしかしたら55歳まで生理が続くかもしれません。

また、「修学旅行とかぶってほしくないから生理をズラしたい」と来院する中高生もけっこういますが、月経移動を目的とした処方は治療目的ではないので保険適用外なんです。

しかも中高生はイベントが多い時期ですよね。ズラしたとしても、試験や部活の大会、そして受験と続くわけですから。スポーツのパフォーマンスにも当然影響しますし、月経困難症が重い女性は学校の成績が悪いという論文もある。

私としては、生理じゃないときに発揮できるパフォーマンスが生理のときに発揮できないんだったら、月経困難症の治療をオススメします。

生理は周期も重さも人それぞれ。本人もその周囲の人も、生理との向き合い方を一度考えてみてほしいと思います!

イラスト/中村優介 写真/時事通信社 AdobeStock iStock

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