世界から注目される「ゼロ・ウェイスト」。日本の先駆け徳島県上勝町のごみゼロ活動
エコ、サステナブル、SDGsなど、環境への関心が高まっているなか、「ゼロ・ウェイスト」というキーワードを耳にしたことはあるだろうか? 無駄、浪費、ごみをなくし、出てきた廃棄物をどう処理するかではなく、そもそもごみを生み出さないようにしようという考え方だ。
日本では、5つの自治体がゼロ・ウェイスト宣言をしており、町をあげて取り組んでいる。そのなかでも全国に先駆け、ゼロ・ウェイストタウンとして取り組みをおこなうのが、徳島県・上勝町だ。リサイクル率はなんと80%以上(全国平均は約20%)、ごみは13種類43分別! いったいどんな取り組みがおこなわれているのだろうか。上勝町役場・企画環境課の菅翠さんに話を聞いた。
「ゼロ・ウェイスト宣言」の始まり
今では全国的に注目されている上勝町。菅さんによると、上勝町がゼロ・ウェイストタウンとなった背景には、野焼き禁止などの時代背景があったという。
「もともと、上勝町では野焼きでごみを燃やしていました。野焼きが法律で禁止になり、小型焼却炉を使用することになりましたが、その焼却炉もダイオキシンの問題で使えなくなっていきました。
そうした状況のなかで、環境に負担なく、安定的にごみを処理していくためにどうすればいいのか、町内で検討しました。そこで、なるべく分別して資源化し、ごみを出さないようにする取り組みが始まったんです」
ゼロ・ウェイスト宣言をしてから取り組みを始めた、と勘違いされることも多いが、“ごみをできるだけ燃やさないために多分別をする”独自のごみ処理の体制は、宣言の前からすでにおこなわれていた。
「多分別を続けるなか、環境問題の根本的な解決をめざして活動するNPO法人グリンピース・ジャパンを通じて、アメリカのポール・コネット博士が視察に来られました。そこで、博士が提唱している『ゼロ・ウェイスト』の理念が、自分たちの取り組みと重なることを知ったんです。
理念をもとに上勝町が目指していく姿が話し合われた結果、2003年、町議会の満場一致で『ゼロ・ウェイスト宣言(ごみゼロ宣言)』が採択されました。多分別の体制が整っていたからこそ、町として宣言できたんです」
ゼロ・ウェイスト宣言により、「ごみの再利用・再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくす最善の努力をします」と掲げた上勝町。「ごみゼロ」を目指すことに、住民からの反発はなかったのだろうか。
「もともと、ごみ分別の負担に対してネガティブな意見もありました。でも、“次世代に、ごみの問題を残したくない”と考える住民の皆さんが主体となって動いたことで、同じ住民の立場としての理解が広がった経緯があります。また町役場は、55の全集落を回って皆さんに説明会をおこないました。
最終的には、自分たちの住む上勝町が、将来どうありたいかを実現するための“ゼロ・ウェイスト宣言である”ということが、理解されたのではないかと思います」
ごみの分別は13種類43分類!
全国的には、11~15のごみ分別をおこなっている自治体が最も多いが、上勝町では、13種類43分類の分別がおこなわれている。2020年には、ゼロ・ウェイストセンターというごみ回収施設が完成した。ごみ回収車がない上勝町では、住民自身がごみを持ち込み、所定の場所にごみを分別していく。
瓶で4種類、紙では9種類などかなり細かい分別。そのなかで最も大変なのは、プラスチックの分別だという。
「プラスチックは、プラマークのついている容器包装プラスチックと、それ以外の製品プラスチックがあります。例えば、食品などを包んでいる袋・トレーなどは、容器包装プラスチックです。
一方、製品そのものがプラスチックのバケツなどは、製品プラスチック。ジップロックなどの袋は、一見すると容器包装プラスチックと思われますが……じつは製品プラスチックなんです。難しいですよね。ゼロ・ウェイストセンターには職員が常駐していますので、紛らわしい分別などに関しては皆さんの手助けをしています。
分別したごみは、資源として業者に引き取ってもらうまで、ゼロ・ウェイストセンターのストックヤードに置いておきます。洗い残しがあるとカビが生えてしまうので、汚れているものは容器包装であっても、その他のプラスチックに入れて固形燃料にするか、プラスチックとして引き取ることが難しい状態であれば焼却処分となります。
でも、食品に触れていたものなどを完全にきれいにするのは大変です。住民の皆さんの協力あってこそ、多分別が実施できています」
少しでも前向きに取り組んでほしいと、町が指定する8種類のごみを分別して持ち込んだ場合には、ポイントがもらえる「ちりつもポイント」が導入されている。ポイントは、町内で使える商品券や日用品、子どもが使う学校用品などに交換できる。積極的に活用されているという。
ゼロ・ウェイストセンターで分別されたごみは、リサイクル業者に引き取られ資源化される。紙類や金属類は有価で引き取られるため、年間150万円程の収入になるという。また、そもそもごみになるものを生み出さないようにするためには、製造業者との連携も不可欠だ。
「現在、洗剤などの詰替容器は花王株式会社が、歯ブラシはライオン株式会社が、テラサイクルの回収システムを通してリサイクルしてくれています。
豆乳容器などのアルミ付き紙パックは、リサイクルが難しいもののひとつ。これも株式会社日誠産業に回収してもらうことによって、資源化が可能になりました。町内にはリサイクル業者はありませんから、外部と積極的に連携しながら住民の負担を少なくすることも課題です」
2017年からは、町内の飲食店に対し8種類の基準に応じて公的に認証する、「ゼロ・ウェイスト認証」制度が開始された。購買力が個人よりも大きな店舗が、ゼロ・ウェイスト商品やごみの出にくい仕入れを推進することで、より大きな効果を狙っている。
「現在は、4つの店舗が認証されています。量り売りを始めとして、卵が1つから購入できるといった、消費者がフードロスを出さない工夫をすることができる仕組みを作るなど、さまざまな取り組みがおこなわれています。認証事業者がこれからもっと増えるといいですね」
上勝町が最初に取り組んだのは生ごみの処理
自分たちの住む自治体でもできる取り組みはあるだろうか。
「自治体のルールに従って、ごみをきちんと分別するということが大切です。そのうえで、ものを捨てる時点ではなく、手に入れる時点で、ごみを出さない選択をしてみるのはどうでしょうか。
例えば、より長く使えるものや使い捨てではなく、繰り返し使用できるものを選ぶといいと思います。選択肢は都市部のほうが多いと思いますので、実践しやすいのではないでしょうか」
コンポストや生ごみ処理器の利用も、私たちが取り組める選択肢のひとつだ。じつは、上勝町で最も早く取り組んだのは生ごみの処理。焼却ごみの40~50%が、水分が多く焼却に適しない生ごみであることがわかり、先に解決したのだという。
「上勝町では、生ごみは各家庭で処理する体制になり、回収をおこなっていません。ほとんどの家庭が、生ごみ処理器やコンポストを使い、堆肥に変えています。
最近では『バクテリアdeキエーロ』という、土にいる微生物の力で生ごみを分解する処理器も導入が進んでいます。土の中に埋め込むため、ニオイが気になりにくいですし、生ごみは堆肥ではなく土に還るので、堆肥を持て余してしまう都市部でも使用しやすいようです」
「小さな町だからできるんだ」と言わないで
環境への取り組みの必要性が高まるにつれ、ゼロ・ウェイストタウンの先駆者の活動を見るために、上勝町には国内外から視察に訪れる人も多い。じつは、菅さんには気になっていることがあるらしい。
「町を視察したあと、“人口1400人の小さな町だからできることですね”と言われることが多いんです。確かにその通りで、私たちは自分たちの小さな町の状況に合わせて取り組んできました。それを、他の場所で全く同じようにできないのは当たり前ですよね。
でも、町の小ささだけを取り組みができる理由とは考えてほしくない、というのが正直な気持ちです。ゼロ・ウェイストの考えや方法の一部を、その地域や状況に合わせた形にして、ぜひ取り入れていただけたらと思います」
現在、ゼロ・ウェイストの考えを都市に合わせた取り組みも実施されている。
「上勝町地方創生支援などをおこなう徳島県の企業・株式会社スペックが、三菱地所株式会社と協力して活動しています。
三菱地所の物件内に設置したコンポストでは、施設から出る生ごみを液肥化し、その液肥を活用して育てられた農作物が、社員食堂で使われているんです。また、同じように育てられた米を使い、上勝町内のブルワリー「RISE & WIN Brewing Co.」では『TOWNCRAFT~まちの未来を考えるビール~』が作られました。
今年5月には、ビールを楽しみながら、上勝町の取り組みを身近に感じてもらうためのイベントが東京千代田区で開催されたんです。まさに、ゼロ・ウェイストを都市でも継続できる形で取り入れた例だと考えています。こうした取り組みが、これから増えていくといいですよね」
2020年に向けて、ごみを減らす目標でおこなわれたゼロ・ウェイスト宣言。新たに、2030年に向けた宣言がおこなわれ、さらなる取り組みが続いている。
「現在、リサイクル率は約80%を推移しています。住民と行政という、消費者の立場でできる限界まできたのではないでしょうか。
新しい宣言で盛り込んだ『ゼロ・ウェイストで、私たちの暮らしを豊かにします』『町でできる、あらゆる実験やチャレンジをおこない、ごみになるものをゼロにします』という部分には、すでに精いっぱい取り組んでいる住民への負担を増やすのではなく、製造者やリサイクル業者とさらに連携して解決を図る、という思いが込められています。
住民の負担を減らしながらも、継続・発展させていくにはどうしたらいいのか、という段階になってきたと感じています。これからもさまざまな方法を検討し、進めていきたいと思います」
世界規模で環境問題が取り上げられているなかで、「ゼロ・ウェイスト」の理念が広まり、浸透するのは時間の問題ではないだろうか。自分がいる場所でもできる取り組みから始めていきたい。
(取材:三郎丸 彩華)
10/18 12:00
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