AIの基盤技術にノーベル物理学賞、受賞のヒントン氏「様々な悪影響が制御不能に陥る脅威も」

 2024年のノーベル物理学賞は、人工知能(AI)の基盤技術である機械学習を確立した米国とカナダの2人に贈られることが決まった。AI技術の応用によって社会の利便性が高まる一方、弊害も深刻化しており、専門家たちは、今回の授賞決定はAIの影響力の大きさを示した結果とみている。

 同賞選考委員会は8日、米プリンストン大のジョン・ホップフィールド名誉教授とカナダ・トロント大のジェフリー・ヒントン名誉教授について、「2人の研究は既に多大な恩恵をもたらした。新素材の開発など多くの分野で使われている」と称賛した。

 選考委員会は2氏の功績の関係者として、AI技術の源流となる「神経回路モデル」を考案した福島邦彦・元大阪大教授も挙げた。

 AIの性能は、機械学習によって劇的に向上した。16年にはAIの「アルファ碁」がトップ棋士に勝利し、世界を驚かせた。AIが急速に社会の注目を集め、開発競争が激化した。

ジョン・ホップフィールド氏(左)(米プリンストン大のHPから)とジェフリー・ヒントン氏

 慶応大教授の杉浦孔明・慶応AIセンター長は「今回の授賞はAIの社会的な影響力の大きさが認められた証左だろう」と語る。

 一方、生成AIで作成された偽動画の拡散など、AIは社会の混乱の一因にもなっている。ほかにも、AIの軍事転用などへの懸念が強まっている。

 同日、電話で記者会見したヒントン氏は「様々な悪影響が制御不能に陥るという脅威も心配しなくてはならない。人間より賢いシステムが生まれ、(私たちを)支配するのではないか」と懸念を示した。ノーベル賞の歴史に詳しい小山慶太・早稲田大名誉教授(科学史)は「選考委員会は、AIの負の面について社会に警鐘を鳴らすメッセージも込めているはずだ」と指摘する。

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