処理水放出巡る風評被害払拭へ専門家「地道な取り組み大切」…日本産水産物、中国が輸入再開見通し

デブリの取り出し作業が中断している福島第一原発(10日、読売機から)=米山要撮影

 東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を巡り、中国が日本産水産物の輸入を再開する見通しとなり、国内水産業界が苦境から脱する契機となることが期待されている。とはいえ、風評被害はまだあり、専門家は、日本の関係機関が丁寧な情報発信を続ける重要性を指摘する。一方、2011年の原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しが順調に進まなければ、処理水が発生し続ける可能性がある。(科学部 中根圭一)

飲料水基準を下回る

 処理水の海洋放出は昨年8月に始まり、これまで8回に分けて6万2631トンが放出された。処理水は、原子炉内に残るデブリを冷却した後の汚染水から、トリチウム(三重水素)以外の放射性物質の大半を取り除いた水だ。

 環境省による調査では、海水中のトリチウム濃度は最大で1リットルあたり5ベクレルで、世界保健機関(WHO)の飲料水基準(1リットルあたり1万ベクレル)を大きく下回っている。原子力規制委員会、水産庁、福島県なども周辺の海域や魚に含まれる放射性物質を測定し、人や環境への影響がないことを確認している。

 国際原子力機関(IAEA)は調査団を日本に派遣するなどして、独自の調査を行ってきた。今年7月に公表した報告書は、処理水放出に関わる機器について「国際的な安全基準に合致した方法で設置、運用されている」と評価し、処理水放出の安全性を認めている。

環境や人体に影響なし

 風評被害を抑えるには、丁寧な情報発信が欠かせない。

 処理水の海洋放出に詳しい山本一良・名古屋学芸大副学長(原子力工学)は、中国のこれまでの対応について、「IAEAの調査団には中国の専門家も加わり、処理水の安全性が科学的に証明されている。にもかかわらず、中国政府は日本産水産物を禁輸する措置を続けた」と指摘する。

 処理水の安全性については「放出されているトリチウム濃度は国の規制基準(1リットル当たり6万ベクレル)の40分の1未満に薄めており、処理水の放出は環境や人体に影響を与えるものではない。日本政府や東電は国際社会の信頼を得るため、周辺海域などでの測定データを公明正大に公表するなど、地道な取り組みを続けることが大切だ」と述べた。

デブリ取り出し中断

 東電は今後約30年かけて放出の完了を目指しているが、原子炉内に残ったデブリの取り出しが進まなければ、放出の完了時期が見通せなくなる可能性がある。

 処理水はデブリを冷却、浄化した際に発生するため、デブリを除去できないままでは、処理水が出続けるためだ。デブリの取り出しは、当初の計画から既に約3年遅れとなっている。この状況が長引けば、政府・東電が目指す51年までの廃炉完了も難しくなる。

 東電は今月10日、デブリの試験的な取り出しに着手したが、取り出し装置に付けたカメラ2台の映像が確認できなくなり、作業が中断した。原因を調べるため、23日以降に装置を原子炉内から引き抜く作業を始めるが、着手前の段階に戻ることになり、中断の長期化は避けがたい状況だ。

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