”経営の神様”といわれた稲盛和夫さんが「人間として偉いかどうかは地位ではなく人柄だ」と説いていた意味
〈”経営の神様”と称された稲盛和夫さんが生前に語っていた「人の思いや考え方が運命を変える」の意味〉から続く
京セラと第二電電(現KDDI)を創業、経営破綻した日本航空(JAL)の会長として再建を主導し、「盛和塾」の塾長として経営者の育成にも注力した稲盛和夫さん(享年90歳、2022年8月逝去)。
そんな稲盛さんが説いた「立派な人」の定義。生前、若い人に向けたメッセージをまとめた新刊『「迷わない心」のつくり方』(サンマーク出版)よりお届けする。
何をもって「立派な人」か
世の中には立派な人がたくさんいらっしゃいます。総理大臣、大臣、知事、市長、または私のように大きな会社の社長など、いろいろな人がいます。
しかし、何を基準に偉い人なのか偉くない人なのかを見ればよいのかといえば、それはその人の人柄なのです。人格といってもよいでしょう。
人間として偉いか偉くないかを比べるときには、人柄で比べるべきなのです。すばらしい人柄を持った人は、人柄の悪い大会社の社長よりも、はるかに人間として立派なのです。
みなさんにはぜひ今後の日本を背負って立つような人になっていってほしいと思います。すばらしい人柄を持った人たちが住んでいる日本、それがすばらしい日本になっていくのです。
経済が強いとか、技術的に強いということだけが日本の国を立派にするのではありません。日本に住む各界各層の人たちがすばらしい人柄を持ち、すばらしい人間性を持てば、世界のどの民族からも日本は尊敬と信頼をされるに違いありません。
どんな経済力を持つよりも、どんな技術力を持つよりも、他の民族が「日本、そして日本人というのはすばらしい。頭が下がるくらいにすばらしい人間性を持っている。あの人たちこそ、全人類の中で大事にしていかなければならない人たちだ」と思ってくれるような日本と日本人になる。世界中の民族が尊敬してくれるような民族に、日本の国はなっていくべきだと思っています。
今後は少子高齢化となっていきます。日本の人口が減り、経済力も落ちていくだろうといわれていますが、一番大事なことは、日本はすばらしい人間性を持った人々が住んでいる国だ、平和ですばらしい国だと世界中の人たちから尊敬を受け、信頼をしてくれるような国になることなのです。
あらゆるものに感謝する
世界のどの基準から見ても、あの人は立派だ、あの人は偉いという基準になっているのは人柄であり、人格です。立派な人格を持っていることが最も大事なのです。
それはどういう人格なのかといえば、優しい思いやりを持ち、あらゆるものに常に感謝をする人です。
みなさんの場合にはご両親に感謝をし、きょうだいに感謝し、先生に対しても、また周囲にいる町の人たちにも感謝をし、平和に生きられることにも感謝をする。そして、そういう環境にあるだけに、思いやりの心で少しでも他人(ひと)さまのお役に立つようなことをする。
先ほど、みなさんが掃除をしていらっしゃる様子を拝見しましたが、みんなのためにという思いやりの心で、美しく気持ちのよいお便所になるよう一生懸命に掃除をしておられます。
つまり、自分が犠牲を払って他人のために尽くしてあげるというものが「思いやりの心」なのです。これはどんな思いよりも大事な思いです。
たいへん難しい科学技術の研究をするのも、大会社を経営するのも、思いやりの心がベースになって研究をしていくなら、経営をしていくなら、それはよい研究、よい経営になっていきます。
思いやりどころか、自分だけよければいいというエゴ丸出しで会社を経営し、自分だけがうまくいけばいいのだと思って研究をしたのであれば、ろくでもない経営、ろくでもない研究しかできません。
よい考え方、よい心というものは、肯定的で明るく、善意に物事を考えるということです。悪い考え方、悪い心というのは、否定的で、悪意に物事を解釈するということです。
みなさん、ぜひ明るく肯定的に、善意に物事を考えるということを心がけるようにしてください。私の話を聞いて、なるほどと思っても、それをすぐに実行に移すことは難しいでしょうが、ぜひ心がけていただきたいと思います。
(2006年12月22日 善通寺市立東中学校での講演より)
11/23 11:00
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