公立学校の教員に残業代を支給検討も「部活動手当は1日最大3600円」…割に合わない長時間労働と処遇の実態

公立学校の教員に残業代を払う仕組みについて、11月3日に関係省庁が検討を始めたという一部報道が出た。現行では残業代の代わりに一定額を給与に上乗せする「教職調整額」制度がとられているが、それを廃止するのだという。しかしその後、5日に阿部文科相が「廃止は考えていない」と否定する事態に。

【画像】「行事や持ち回りの授業などで、しわ寄せがいくのは若手ばかり」とも…

 

公立学校の現場では、教師の長時間労働や処遇の実態はどうなっているのか。教員たちに話を聞いた。

「部活動手当は2時間から4時間で一律1800円、4時間以上は一律3600円」

“聖職”とされる教員たち。その長時間労働や処遇の実態については、あまり知られていない。

現在の教職給与特別措置法(給特法)では、残業代の代わりに教職調整額が支給されている。教員調整額のパーセンテージは月給の4%であるところを、文部科学省は3倍超の13%に増額する案をまとめ、2026年度の予算に組み込む姿勢を示していた。

だが、公立学校教員の処遇改善のために、残業時間に応じた手当を支払う仕組みを導入する案が政府内で浮上、関係省庁が検討を始めたという報道が3日になされた。それに対し、阿部俊子文部科学相は5日の閣議後記者会見で「検討が行われているとは承知していない。給特法の廃止は考えていない」と述べ、事態は混乱している。

現場の教員たちはどう感じているのだろうか。

関西の公立中学で10年以上教員を務め、一児の母でもある広瀬さん(仮名)に話を聞いてみると……。

「教職調整額が4%から13%になっても、大して変わりませんよ」(広瀬さん、以下同)

そもそも教員の給与体系をはじめとした処遇は、どのような仕組みになっているのだろうか。広瀬さんは「あくまで、うちの市の話ですが……」と、前置きをしたうえでこう語った。

「基本給は1年で1万円ずつ上がります。あとは学年主任・生徒指導・進路指導といった役職を持てば、役職給はありませんが、評価が“A”から“S”に上がりやすくなります。評価が上がると、ボーナスの金額も高くなるんです」

評価“S”については、もらえる教員の数が決まっているのだという。評価するのは教頭と校長で、その中身はブラックボックスだそうだ。

広瀬さんは「新人時代に必死に仕事をしたんですが、仕事をまったくしていない学年主任より評価が低くて、納得いきませんでした」と苦笑いする。

「毎月もらえるのは、基本給と教職調整額が月給の4%ついて、その合計です。あとは人によりますが、部活動手当と出張手当ですね」

部活動手当とはなにか。部活の顧問をしたら、それだけでお金がもらえるのだろうか。

「平日の17時までは部活動も業務に含まれているので、手当は出ません。17時を超えたときと、土日祝に活動したときにだけ支給されます。部活動手当は2時間から4時間で一律1800円、4時間以上は一律3600円です。遠征試合に行くときのガソリン代や、電車などの交通費は支給されません。だから赤字のときもあります」

ただ、あまりに遠いときは、部活動手当から出張手当に切り替わるのだという。

「出張になれば、平日に振替休日を取ることができます。最近は、この部活動手当を出すよりも、出張扱いにして振替休日にするほうが多いですね。教員にとっても、出張のほうがありがたいです。交通費も出るし、休みも取れるので」

しかし、次年度の有給の日数は、前年度に働いた日数によって決まる。だから、あまり休むと次年度の有給が減ってしまうそうだ。

ところで、運動部と文化部への教師の割り振り方は決まっているのか。

「私のような子育て中の先生は土日に活動のない文化部にしてもらうこともありますが、そうすると運動系と違って担当が1人なので、かえって大変になることもあります」

そして部活動の他にも、長時間労働をもたらす原因があるのだという。

「日中にやることが多すぎ」行事、担当外の授業…目に見えない仕事も

「そもそも、日中にやることが多すぎるんです」と広瀬さんは苦々しく語る。

「1週間6時間コマがある中で、10時間は授業を持たない“空き時間”とされています。その10時間で本来なら授業の準備をしたり、テストの採点をしたり、宿題を見たりします」

しかし、その10時間をすべて空き時間として使えることは少ないそうだ。

「問題のある生徒の家庭訪問をしたり、学校の治安が悪くなると教室や廊下の見回りをしたりすることもあります。空き時間がなくても授業の準備はしなくてはいけないので、家に持ち帰ることになります」

広瀬さんのような子育て中の先生は17時に一度家に帰り、それから仕事をする場合も多いのだという。担当科目の授業準備の他にも、道徳やその他の授業を持ち回りで任されることもあるのだとか。

「あとは、運動会や文化祭などの行事も大変です。行事の担当になると、先生同士で打ち合わせをするのですが、時間に余裕のある先生は談笑ばかりで、すごく長引くときもあります」

これらをすべて残業代に含めるという方針に、広瀬さんは違和感があるそうだ。

「年配の先生の中には、担当科目の授業だけをしていればよくて、準備もろくにせず職員室に座っているだけという人もいます。若手の先生に行事や持ち回りの授業が任せられて、しわ寄せがいくことも……。

最近ではタブレットが市から支給されたので、市のタブレット研修を学校代表で受けに行って、学んだ内容を自校の先生たちに教える準備に追われている先生の姿も見ます。他にも目に見えない仕事もたくさんありますよ。それらをどう残業として申請するんでしょうね?」

「お金よりも、仕事を減らして、人数を増やしてほしい」

ベテラン教師にも話を聞いてみた。五十嵐さん(仮名)は、関西の公立中学で学年主任をしている男性教員だ。

勤務歴17年を超えるベテランの彼が手を焼いているのは、学年主任としての生徒指導だという。担任の先生の手に負えない案件が、学年主任のもとにくるそうだ。

「『クラスのグループLINEで、うちの子が悪口を言われた。学校でなんとかしてくれ』というクレームを、親からよく受けます。僕たちは関与していないので、当事者同士でなんとかしてほしいのですが……。LINEやSNSに関することは前例も豊富にないので対応が難しいんですよ。最近では、子どもが急に休んで保護者から電話があり、その原因がSNSだったと発覚するケースがありました」(五十嵐さん、以下同)

さらには、残業時間に含めていいか微妙な「待ちの仕事」も多いのだという。

「本来なら17時以降は留守番電話サービスに接続するようになっていますが、その機能は一時的に切ることができるんです。『この親は夜しか繋がらない』と分かっている場合には、保護者からの電話を職員室で待つときもあります。

保護者対応に手を焼いて、管理者と保護者の間で板挟みになり、心を病んで休職をしてしまう先生もいます。先生の数はもとからギリギリでやっているので、休まれてしまうと、ますます回らなくなってしまう。そんな悪循環も、最近では増えつつあります」

五十嵐さんは家に帰り「今日は空きがなかった……」と、愚痴ることも多いのだとか。

今回の報道については、「正直言って、現場ではそんなことを考えている暇がないです。お金よりも、日中にやるべき仕事をもっと減らしてほしい。そのためにも人数を増やしてほしいですね」と語った。

――聖職とされる先生たちだが、彼らも人間だ。家庭を持つ者もいる。彼らが気持ちよく働けるように、現場に即した仕組みが作られることを願うばかりである。

取材・文/綾部まと

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