「トランプを支持する保守派は人種差別的だ」という批判は正しいのか? 彼らが大谷翔平のお辞儀を見て「日本の美」を礼賛するワケ
〈〈アメリカ大統領選〉「選挙が盗まれた」ことを主張し続ける保守派の集会で、トランプの大親友が語ったこと〉から続く
トランプ前大統領を支持する保守派の人々は、日本に対して好意的な印象を抱いているという。
【写真】外国人観光客が好んで数多く訪れる、日本の神社といえば
長年アメリカで政治団体を取材するNHK記者による書籍『引き裂かれるアメリカ トランプをめぐるZ世代の闘争』より一部を抜粋、再構成しアメリカの保守層がなぜ日本に親近感を覚えているのかを解説する。
保守派は日本贔屓?
「トランプ前大統領を支持しているような保守派は人種差別的だ」という批判は正しいのか。少なくとも、一連の取材で出会ったトランプ支持者たちは、彼らとはさまざまな意味で異なるグループに属する筆者の本質的な価値観(コア・バリュー)について、大いに関心を持っていた。
少々好戦的な表現を使えば、その人の価値観について説明を聞き、敵か味方か判断させてもらうということなのだろう。彼らは、アメリカ国内では、プログレッシブやリベラルに属する人々との対話は拒否する。
外国に目を向けてみると、彼らが共産主義あるいは全体主義などと忌み嫌う国、例えば中国の人々との対話にも、基本的には後ろ向きだろう。
一方で、アメリカの保守派と価値観を共有しているかもしれないと期待できる日本人とは、対話を行い、共感しあうことを求める傾向があるように思える。
なぜ、こんなことを書くのか。それは、保守派の集会に出ていると、「日本礼賛」に遭遇することがしばしばあるからだ。仮に、彼らが100パーセント人種差別主義者だったら、日本人は敵になるが、これまでの取材で、日本人や日本を蔑むような表現は聞いたことがない。
アメリカの保守派政治コメンテーターのタッカー・カールソン氏も、筆者がそれまでに会ってきた保守派の人たちと同じような感覚を持っているようだ。スピーチの中で、中国はプラスチックゴミで町が汚れているという趣旨の話をした後、日本に言及した。
「もし、何かが美しかったとしたら、それは何を意味するのでしょうか。美は文化を超越します。日本に行ったとします。あなたは、日本語をしゃべらないでしょうし、神道についても多くを知らないでしょう。
しかし、神社に行って最初に気付くのは、美しいということです。500年前の日本の人々は、どのようにして、この建築物を思いついたのでしょうか。あらゆる美は同じなのです。美とは真実です。真実は美しいのです。それは見せかけではなく、本当のことなのです。最上の美しさには実態があるのです」
「これこそ日本の美だ」
なぜ、カールソン氏は日本を礼賛するのか。それは、アメリカの保守派と日本の伝統文化は、コア・バリューを共有していると考えているからだ。
「美とは真実です」と述べて、日本の神社の「美」と、保守派の人たちが固く信じる「真実」(カールソン氏はtruthという言葉を使っていた)は同質のものだと説く。
保守派の人たちは、リベラル寄りのメディアが、自分たちに都合の良い報道ばかりすることで、「真実」を捻じ曲げていると考えている。
選挙ではリベラル派が不正を行って「真実」の結果をゆがめ、選挙という民主主義の根幹を揺るがしていると認識している。
トランプ前大統領が立ち上げたソーシャルメディアの名称は、その名も「Truth Social」、つまり「真実」のソーシャルメディアだ。彼らが信じるところの「真実」は普遍的だ。だから自分たちは正しいという理屈だ。
さらに、これは、洋の東西を問わないと彼らは説く。自分たちは人種差別主義者ではないという主張にもつながっていく。
話が少々横道にそれるが、アメリカでの「日本礼賛」の傾向は、政治思想に関係なく広がっていると感じる。筆者は、2009年からの3年間ニューヨークに駐在し、しばらく日本で勤務した後、2019年からは4年間ロサンゼルスに駐在したが、2回の駐在期間を比べると、1回目より日本贔屓の人が増えていると感じる。
日本に対する関心や理解が全米レベルで広がっていることを実感する。1回目の駐在時は、ニューヨークでも店を選ばないと、美味しいラーメンにありつくことができなかったが、2回目は、どこでも、例えば南部のテキサス州でラーメン屋に入っても、本格的な味を楽しむことができた。
全米レベルでラーメンという食文化が浸透し、アメリカ人にとって身近になっていることを実感した。厨房に日本人あるいはアジア系と思われるスタッフがゼロでも、しっかりしたラーメンが出てくる。
また、最近では、大リーグでの大谷翔平選手の活躍もプラスに効いている。アメリカでは、一番人気のスポーツが野球だと思ったことはないが、それでも大リーグは大リーグだ。アメリカのスポーツメディアは、大谷選手の一挙手一投足を取り上げ、それこそ軽くお辞儀しただけでも、「これこそ日本の美だ」という調子で報道する。
バイデン大統領までが買収反対の声明を
2019年からの4年間の駐在時は、アジア系住民に対するヘイトクライムは深刻で、少なくない数の日本人も被害に遭ったが、アメリカという国全体としては日本に対する印象は良くなったと感じている。
保守派の価値観の話に戻ろう。彼らは、日本というある意味での理想郷の人々と価値観を共有しているのだから、自分たちは人種差別主義者では断じてないと考える。一方、同じアジア系でも中国のことは、容赦なく批判する。
民主主義国家とは大きく異なる中国政府の価値観や政治思想、国としての政策や行動を批判している限りは、必ずしも人種差別的とは断定できないだろう。
ただ、中国をかつてのソビエト連邦に代わる邪悪な敵と決めつけて憎悪の度合いを強めているのは、それこそトランプ前大統領が掲げるような「アメリカ第一主義」が持つ排他的要素の表出に他ならない。
実際、彼らにとって日本が思想上の理想郷だとしても、日本企業によるアメリカ企業の買収には反対する。2023年12月、日本製鉄はアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収を発表したが、保守派に支えられるトランプ前大統領は、「私なら即座に阻止する」と述べた。
さらに、バイデン大統領までが買収反対の声明を出した。バイデン大統領は自由貿易推進の立場かと思っていたが、必ずしもそうではないようだ。
大統領選挙が近づく中、国内世論を気にしなければならなかったということなのだろうが、その国内世論の中で、「アメリカ第一主義」が拡散し、浸透していることもうかがえた。
〈<引き裂かれるアメリカ>矛盾する、進化論とキリスト教の教え「LGBTQの権利を主張する人々に憐れみを感じる」と話すアメリカの女子大生たち〉へ続く
11/05 11:00
集英社オンライン