「ダイオキシンをはじめ有害物質がいっぱいですわ」大阪カジノ建設予定地・夢洲は本当に安全なのか?合格を出したはずの国の審査委員会も土壌汚染対策を再要望

〈日本初のカジノ・大阪IRの問題点〉大阪府市が目論む年間1060億円の収入増は、ギャンブル客の負けた金…オリックスのIR事業参画へも批判の声〉から続く

カジノに詳しいジャーナリストの高野真吾氏が、2030年の秋に開業が予定されている大阪IR事業についてあらゆる角度から検証を行った書籍『カジノ列島ニッポン』。本記事では書籍の中から、著者が建設予定地の夢洲を実際に歩いた様子を一部抜粋・再構成し紹介する。ゴミの焼却灰やスス、下水汚泥などが投棄されているエリアもある夢洲は、果たして本当に安全なのだろうか?

【図で見る】万博会場予定地とIR建設予定地

夢洲を歩く

コロナ下のとある週末の午前10時、僕は待ち合わせ場所として指定された大阪市住之江区のコスモスクエア駅にいた。

地図だと「夢洲」の東南にある「咲洲」に位置する。宿泊した同市中央区のビジネスホテルから、大阪メトロの谷町線と中央線を乗り継いでやってきた。コスモスクエア駅は中央線の大阪湾側の終着駅にあたる。

駅改札を出ると、「おおさか市民ネットワーク」代表の藤永延代さんが待っていた。事前の電話でのやり取りと同じく、元気な関西弁で挨拶される。連れだって駅を出ると、乗用車が1台迎えに来た。

「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表で阪南大学教授(会計学)の桜田照雄さんが運転席にいた。この日は桜田さんの車で夢洲を視察できるように、藤永さんが段取りをつけてくれていた。もちろん事前に大阪市に届けを出し、許可も得ている。僕が助手席、藤永さんが後部席に座って出発する。道路を走る他の車はまばらだった。

咲洲から夢洲に向かう「夢咲トンネル」をくぐり、夢洲に上陸。しばらく車を走らせると万博やIR予定地に入るための通行ゲートがあった。

手続きをして中に入ると、「構内右側通行」の看板があった。工事用車両が通過することから、道幅は広い。舗装されていないが、土の道路はきちんと整地されていて乗用車でも難なく走れた。

道の左右には、雑草がたくましく生い茂っていた。走り始めてしばらくの地点で車を止める。IR建設予定地側を見ると、奥のほうに黄色い重機が1台ポツリ。まさに整地の最中なのだろう。山型にもられた土と平らにならされた土が、エリアごとに混在していた。北側のIR建設予定地、南側の万博会場予定地共に、まだ建物は何もない。

ただ単にだだっ広い空間だ。

しかも、重機が動いていない週末だったことから、「寂寥」との表現がはまる光景だった。大阪の中心地からさほど離れていない場所との実感は持てなかった。

汚水処理の現場も

2023年8月3日、テレビ東京系の経済情報番組「ワールドビジネスサテライト」(WBS)で、夢洲の万博会場の様子が放送された。

「建設現場の撮影が特別に許可された」として、万博への出展を予定しているパナソニックグループのパビリオン(展示館)の工事現場が登場した。「まだ2週間前に着工したばかり」で、基礎工事として鉄骨などを立てている段階だった。

夢洲全体の引きの映像になっても、まだまだ更地状態の場所が多かった。

僕が足を運んだ時は、さらに何もなかった。写真を撮りビデオカメラを回していると、万博会場予定地の所々に棒が刺さっているのに気がつく。周囲には赤い円錐形のカラーコーンを配置し、明らかに目立たせている。

藤永さんに尋ねると、「これは2区・3区の沈下測定の杭ですよ。西側の1区の管は、地中にたまるメタンガスなどのガスを放出する管です」。

夢洲の2区・3区は、建設残土や浚渫(しゅんせつ)土砂で埋め立てられ、1区は一般家庭や事業所から出るゴミの焼却灰やスス、下水汚泥などが投棄されている。そこから有機物が発酵しメタンガスや硫化水素・一酸化炭素などのガスが出るので、それを抜くための管だという。

実際2024年3月末、このメタンガスが原因とされる爆発事故が、万博会場で建設中のトイレ棟で起きた。けが人こそなかったが、夢洲の土地の安全性を問う声が改めてネットを中心に流れることとなった。

移動すると、IR予定地には水たまりがあった。たくさんの小さな野鳥が群れている。安全な場所に車を停め、歩いて海沿いに向かう。

そこでは廃棄物の埋め立てによって生じる汚水を処理していた。フローティングエアレーターと呼ばれる廃水浄化設備で、水を空気にさらし、「曝気処理」をする。その装置が「ブゥーブゥー」という音を周囲に拡散していた。

この汚水処理場から細い歩道を隔てた反対側では、排水管の下で泡立つ水を目撃した。薬品処理によって生じる泡のようだ。歩道には、緑色のドラム缶が10個以上散乱していた。缶に書かれた名称は「流出油処理剤」で、天ぷら油などを固める薬剤だ。きっと、業務用廃油が持ち込まれていたのだろう。

オスプレイ

戻って乗り込んだ車を走らせていると、今度はメガソーラーがある地点に到達した。「大阪ひかりの森プロジェクト」として運営されている施設だ。

後日サイトを見ると、「企業20社が参加してメガソーラーをつくる、日本で初めての取り組み」とのこと。発電規模は1万キロワット。「地盤が不安定な海面埋立処分場(15ha)での発電事業の困難さを(中略)低減し、安定したメガソーラー発電を実現します」と謳っている。

所々に赤い目印のようなものがあるのが気になった。藤永さんによると、パネルが修繕中であることを示すマークとのことだった。

対岸に舞洲を確認できる北側まで到達してから再度、来た道を戻ってきた。途中、地面から飛び出したガス抜き管の上に、鋭い鉤爪と茶色の羽、白い羽毛の立派な野鳥を見つける。望遠レンズで写真を撮っておいた。

帰宅してから確認すると、「ミサゴ」だと分かった。「魚鷹」と呼ばれるほど魚取りがうまい。英語名は「オスプレイ」。垂直離着陸できる米軍輸送機「オスプレイ」の名前は、この鳥から取られたという。2023年11月に同機が鹿児島県の屋久島沖で墜落事故を起こした際、思わぬ流れから仕入れたこの雑学を一人想起した。

夢洲は「毒饅頭がいっぱい」

夢洲の現地を離れてから、案内してくれた藤永さんに大阪IRに反対する理由を聞いた。藤永さんは、この取材からしばらく後、ある訴訟の原告の1人となり、大阪市を提訴している。

それは、IR事業者への土地賃料が安すぎるとする裁判だ。夢洲の現場だけでなく、法廷や役所など各所に足を運ぶパワフルさに頭が下がる。

このインタビュー時にも藤永さんは、僕の質問に小気味よくポンポンと答えた。

――夢洲へのIR誘致に反対する理由を教えてください。

私はね、カジノ事業もあるけど、拠点とする夢洲というゴミの島の安全性についてずっと言ってきているんです。私は『大阪廃棄物(ごみ)問題研究所』をつくって、30年以上、ゴミ問題を追及してきています。万博もそうですが、夢洲は多くの人を集める場所にはふさわしくないという立場です。

――夢洲は土地として何が問題ですか。

メガソーラーがある西側は、大阪市域のゴミを燃やした後の焼却灰で埋め立てられています。ダイオキシンをはじめ有害物質がいっぱいですわ。

2019年4月、関西経済連合会は『夢洲まちづくり基本計画への提案』をまとめました。それによると、西側の場所は『グリーンテラス』(万博レガシー)として、活用することになっている。万博という期間限定ではなく、継続的に使うという考え方です。

大阪市は、廃棄物処理法に基づく管理型最終処分場規則に則り、50センチの土を積むと言いますが、そんなんでいいような状態ではない。下に毒饅頭がいっぱいあるから、『上にカバーをしたらええ』ちゅうもんやない。本当に使うならば、相当の浄化をしないとあきません。

――夢洲はどうすればいいと。

ゴミの埋め立て場所として延命するのがええ。さっき夢洲から『大阪湾フェニックス計画』による、大阪沖埋立処分場が見えたでしょう。この計画を進めていくと、ゴミ処理費用がかさみ、市民負担が間違いなく増えます。今あるメガソーラーぐらいはいいじゃないですか。けれど、夢洲はゴミ処分場として、そのまま置いておくほうが後世まで、うーんと役に立つ。そう考えています。

「合格」を出した国の審査委員会も土壌汚染対策を求めている。問題意識は、藤永さんと同じだ。現場を見ただけに、僕も対策の必要性を感じる。

晴れた週末のこの夢洲滞在は、約1時間半だった。それから、しばらくの時間が経つが、あの寂寥たるだだっ広い空間の記憶は鮮明だ。藤永さんからは、「万博開催、IR開業と続くとしても、夢洲は『所詮コンテナヤードの軒先』」との言葉も聞いた。そうしたこともあり、僕はかの地が賑わい続ける様子をうまく想像できない。

しかも、万博もIRもその行く末は、まだまだ波乱含みだ。そのため、僕はどうしても夢洲の排水管から出ていた「泡立つ水」を思い出してしまう。そして、万博・大阪IR共に、一時の「バブル」に終わることを懸念する。

写真/shutterstock
図/書籍『カジノ列島ニッポン』より

カジノ列島ニッポン

高野 真吾

カジノ列島ニッポン

2024年9月17日発売
1,100円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721333-1

2030年秋、大阪の万博跡地でカジノを含む統合型リゾート (IR) の開業が予定されている。
初期投資額だけでも1兆円を超える、この超巨大プロジェクトは年間来場者数約2000万人、売り上げは約5200億円もの数字を見込んでいる。
カジノ・IRに関しては大阪のほか、市長選の結果により撤退した横浜をはじめ、長崎、和歌山でも開設の動きがあり、そして本丸は東京と見られている。
20代から海外にわたってカジノを経験してきたジャーナリストが、国内外での取材を踏まえ、現在進行形の「カジノ列島ニッポン」に警鐘を鳴らす。

◆目次◆
第一章 消えぬ「東京カジノ構想」の現場を歩く
第二章 海外から探るIRの真の姿
第三章 先行地・大阪の計画とは
第四章 不認定の長崎、こけた和歌山・横浜
第五章 ギャンブル依存症をどう捉えるか
第六章 国際観光拠点VS地域崩壊

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