「複数の小6男児に下半身を触られた」小2女児…「また同じことを繰り返してしまう」と性教育の専門家が“間違いだらけの性教育”に警鐘を鳴らすワケ

神奈川県の茅ケ崎市立小学校で今年5月、小学2年生の女子児童が小学6年生の男子児童3人に下半身を触られる性的被害が発生した。学校側は被害を認識しながら配慮に欠く対応を重ね、女児が心の傷を負う2次被害にも発展したという。改めて問われる、子どもへの性教育のあり方と学校や親の対応。性教育の専門家と現役の小学校教諭にそれぞれ話を聞いた。

【画像】性教育講師・マッキーさんのもとに届く、「女子トイレに行って排泄したい」という男性からの衝撃の問い合わせ……

自分より強そうな女の子はねらわない

性教育の専門家であるマッキーさんは、看護師として小児科に10年、泌尿器科に6年勤務し、現在は自治体を中心に性教育講師として活動している。

彼女のもとには男性から、性にまつわる相談も数多く届く。男性が「女子トイレに行って排泄したい」「女の子の靴下を盗みたい」など、一般的には驚くような欲望をよく目にするそうだ。しかし、そうした欲望を実行に移すかは、別の話だという。

では、どんな状況だと実行に移してしまうのだろうか。

「実行に移そうと思うのは、受動的な時間を過ごしているときです。具体的にはスマホなどでゲームやネットサーフィンをしているとき。体を動かしたり、趣味に打ち込んだりしているときは思い浮かばないようです。今回の男児たちは、熱心に打ち込めるものが他になかったのかもしれません。」(マッキーさん、以下同)

小学6年生なので年相応に性への興味はあるが、そのエネルギーの対処方法は教えられていない……。

被害が同年齢でなく、4学年下の2年生であったことについても「性的被害ではよくあること。年上や、自分より強そうな女の子はまずねらいません」という。

痴漢でも被害にあうのは「露出が激しい服を着ている、明るい髪色の女の子」と思われがちだが、実際は「ひざ丈で学生服、宿題をちゃんとやってそうなタイプの女の子」が最も被害の対象になっているという。

「性加害者は対象とする人を慎重に選びます。たとえば、ターゲットの自宅まで着いていき、その様子を観察します。自動車で軽くぶつかってみて『ぎゃあ!』と叫ぶ子なのか、『あ、ごめんなさい……』と頭を下げる子なのか、などをチェックしています」

「また同じことを繰り返してしまう」

今回の事件では、7月の夏休み前に女児が1人で呼ばれ、加害男児の「反省の言葉」を教員らが代読するのを聞かされたという。「反省の言葉」は再発防止になりえるのか。

「『反省の言葉』だけでは判断できません。自分がしたことがどのようなことなのか、わかっているのかいないのかが大切です。もし、わかってない場合はまた同じことを繰り返してしまうかもしれません。『(SNSから発覚したので)次はスマホを持っていない子にしよう』としか思いませんよ」    

なお、加害男児を転校させるのは「得策とはいえません。先述のとおり、わかっていない状態で保護者が転校を決めてしまうと『逃げればいいんだ』という負の教訓を与えてしまいかねません」とマッキーさんは一蹴する。

「教えるべき教訓は『自分がしたことで相手が傷ついた』ということ。セックスや自慰行為は悪いものではなくて、相手の同意なしに行うことがだめなのだと、まずは家庭で親が教えなくてはなりません」

性加害者に関する書籍の中には「妹になにをしても、親からなにもいわれなかった。だからやってもいいと思っていた」という事例もある。

「親から教えるのが難しければ、専門家やカウンセラーを活用してください。さらに、スポーツなり趣味なり、新しい発散先を見つけるのがいいですね。今回の男児は3人で犯行に及んでいるので、付き合うお友達も変えるなど場合によっては考えるべきです」

今回の事件では「女児がSNSでやり取りしているのを親が発見」して発覚した。子どもが被害を訴えやすい環境を作るためには、どうすればいいのだろうか。

「性についての話をしていない家庭環境では、子どもは親にいえません。ほとんどの家庭では性教育は行われていませんし、必要だと思っていても時間的な余裕がなくできない事もあります。改まって膝を突き合わせて『あのね、プライベートゾーンといってね……』というのはハードルが高くなかなか実行できません。それより、日常生活の中に組み込める性教育を行うことをおすすめします」

では、親はどう家庭内での性教育を行うべきか。

「基本的なスタンスとして『性教育ができない! したくない!』という方は絶対に自分で行わないでください。今はさまざまな性教育の絵本や書籍が発売されています。そういったツールを家庭に置いていくだけでも立派な性教育です。

ちょっといやらしいですが『この本、おもしろいなー。小さいときに読みたかったな。大切だから置いておくね』と聞こえよがしにいってみるのもおすすめです」

「また、プライベートゾーンについては「発達段階にもよりますが、幼児の場合は計300回は言及しないと行動に移せません。 1番簡単に下着の中の話をする方法として、下着の色チェックがあります。『下着に赤色が付いたら教えてね』『痒かったらすぐいって』といったように具体的なトラブルを子どもに提示しておくと、なにかあったら保護者にいうんだという意識づけになります」

子どもが被害にあった場合、親はどう対処すればいいのだろうか。

「幼いころに性被害に遭った子の中には、思春期に、なにが起こったのかを知り『私は汚らわしいんだ』『身体を使えば喜んでもらえる』と勘違いして、風俗業界に走る子もいます。“性行為=悪”と考えないように、定期的にカウンセリングに行ってあげて、認知の歪みを修正してもらうのがいいですね」

「また、性被害者の親はまず自分を責めます。これまでなぜ気づかなかったのか、あのとき○○していれば…将来結婚できなかったらどうしよう、と。 親の気持ちを吐き出すために、専門家を頼ることをおすすめします。実はこれは加害者の保護者にとっても必要と考えています」とマッキーさんは最後に語った。

スマホの登場で性の情報が際限なく……

今回の事件では、被害を受けた2年生の女児が避難訓練で加害男児と同じ教室に連れて行かれ、男児の姿を見たことから体調が悪化。40度近い高熱を繰り返して学校を欠席することが多くなり、医師からは心的外傷による急性ストレス障害と診断されたという。

学校側の「2次被害」ともとれる対応が問題視されているが、学校ではどのように性教育、対策を行っているのだろうか。東京都内の現役の小学校教諭に話を聞いた。

「小学4年生になると、二次性徴の授業を男女まじえて行います。『おっぱいが膨らむ』『毛が生えてくる』など、わりと赤裸々に語ります」

ただし、このような授業が役に立っているかは、おおいに疑問だという。

「小学6年生で保健の授業をしても『別に、それ知ってるし』という反応をされて終わりますね。知識を仕入れる場所は学校だけでなく、塾や、年上のきょうだいである場合も多いので」

なにより今の子どもは、スマホやタブレットなどで知識を仕入れてしまう。

「レコメンドで際限なく、その類のものが流れてきてしまいます。『面倒だから』と親のスマホをそのまま与えている方も多いですが、必ずキッズモードにして制限をかけてほしいです」

この教諭は「30年以上教員生活を送ってきましたが、児童の性被害に遭遇したことはありません」と語る。そのため、今回のニュースを聞いて驚いたそうだ。

事件で、被害を受けた女児は女性職員の付き合いがないとトイレに行けなくなってしまった。その際、担任の男性教諭から「トイレまで加害者が来るわけないだろう」といわれたことで、深く傷ついたというが……。

「ありえません。もし、うちの小学校でもし誰か1人でも被害者が出たら、担任だけでなく、学校中の先生で守ります。『安心して学校に来てね。なにがあっても、先生たちがみんなで守るから』というメッセージを送るつもりです」

伝わってきたのは、真摯で力強いメッセージだった。

――一瞬の出来事が、一生の傷をつくることがある。

傷をいやすのは「もう大丈夫だよ」という、大人から与えられる安心感なのかもしれない。


取材・文/綾部まと

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