「高齢者、特に女性ははたくさん肉を食べてください」は本当か? 日本人女性が心筋梗塞で亡くなるリスクは欧米と比較してもとても低いという現実
〈60代で5種類以上の薬を飲んでいると転倒リスクが2倍に…健康長寿につながらない、本当は怖い薬の副作用とは〉から続く
一般的に体によくないとされているコレステロール。だが医師の和田秀樹氏によると、60歳以上の女性がコレステロールを控えるメリットはあまりないという。60歳以上の女性が肉を食べることで得られる健康効果とは?
書籍『60歳から女性はもっとやりたい放題』より一部を抜粋・再構成して解説する。
医者の言うことにもウソがある!?
60歳をすぎ、さあこれからは第2の人生だと思っても、「自分はいつまで健康でいられるのだろう」と不安になる人も多いかもしれません。
確かに歳を重ねていけば、心身にはさまざまな変化が起こります。若い頃とまったく同じでいられるかと言えば、残念ながらそれは難しいですし、歳を重ねるにつれて老化すること自体は避けられません。
それでも、その事実は事実として受け止めて、適切な対処法を知っていれば、病気を予防したり治療したりすることも、そして、老化を遅らせることも可能です。
ただし問題は、明らかな誤解や古い知識が世の中に蔓延していることです。しかも中には、みなさんが信頼し切っている医者から発信され、そのように思い込まされているケースも多々あります。
だからこそ、健康や医療に対する情報というのは、むやみに信じ込んだりせず、インターネットなどを通じて新しい統計データを集めて慎重に取捨選択する必要があるのです。
コレステロールを制限するメリットはない
ご存じのようにたんぱく質は、肉や魚、乳製品や大豆製品に多く含まれますが、もっとも私がお勧めしたいのは「肉」です。
実際、歳を重ねてもずっと元気で若々しい人というのは、決まって肉をよく食べています。99歳で亡くなる直前までお元気だった瀬戸内寂聴さんも肉好きで知られていましたし、沖縄県の高齢者に元気な方が多いのも肉を多く食べているからです。
「たくさん肉を食べてください」という話をすると、コレステロールのことを気にされる方がいらっしゃるのですが、そこには大きな誤解があります。
健康診断などでコレステロールが高いと指摘され、食事に気をつけるように指導されているという人はいまだに多いのですが、そもそも女性の場合、閉経後にコレステロール値が高くなるのは女性ホルモンの減少によるものなので、言わば一種の生理現象なのです。
そしてコレステロールを下げたほうがいいとされるのは、それが動脈硬化を促進し、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まると考えられているからです。しかしながら日本では欧米と違って急性心筋梗塞で亡くなる方は、がんで亡くなる方の12分の1しかいません。
さらに言うと、女性の場合、急性心筋梗塞が原因で亡くなる人は男性の半分程度です。
だから、女性はコレステロール値を制限する必要はないという声も多く、私もその意見に賛成です。女性の場合は基本的にコレステロールを下げるメリットはほとんどないと思います。
コレステロール不足で生じるデメリットとは?
それどころか、コレステロール値を下げすぎることで生じるデメリットのほうは、驚くほどたくさんあります。
まず、コレステロールは男性ホルモンと女性ホルモンの両方の材料になるので、それが不足すれば、当然これらのホルモンの分泌量も減ってしまいます。
男性ホルモンは女性の体内にも存在し、意欲や行動力を高めるもとになります。60歳以降の女性を元気にするホルモンでもありますから、その材料が不足すれば、せっかく元気になるはずなのに元気になれないということが起こります。
また、ただでさえ年齢とともに減っていく女性ホルモンがさらに減るとなれば、肌のツヤが失われるといった美容面でのトラブルは避けられないでしょう。
女性ホルモンが減ることでの深刻な問題としては、骨粗鬆症になりやすくなるということがあげられます。
骨粗鬆症というのは高齢女性が罹患しやすい骨の中がスカスカになってもろくなる病気ですが、これを発症すると腰や背中の痛みに悩まされるようになります。
痛みと骨がスカスカになっているせいで腰が曲がってしまうこともあり、そうなると一気に老け込んだ印象になってしまいかねません。また、骨が弱くなればちょっとしたことで骨折しやすくなるというのも、高齢者にとっては大問題です。
がんやうつのリスクまで高まってしまう
さらにコレステロールは免疫細胞の材料でもあるので、不足すれば免疫機能の低下という重大な問題が起こります。
免疫機能が下がれば、当然コロナウイルスをはじめとする感染症にもかかりやすくなりますが、実はがんのリスクも高まります。ハワイの研究では、コレステロール値が高い人ほどがんになりにくいという結果も出ているのです。
そもそも免疫機能というのは放っておいても年齢とともに下がっていく傾向にあるのですから、コレステロールの不足によってますます低下してしまうとなれば、高齢者にとってはまさに死活問題になると言っても過言ではありません。
また、コレステロールにはたんぱく質を原料につくられる「幸せホルモン」のセロトニンを脳に運ぶというとても重要な役目もあります。だからコレステロールが不足すれば体内のセロトニンがうまく脳に運ばれず、「うつ」の原因になり得ます。
実際、コレステロール値が低いグループは高いグループよりもうつ病にかかりやすいというデータもあり、これまでたくさんの「老人性うつ」の患者さんたちを診てきた私自身の経験からしても、コレステロール値の低い人はうつからの回復が遅れるという実感があります。
悪玉コレステロールが嫌われる理由
このような話をすると、「それは善玉コレステロールの話ではないか」と言う人がいるのですが、決してそうではありません。
女性ホルモンや男性ホルモンの材料になるのも、免疫機能を上げるのも、セロトニンを運んでうつを予防するのもすべて「LDLコレステロール」、つまり、世の中では「悪玉」と呼ばれているコレステロールです。
「善玉」と呼べる部分があるにもかかわらず、なぜ「悪玉」などと呼ばれているのかと言えば、それが動脈硬化の原因となり、心筋梗塞などのリスクを高めることを、循環器内科の医者たちが問題視しているからです。
つまり、LDLコレステロールに悪玉のレッテルをはっているのは循環器内科の医者だけで、たまたま彼らの声が大きいから、世の中で「悪玉」扱いされているというだけの話なのです。
日本の医師はアメリカの猿まねなので、循環器の病気が原因で亡くなる人は少ないのに循環器内科の声が大きいのです。
彼らの言うことを聞いて悪玉コレステロールを体から追い出せば、動脈硬化の進行を遅らせて、心筋梗塞や脳梗塞のリスクは下がるのかもしれません。
けれども特に高齢女性の場合は、元気も気力も肌ツヤも失われ、感染症にかかりやすくなり、気分も落ち込み、さらにはがんのリスクまで上がってしまうといった深刻な負の影響を受け入れてまでも、そのメリットにこだわる必要があるとは、私には到底思えません。
なぜなら先に申し上げたように、そもそも女性は心筋梗塞で亡くなるリスクが欧米と比べてとても低いからです。
写真/shutterstock
06/14 10:00
集英社オンライン