「雑誌はこれからどうなる?」日本最大級・19000誌所蔵の都立多摩図書館の書庫に潜入調査! ジャンプ創刊号からマニアックすぎる専門誌までを眺めて

東京都立多摩図書館は、「東京マガジンバンク」と称する圧倒的な量の所蔵資料を活かし、雑誌に特化したサービスを展開するユニークな図書館だ。

【画像】ハイペースで刊行される週刊誌もすべて所蔵されている

 

公立図書館としては国内最大規模の約19000誌を所蔵。だが、この数字はあくまでも所蔵雑誌のタイトル数であり、各誌の旧号から最新号まで(全号とは限らないが)揃えているので延べ数は計り知れず……。実際に潜入してみた。

「雑誌って、これからどうなるんだろう?」

現在刊行中の約6000誌については、閲覧室と開架書庫に最新1年分の号が並べられていて、誰でも自由に読むことができる。

それより古い号やすでに休廃刊している雑誌でも、目録で所蔵が確認できれば、カウンターで申請すると奥の書庫から出してもらえる。

もともと雑誌が好きで編集者という職業を選んだ僕にとって、この図書館は夢のような場所。

ここで浴びるように多くの雑誌に触れていると、雑誌さえあれば金もいらなきゃ女もいらぬ……と、無条件に雑誌愛を暴走させることができて大変気分がいい。

ところで僕は雑誌が好きなゆえ、自分はもう10年、いや、できればもう20年早く生まれればよかったと思うことがある。

ご存知のように日本の雑誌業界はこの30年間で大きく変動し、今や著しく衰退状況となっているからだ。

雑誌の全盛期は、1990年代中頃。

その後インターネットの普及で情報収集の手段が多様化すると、その売り上げに陰りが見え始め、2010年代にスマホが普及して以降は、市場縮小に歯止めが効かなくなっている。

かつてはメジャー誌の主戦場であったコンビニの雑誌売り場も、もはやお荷物扱いになりつつあり、雑誌業界はお先ブラックホールだとさえ思うことがある。

ただ、一般誌市場は縮小し続けている一方、一部の専門誌や高品質なコンテンツを提供する雑誌は一定の読者を維持しており、厳しいながらも生きる道があるのではないかとも思える。

「雑誌って、これからどうなるんだろう?」

そんなことをもう一度考えるきっかけになるかもしれないと思い、都立多摩図書館を訪ねてみた。

雑誌の歴史を真空パックしているような場所だった!

都立多摩図書館は1階がオープンスペースとなっていて、国内外の雑誌、そしてこの図書館のサービスのもう一つの柱である児童・青少年用資料の本棚が多数並び、閲覧エリアや展示エリア、開架書庫などがある。

そして一般利用者は入ることのできない、バックヤードにあたる2階と3階は、巨大な本棚がみっしりと並ぶ閉架書庫になっていて、所蔵雑誌の大部分は2階に収められている。

そこは日本の雑誌の歴史を真空パックしているような場所。

今回は特別に、中を見せてもらった。

まず案内されたのは、多摩図書館が誇る創刊号コレクションの棚。古くは1877年(明治10年)からごく最近のものまで、日本で刊行された約8500誌の創刊号が、年代順に取り揃えられていた。

創刊号各一冊ずつなのに、巨大な書棚3列が埋まる膨大なコレクションである。

長年にわたり、多くの少年少女の心をつかんできた『週刊少年ジャンプ』の創刊号(1968年)も、僕の古巣である宝島社が創刊し、あっという間に出版の海の藻屑と消えた『週刊少年宝島』の創刊号(1986年)も、ここでは同列に扱われていてちょっとおもしろい。

ついでに、僕が2000年から2009年まで編集長を務めていた『smart』の棚も見せてもらった。

付録もそのまま保管しているためかなりのスペースを占めており、ちょっと申し訳ないような気分になる。

2000年代の半ばから現在まで続くファッション誌のブランド付録戦略は、僕が編集長の頃の『smart』が始めたものだからだ。

長い日本の雑誌史の中で、それがどういう意味を持つのかはわからないが、こうした公立図書館で、付録の現物をちゃんと保存してくれていることがちょっとうれしかった。

付録のせいばかりではなく、雑誌というのは基本的にとてもかさばるもの。あらゆるタイトルをデータ化でも縮刷版でも合本でもなく、売られた当時のままの現物で保管するのは、考えてみると大変なことだ。

さまざまな雑誌の中でも特に、ハイペースで刊行される週刊誌の所蔵に至っては……。『週刊少年ジャンプ』や『週刊プレイボーイ』の保管スペースは、もはや圧巻を通り越して威圧さえ感じるほどだった。

松本伊代の『センチメンタルジャーニー』でも歌われている通り、雑誌なんてものは所詮、読み捨てられてなんぼのものだ。

いくら雑誌に深く関わってきた編集者といえども(だからこそかもしれない)、雑誌は一冊の中から自分の興味のある部分だけを拾い読みし、終わったらポイっと捨ててもらえばいいものだと個人的には思っている。

古い雑誌を多数収集したり、古書店でいつも古雑誌を探し求めているマニアも一部にはいるがそれは例外で、普通の人にとって雑誌が提供した情報とは、記憶の中におぼろげに存在していればいいもの。

だから都立多摩図書館の大規模な閉架書庫に収まる大量の雑誌を目の当たりにすると、近現代日本人の記憶の亡霊と対峙しているような、なんとも妙な気分になった。

多摩図書館ならではのマニアックな雑誌を探索

閉架書庫を案内してくれた職員の方と別れた後、一般開放されている閲覧室と開架書庫の雑誌を一人で見て歩くことにした(開架書庫への入室には、出納カウンターで入館証の番号を記入し、バッチをもらう手続きが必要)。

多摩図書館は、我々が書店やコンビニで日常的に目にするような一般誌はもちろんだが、それだけではなく、直販方式で販売されるニッチな専門誌や業界誌、機関誌、研究誌、地方誌、学会誌、フリーペーパーなどまで、定期刊行物であれば幅広く収集の対象としている。

実は僕が多摩図書館に行くときは、そうしたマニアックな雑誌を見るのが主な目的。

内容は極めて専門的であり、僕のような門外漢が読んでもちんぷんかんぷんなものばかりだが、雑誌タイトルや表紙に並ぶ特集名を眺め、ページをパラパラっとめくったりしているだけで、さまざまなアイデアやインスピレーションにつながるのである。

いつ行っても新しい発見がある多摩図書館だが、今回も数々の魅力的な雑誌に遭遇した。

各誌に敬意を表し、簡単にではあるがご紹介しよう。
 

『捜査研究』東京法令出版 月刊
悪質、巧妙、複雑化する犯罪に対応すべく、複眼的観点からアプローチする新時代型犯罪捜査専門研究誌。

『BE-KUWA(ビー・クワ)』むし社 季刊
図鑑以上とマニアから高い評価を受けている、クワガタ・カブトムシの総合情報誌。

『包装技術』日本包装技術協会 月刊
包装に関する知識及び技術の普及推進に努める公益社団法人日本包装技術協会の機関誌。

『アルトピア』カロス出版 月刊
アルミニウムに関する総合誌。タイトルは「アルミニウム」+「ユートピア」の造語で、“アルミニウムが創る新時代”を表す。
 

『心霊研究』日本心霊科学協会 月刊
「心霊現象の科学的研究を行い、その成果を人類の福祉に貢献すること」を目的に創立された公益財団法人が発行する機関誌。

『船長』日本船長協会 不定期刊
一般社団法人日本船長協会が発行する船長のための機関誌。

『ミルククラブ』中央酪農会議 季刊
牛乳・乳製品の知識や、酪農に携わる人、モノ、コトなどについて、多彩な視点から情報を発信している日本唯一の酪農専門フリーマガジン。

『さとうきび』スタルカ 年2回刊
暮らしの中のさとうきびを考える、人文自然科学総合雑誌。生産者、消費者、研究者、学生へわかりやすくさとうきびの魅力を伝える。
 

『トライボロジスト』日本トライボロジー学会 月刊
「トライボロジー」とは、摩擦・摩耗・潤滑のこと。日本トライボロジー学会(日本潤滑学会より改称)の学会誌。

『愛石』愛石社 月刊
1983年創刊の『愛石の友』を前身とする水石情報誌。キャッチコピーは「なにがなくても石があれば良い」。

『公民館』 全国公民館連合会(第一法規発売) 月刊
公民館関係者のための国内唯一の機関誌。公民館運営に関する専門的な論文や実務的・技術的な解説、各公民館等での活動例など話題を豊富に掲載

雑誌世界の奥深さ、感じていただけただろうか。



取材・文・写真/佐藤誠二朗

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