「岸田政権が続くかぎり今より豊かにはならない」実質賃金1年11か月連続で前年割れ…“財務省のポチ”岸田首相の「物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」X投稿の違和感

厚生労働省は4月8日、2月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)を発表し、実質賃金は前年比1.3%減少して、1年11か月連続で前年割れとなった。国民の所得は右肩下がりを続けており、政府の早急な対応が求められる。経済学に精通している京都大学大学院工学研究科教授の藤井聡氏に話を聞いた。

岸田首相は国民負担率の高さを知らない?

実質賃金が前年比1.3%減少し、1年11か月連続で前年割れしていることを危惧しているのか、岸田文雄首相は3月28日に自身のXに物価高を乗り越える2つの約束として、「今年、物価上昇を上回る所得を必ず実現」「来年以降に、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着」と投稿した。この2つの約束は本当に所得増につながるのだろうか。

まず、最初に「今年、物価上昇を上回る所得を必ず実現」と掲げたものの、国民所得に占める税と社会保障負担の比率を示す“国民負担率”は、現在45.1%。頑張って働いても約半分の稼ぎを政府に奪われており、物価上昇を下回る所得になっている原因は政府の政策にあるように感じる。岸田首相はそういった現状を把握していると思うかについて、藤井氏は「把握していないと思います」と答えた。

「2023年10月からは免税事業者から消費税を支払うように誘導する“インボイス制度”が、多くの国民の反対の声にも耳を貸さず、施行されました。他にも、『森林を整備するため』という名目で2024年4月から年間1000円を徴収される“森林環境税”も始まっています。『政府が国民の所得を奪っている』という認識を持っていれば、所得増を約束しながらこういった増税策を推進するとは思えません」

給与が増えたとしても、その分増税されてしまえば、当然ながら所得は増えない。岸田首相の矛盾した発言を鑑みると、岸田内閣では国民の所得が増える見込みがいかに低いのかがうかがえる。

「賃上げのために何が政府として必要なのか」

岸田首相のX投稿には「来年以降に、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着」とも記されていた。しかし、賃上げは企業が判断することであって首相に決定権はない。岸田首相はそのことを理解しているのかについて、「さすがに『理解していない』ということはないと思います」と藤井氏はいう。

「岸田首相の発言を好意的に解釈すれば、『十分な賃上げを各企業が判断したくなるような、活気ある良質なマクロ経済環境を創出します』と読めなくもない。しかし、『そういったマクロ経済環境とはいかなるものなのか?』ということは一切理解せずに発言したものと思います。

なぜなら、それを理解しているのであれば、減税や社会保険料引き下げ、内需拡大のための財政出動といったさまざまな経済政策を行なうはずだからです。ただ、そういった政策は行なっておらず、『賃上げのために何が政府として必要なのか』という具体策をまったく知らないままに発言したのだと断定できます」

株主・大手企業優遇の政策運営

また、岸田首相は上記の投稿と同じタイミングで「岸田政権発足後『新しい資本主義』を提唱、『成長と分配の好循環』の実現が私の使命と思い定めました」と投稿していた。岸田首相は就任直後から“新しい資本主義”と再三にわたり口にしていたが、結局のところ“新しい資本主義”とは何なのか。藤井氏は岸田首相が目指した“新しい資本主義”の概要を次のように推測する。

「総裁選の際に『分配』という言葉を多用して“新しい資本主義”を提唱したことから考えると、日本の考古学者・原丈人氏が提唱していた“公益資本主義”、つまりは株主や経営者だけではなく、労働者や下請け企業などにも公平に売上が分配される “社中分配”が、適切に行われる資本主義を目指していたと思われます。

しかし、岸田首相は総理着任後からしばらくしても『分配』という言葉を使うことはほぼ皆無。そして、株主を重視した“株主資本主義”を推進する議員から構成される委員会を構成しました。ただ、これでは当初掲げていた“新しい資本主義”の内実とは完全に異なります。株主・大企業を重視した内閣となり、国民経済を豊かにする政策運営はしていません」

所得増のために必要な約束

それでは改めて所得増を実施するために岸田首相がすべき約束(政策)とは何なのか。藤井氏は消費税減税、社会保険料の引き下げ、ガソリン税凍結の実施を提案する。

「加えて、国内で満たされていないさまざまな需要、例えば、被災地の復興需要、産業投資需要、人材投資需要、科学技術投資需要、防災投資需要、インフラ投資需要、エネルギー投資需要、国防投資需要を満たすための大規模な経済対策を実施すべきです。

トランプ大統領やバイデン大統領は、合計1千兆円規模のこうした経済政策を行なった結果、コロナ禍による経済ダメージを乗り越えました。日本でも同様に国民のためにお金を使う政策を実施すれば所得増につながります」

それでは、なぜ岸田内閣は消費税減税、大規模な財政出動を実施しないのか。

財務省のポチ

その背景には、社会保障や公共事業といった行政サービスを提供するための経費を、国債ではなく税収などで賄えるかどうかを示す指標“プライマリーバランス(PB)”の影響が大きいと指摘する。

「政府はPB黒字化を2025年に達成することを目標に掲げているため、あらゆる増税策を講じる一方で、国民のために財政出動をしません。この目標を延期されなければ、政府は増税を止めず、国民のためにお金を使いません。しかし、岸田首相は“財政健全化推進本部”を設置して、PB黒字化をより積極的に推進していこうとしています。

なぜ岸田首相がPB黒字化を強化する動きを見せているのかというと、財務省の働きかけが大きいからです。財務省は『国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない』と記された“財政法第4条”に基づいて仕事をしているため、国債発行を嫌い、増税を好みます。そして、岸田首相は“財務省のポチ”と揶揄する識者が多い通り、財務省が望むように政策運営をしているため、私たちの所得が一向に上がらないのです」(藤井氏)

岸田首相は“増税メガネ”とSNSで批判されていたが、増税メガネと呼ばれる背景には“財務省のポチ”だったことが大きかったようだ。

“財務省のポチ”である岸田首相が日本のトップであり続ける限り、私たちの所得はなかなか上がりそうもない。私たちが今よりも豊かに暮らすためには、「現実的に考えれば、実際に政権が何らかの形で変わる以外に望みはないように思います」と藤井氏は言う。

それでは、政権交代が達成され、所得増を勝ち取るためにこれから国民がすべきことは何だろうか。

政権交代のためには草の根運動

「まず国民1人1人が岸田首相が“何を言っているのか”ではなく、“実際に何をやったのか”をしっかりと見つめ、『支持すべきかどうか』を見極める姿勢を持つことが大切です。そのうえで周囲の人たちに日常会話やSNSなどを通して、岸田政権が“実際に何をやったのか”という情報をしっかりと伝えていかなければいけません。一見地味ですが、こうした草の根の運動を多くの国民が行なえば瞬く間に支持率は激変します。

そして、選挙の時期が訪れた際は投票所に行って実際に投票するという姿勢が特に重要。自民党は現在、国民の3割程度の得票で大半の議席を獲得しています。これは投票率が低く、ごく一部の得票でも大半の議席を獲得できる構造になっていることが大きい。いいかえれば、多くの国民ではなく一部の人たちのために働く議員が生まれやすい状況です。

日常生活から政治経済を意識して、投票に行けば、選挙結果は現状と全く違うものに激変する事になります。現実を見据えた国民が大量に選挙に行く、という当たり前に求められる状況をつくり上げることこそ、所得増を実現する最善の近道だと思います」(藤井氏)

多くの国民が政治に無関心でいることは、一部の人たちに利益を集中させることに他ならない。生活が苦しい今こそ、岸田内閣に厳しい目を向けなければいけない。

取材・文/望月悠木

 

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