「印税は要りません」書店の利益を20%から50%に! 作家・瀬尾まいこさんが新刊の印税を辞退した理由とは? 書店愛あふれるイベントでファンも笑顔に《イベントレポート》

 全国で多くの書店が閉店に追いこまれている。この状況をなんとか食いとめようと立ちあがったのが、『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)などで知られる作家の瀬尾まいこさん。書店でのエピソードをつめこんだ新刊『そんなときは書店にどうぞ』(水鈴社刊 ※12月20日発売予定)では、印税の受け取りを辞退し、その分を書店に補てんしようとしている。

 瀬尾さんが印税を断った理由とは? その想いを知るべく、10月26日に出版クラブで行われた新刊記念トークイベントを取材した。

 なお、このイベントは「本との新しい出会い、はじまる」をスローガンにした業界横断型キャンペーン「BOOK MEETS NEXT 2024」の一環として行われたもの。キャンペーンは11月24日(日)まで。本にまつわる地域イベントのほか、オリジナルブックカバーの配布、ギフトが当たる読者還元祭なども行われている。

書店の現状を世の中に伝えるという意義

 私たちが本を買うと、書店マージンというものが書店に支払われる。マージン率は通常20%で、1000円の本なら200円。瀬尾さんは、自身の印税をそこに補填したいと提案した。

「書店さんを盛りあげたいという話を水鈴社の篠原さんに相談したときに『いい作品を書いてもらうのが一番です』と言われたんですが、今はそんな事態じゃないと思って。私なりにできることを考え、印税を書店さんにもらっていただけたら、と」と瀬尾さん。

 イベントには、新刊の出版元である水鈴社の社長、篠原一朗さんも登壇。最初はこの提案に賛同しなかったというが、瀬尾さんの話を聞いて納得したとか。「誰かが無理をしたり、犠牲にならないと成り立たない業界はまずいと思うので。印税は作家の方が受け取る当然の対価です。でもそれをお話ししたら、瀬尾さんが『これは書店さんが生みだした本だから』と。それならばと腑に落ちて、水鈴社としてもその取り組みに加わらせていただくことにしました」。

 さらに、「でも、そんなに大それたことをしているとは思っていなくて。50%になったからといって、書店さんに渡る金額を考えると、焼け石に水でしかありません。でも、この取り組みによって書店さんのことが少しでも話題になれば」と意気込む篠原さん。前代未聞の取り組みだからこそ、実現には多大な苦労もあったようで、瀬尾さんは「私は印税なんかいらんって言うだけで簡単だったけど、社長が取次さんと何回も話しあいをしてくれて」と明かしていた。12月20日の発売が無事に決定している。

 本の出版に携わることがない限り、書店マージン率について知る機会は少ない。マージン率の引き上げを通例にするということではなく、まずはこの危機的状況を知ってもらうことで、閉店をまぬがれるための手がかりが見つかるかもしれない。瀬尾さんと水鈴社の覚悟と挑戦はそんな可能性を示している。

作家と書店は「チームの一員」

 もともと中学校の教諭だった瀬尾さんは、著書『そして、バトンは渡された』が2019年の本屋大賞に選ばれてから書店回りをするようになり、それ以来、書店愛、書店員愛がふくらんでいった。

「書店員さんってみんなウキウキ、キラキラされていて。愛情を込めて本の置きかたを工夫したり、ポップをつくったり。こんなにも一生懸命やってくれてはるんやっていうのがうれしかったし、サイン会では読者さんの声も聞くことができて。小説を書くときはひとりなので、書店さんの存在を目の当たりにして、チームなんだという気持ちになり、書店さんが大好きになりました」と語る瀬尾さんは、自身もうれしそうな笑顔になっていた。

 ひとりで書いた小説が多くの読者の手に届く——その流れをヒット作『そして、バトンは渡された』になぞらえれば、瀬尾さん曰く、「書店さんはアンカー」だそうだ。「私が書いたものに、出版社さんがいろんな工夫をしてくださって、最後に書店さんが読者のみなさんに届けてくださる」。

 また、自分が作家だと自信を持てるようになったのも書店のおかげだと瀬尾さんはいう。「中学校で教員をしている頃は自分を作家だと意識したことがなかった。でも書店さんが応援してくださり、自信をもらいました」。私たちが瀬尾さんの小説を読めるのも、きっと、書店あってのことなのだ。

書店をウロウロして…仕上がったエッセイ

 書店愛、書店員愛が高まるにつれ、いろいろな書店を回っては「何でもさせてください」と書店員に声をかけ、一日店長などを経験してきたという瀬尾さん。そんな書店での思わず笑ってしまうエピソードをつめこんだのが、新刊『そんなときは書店にどうぞ』である。

「コロナ禍が落ち着いた昨年の5月頃、新刊も出ていないのに書店さんをウロウロしていたら、コロナ禍もあったし今は不況で店の営業がギリギリなんだ…っていう話を書店員さんからたくさんお聞きして。書店さんのために何かしたいなと思ってエッセイを書きはじめました」

 最初はエッセイをフリーペーパーにして書店に置く案もあった。「書いたものをレジとかに置いてもらったらお客さん増えへんかな? って篠原さんに話したら、それやったらネットの連載とかで書いたほうが書店さんにお手間がかからないという話になって」。こうして出来上がった新刊『そんなときは書店にどうぞ』には、水鈴社のnoteでも読めるエッセイに加え、書きおろし短編小説が巻末に掲載される。

 瀬尾さんのあふれる書店愛に、終始ほっこりとしたムードが漂っていたイベント。瀬尾さんはじつは人前が苦手で「普段はトークショーの依頼をお断りすることが多い」とか。その片手に握られていたのは“気持ちを落ち着かせるため”という氷水の入った水筒。そんな姿にも、大好きな書店のためなら惜しみなく応援したい、という瀬尾さんの覚悟を感じました。

撮影・取材・文=吉田あき

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