池上彰が提唱する、子どもが将来本当に必要な力とは?AI化が進む未来を生き残るために必要なのはアナログな子育て!?

『池上彰の未来予測 After 2040』(池上彰/主婦の友社)

 子どもができてからというもの、未来に思いを馳せることが増えた。これから先、どんな時代が訪れるのか。未来を生きる子どもが身につけるべき力は何だろうか。

 そう思い悩む人は、『池上彰の未来予測 After 2040』(池上彰/主婦の友社)が参考になるかもしれない。この本では、タイトルの通り、ジャーナリストの池上彰さんが16年後の未来を予測。欧米各国で少しずつ広がりつつあるマイクロチップの体内への埋め込み、日本のアニメや漫画の中国の下請け化、地球沸騰とヨーロッパ寒冷化、巨大地震、スーパー台風、円安の加速……。自分や家族が社会から必要とされ続けるために、知っておくべき知識が詰まっている。

 たとえば、今は「ChatGPT」のような生成AIが話題だが、これから先、子どもたちはどんな仕事につくことになるのか。池上さんによれば、今後、増えていくのは、企業ごとの専門知識や個性を身につけた最適な生成AIを作っていく「AIトレーナー」。これまでは、コンピューター好きはシステムエンジニアを目指す、というのが定番だったが、池上さんは、そういう子たちは今後は農機メーカーや養殖業などの意外なAI活用企業に就職していくかもしれないという。たとえば、農業はすでに機械化が進んでおり、農地を耕し、種をまき収穫する農業機械「トラクター」は、人間から指示された作業工程を、GPSで位置を確認しながら無人で作業する「ロボットトラクター」に進化、ヤンマーがフェラーリの元デザイナーを起用した、かっこいいデザインのロボットトラクターも登場しているそうだ。

 また他にも、「日経ビジネス」23年6月26日号「2040年の仕事図鑑」では、建設機械(建機)やドローンなど離れた場所にある機器を操作する「リモートパイロット」、環境負荷の低減や供給の安定を目的に新たな食糧を従来にない方法で作り出す「食糧クリエイター」、水産業の漁獲量維持を目指す「漁業レンジャー」、沈みゆく街の代わりに海上浮体都市の構想や基本計画をする「海洋都市プランナー」、パンデミックを未然に防ぐため感染症の端緒を検知する「感染症予報士」などの新しい仕事が紹介されている。人間に必要不可欠な食糧や健康などの分野で、新しい仕事が増えていくのだろう。

 では、これから先、必要な能力とは何か。池上さんは、新しくかつ需要のある仕事を生み出すのは、「困っている誰かのために」などと仕事の目的や意義を常に考えられる人でないと不可能だとして、「人間力」の大切さ、「アナログな子育て」の重要性を強調する。池上さんの子どもの頃は、野原でいろいろな年齢の子どもたちが一緒になって遊んでいた。幅広い年齢の子どもたちで遊ぶと、上級生たちは、「年齢の違う人たちに目配りをしながら、どう統率していくのか」というリーダーシップを発揮することになり、幼い子を自然と思いやっていた。池上さんに言わせれば、そういう経験は、デジタルが当たり前になっていくにつれて、今後ますます重要になるという。

 さらには、この本を読んでいると、親としての姿勢の大切さを実感させられる。教育現場ですでにデジタル教科書は導入され始めているが、教員によっては慣れておらず、授業に上手く活用できていない場合も少なくない。そんな最新技術と、親としてどう向き合うべきか。2032年にはすべての書籍が電子ブックになると言われているが、それをどう活用するか。生成AIだって同じだろう。新しいものが出てきた時に、「ちょっと試しにやってみようかな」と思う「好奇心」は時代に取り残されないために、そして、子どもたちに「自ら学ぶ姿勢」を見せるためにも重要だ。池上さんによれば、このままだと教員不足から公立の学校教育の質が低下することが予想され、ますます都市部での中学受験は過熱し、親の経済力が教育格差につながっていくという。だが、「課金」すれば東大に入れるというわけではない。高所得層の親の多くは規則正しい生活習慣をしていて、朝ご飯を子どもにしっかりと食べさせ、親自身が家で読書をしていたり、政治経済や社会問題に関するニュースに日頃から触れていたり、仕事や趣味に関する勉強をしたりしている。子どもが親のそうした文化的習慣を見て「自ら学ぶ力」を得、東大に入れるレベルの学力に行きついていると池上さんは言うのだ。それならば、これからを生きる子どもたちのために、親としてどんな姿勢を見せられるだろうか。この本には、未来について、明るいことも暗いことも書いてある。だが、間違いないのは、今は未来につながっているということ。この本とともに、あなたも、今からでもできることを考えてみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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