コロナと闘い続けた3年間。その時、何が起こっていたのか? 岡田晴恵氏が自身の経験をもとに描いた衝撃作『コロナの夜明け』

『コロナの夜明け』(岡田晴恵/KADOKAWA)

 私たち人類と新型コロナウイルスとの闘いも3年。すでにこの日本で6万人を超える犠牲者がコロナで発生している。流行も第8波の最中でまだ終息したわけではないが、外出自粛や緊急事態宣言が続いた時期よりは、だいぶ社会が落ち着いてきたようにも感じる。毎日400〜500人の死亡者が発生している現実もあるのだが、さまざまな社会活動が正常に戻りつつある中で、「この失った3年は一体なんだったろう? もっと流行と社会活動を両立させる手立てはなかったのだろうか?」――そう、もどかしく感じる人も少なくないはずだ。このほど感染症学の専門家・岡田晴恵氏が書き下ろした『コロナの夜明け』(KADOKAWA)は、この3年間の日本で何があったのかを体感できる衝撃の一冊だ。あえて手に取りやすく感情移入がしやすい「小説」の形を取ることで、私たち一人ひとりが現実を受け止め、この先の「未来をどう作るか」を考えさせてくれる。

 2019年のクリスマス・イヴ、感染症研究者の生月碧に「中国・武漢で原因不明のウイルス感染症が発生している」と一本の電話が入る。そのウイルスこそ、後にCOVID-19と名付けられ世界をまきこむ未曾有のパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスだった。碧は連日連夜テレビの情報番組に出演し、体力と精神力のギリギリまで視聴者に正しい感染症対策を訴え続ける。一方、政府の対応は後手後手に終始し、厚生労働省の専門家会議は及び腰、やがて緊急事態宣言が発令されるも感染者数は爆発的に増え…。碧はそれでも諦めず、志を同じくする仲間たちと共に、コロナ禍に国民医療を求めて闘い続けるが――。

 著者の岡田晴恵氏といえば、2020年のコロナ禍発生当初からテレビ・ラジオなどに専門家として多数出演されていたのでご存じの方も多いだろう。感染症学に基づいたコロナ政策を訴え、警鐘を鳴らし続けた岡田氏だからこそ書ける臨場感やリアリティは圧巻だ。主人公の碧をはじめ、厚労大臣、テレビキャスター、自ら検査センターやコロナ病棟をつくる呼吸器内科医、コロナの自粛で95%の仕事を失った舞台芸人やリモートばかりで大学生活に疑問を持つ学生、さらに高齢者施設に入居していた母親をコロナで失い、その母親は骨壺に入って自宅に帰ってくるしかなかったという大学教授など、登場するさまざまな人物の経験や気持ちが丁寧に描かれており、まるで当事者のように擬似体験できるだろう。そして、それは著者岡田氏の周囲でまさに起こった実録、群像小説とも言える。「あの時、こんなことがあったんだ…」と、コロナ禍を共に経験してきた者のひとりとして驚き、そして共鳴できることがあるに違いない。

 日々、ギリギリの体力と精神状態を維持しながら、いかに彼女が専門家の「責務」としてコロナ政策をひたすら訴え続けてきたか。そして悲しむべきことに、そんな彼女のもとに、いかにおびただしい量の誹謗中傷が寄せられ、彼女の精神も身体も蝕んでいたのか…本書で明かされる碧の状況はかなり過酷だ。しかしそれに負けることなく奮起し続けた彼女の姿に感動し、また、そんな彼女を助けサポートする仲間がいたことに救われる思いがする。それらに「人間」というものへの信頼をあらためて感じ、世の中もまだ捨てたもんじゃないとも思わせる希望さえも湧いてくる(まさに群像のように本書に出てくるコロナ禍の人たちへも同様の思いがする)。

 と、同時に、この日本で「できなかったこと」「やらなかったこと」がいかに多かったかを思い知って愕然とする。しかも「科学的・技術的なレベルで困難」という話ではなく、内向きの議論や組織の硬直化など、社会システムそのものが状況を悪化させていた面があるのが実情…。心から情けなくなると共に、あまりにもこの国が感染症に対して脆弱なこと、そしてそれは現在もそのままであることに身震いする。

 この本がつきつけるリアルは厳しい。本当に全編「フィクション」だと信じたくなる思いだが、フタをしてしまっては同じことの繰り返しになるだろう。少なくとも、この本に書かれた問題を広く共有することが、未来を変えることにもつながっていく。希望は捨てず、本当の「コロナの夜明け」を実現するために、多くの人にこの本が届くことを願いたい。

文=荒井理恵

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