「君の肋骨をバーベキューにして食べたい」。セックス・スキャンダルにまみれた俳優アーミー・ハマーのキャリアは終わったのか?

『ソーシャルネットワーク』(2010)や『君の名前で僕を呼んで』(2017)で知られるアーミー・ハマー。セックス・スキャンダルによって俳優としてのキャリアを閉ざされた彼に、何があったのか。彼の家族の秘密を暴いた、日本未公開のドキュメンタリー『House of Hammer』の内容とあわせて考察する

ことの発端は2021年1月に起きたスキャンダル

石油で財を成したアーマンド・ハマーを曽祖父に持つ、俳優のアーミー・ハマー
©HFPA

アーミー・ハマーに一体何が起こったのでしょうか?

2010年のデヴィッド・フンチャー監督作『ソーシャル・ネットワーク』で注目され、ハリウッドの未来を照らす新人リストのトップに躍り出たアーミー・ハマー。 そのときの彼は24歳。初々しさにあふれ、輝いていました。新人だった彼は、当初、ハリウッド外国人記者クラブが開催するインタビューリストに名前はありませんでしたが、「あのウィンクルヴォスの双子を演じた俳優とぜひ話したい」という声が上がり、取材の場に。

会場で彼が紹介されると、「はじめにひと言、挨拶させてください。僕を呼んでくれてありがとうございました。感謝しています」と丁寧に挨拶。はっきりとした言葉で、非常に綺麗な英語を話す姿に、育ちの良さみたいなものがチラつきました。

このとき以来、12年の間に少なくとも15回は彼にインタビューをする機会を持ちました。その間、礼儀正しいイメージが裏切られたことは一度もありません。

それが、2021年に、ソーシャルメディアでスキャンダルが炎上。デジタルメディアの怖さが凝縮された地獄絵に。

ことの発端は、2021年1月。SNSに投稿された匿名の告発でした。2か月後、アーミーにレイプされたと主張する投稿者の女性がオンライン記者会見を開くまでにエスカレート。その結果、警察による9か月にわたるレイプ事件の捜査がスタートしました。その結果をお知らせする前に、9月2日からアメリカの配信サービス「Discovery+」で公開されたドキュメンタリー『House of Hammer』(日本未公開)について考えてみましょう。

石油財閥として名高いハマー・ファミリー

『House of Hammer』は3話から成り立つドキュメンタリーで、アメリカの石油財閥として名高いハマー・ファミリーの、5世代にわたる屈折した歴史にスポットライトを当てています。初代がロシアから移民としてアメリカにやってきたのが1875年。ロシアが投資したいくつかの会社に関わってマネーロンダリングし、ロシア共産党が目的とする革命の資金繰りに携わっていたという噂。医師である彼は、人工妊娠中絶手術で患者が亡くなったことにより、傷害致死で刑務所へ送られます。

2代目は石油で財を成し、女性関係の醜聞をさらしました。そして3代目はドラッグにまみれ、ギャンブルがらみで人を射殺。アーミーの父の4代目は祖父に気に入られ、3代目を飛び越して全財産のほとんどを相続しました。彼も10代の頃から父のドラッグ・パーティに顔を出していたことを暴露されています。

ハマー家の5代目となるアーミーの、冒頭に挙げたスキャンダルも紹介されます。レイプを告発したのは“ヨーロッパに住むエフィ”なる女性で、3月3日にオンライン記者会見を行いました。「アーミーは2017年、ロサンゼルスで、4時間という長い時間、私をレイプしました。頭を壁に強く打ち付けられ、足をムチで打たれ、肉体的にも精神的にも多大な被害を受け、殺されると思ったくらい怖かった」と泣きじゃくりながら訴える画面が、ドキュメンタリーで何度も流れるのです。

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また、SNSで声をかけられたというテキサスの美人ビジネスウーマン、コートニーも登場。「きみの肋骨をバーベキューにして食べたい」とか「きみの体に噛みつきたい」といったアーミーから送られてきたメッセージのスクリーンショットが映され、2週間の旅行では、「彼は優しくて親切だったけど、性的嗜好が極端で不安でした。日本の緊縛画像をアートだと見せられたことも」と証言します。

ただ、最初のエフィは出演を断ったのに、勝手に記者会見の映像を使用されて憤慨しているという声明を出し、後者のコートニーは不安を語りながら、嬉々として再現ドラマに本人役として出演しているのです。ドキュメンタリーとして真実を追及しようとする姿勢があるのかどうか、疑問を感じざるをえません。

9か月続いたレイプ疑惑の捜査の結末

さて、警察によるエフィの告発の捜査はどうなったでしょう。

アーミー側の弁護士は「すべてはお互いの同意のもとで行われた行為。訴えを完全に否定します。強制的な要素は何もなく、大人同士の同意のもと」と反論。

2017年にレイプされたはずのエフィから、その後2020年7月頃まで、「(セックスのとき)こんなことをしてほしい」と露骨に要求するメールが届いていたと明かしました。それに対し、「はっきり言っておくけど、僕はきみが要求する関係を続ける気はまったくない」というアーミーの返事のスクリーンショットも、エフィの訴えがどれほど真実から遠いものかの証拠として提出されています。

捜査は9か月間続き、結果、アーミーの犯罪要素はすべて排除され、2021年の12月に捜査は終了。一体なんだったの?という結果でした。

ハリウッド一の愛妻家として知られていた

元妻のエリザベス・チェンバースと
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一連の騒動の前年、2020年7月に、アーミーは10年連れ添った4歳年上の妻エリザベス・チェンバースと離婚。それまでインタビューで、妻との出会いや自分から先に夢中になったことなどを延々と話し、「人生で最大の勇気を持って実行したことは、23歳で愛する人との結婚に踏み切ったこと」と言っていたことも。

超ハンサムで才能があり、愛妻家。取材相手の私にまで、何年間もクリスマスカードを送ってくれました。これほどパーフェクトな人が本当にいるのかと思っていたほど、礼儀正しく優しかったアーミー。

スキャンダルにより、予定されていた出演作品から彼の名前は消され、エージェントやPR会社は彼を見放しました。

あの笑顔は偽物で、乱暴なセックスを好んで放縦に生きたために俳優生命を絶たれたのか。それとも、売名目的の女性たちに利用され、スキャンダルの的となり、不確かな作りのドキュメンタリーも加わって完膚なきまでに叩きのめされたのか。

何が本当で何がデッチ上げなのかはもはや不明ですが、人間の摩訶不思議さに、髪の毛をかきむしっています。果たしてアーミー・ハマーのスキャンダルの真実はどこにあるのでしょうか。それが明かされる日は来るのでしょうか。

文/中島由紀子

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