記憶に残る熱闘! 高校野球マンガ「あの地区予選がスゴかった!」10選

いよいよ夏の甲子園が開幕。となると、この時期に読みたくなるのが高校野球マンガ。『タッチ』『ダイヤのA』『メジャー』『大甲子園』『ROOKIES』など、珠玉の名作の中から、高校野球マンガ史上に残る熱闘をふりかえる。今回は「聖地」への切符をかけた地区大会編だ。

あだち充の野球マンガ屈指ともいえる奇跡の一戦!!

①明青学園 VS 須見工(『タッチ』小学館)

東東京代表を決める一戦。甲子園未経験の明青学園をエース・上杉達也が引っ張る。永遠のヒロイン・浅倉南の「甲子園につれてって」という希望を実現できるかどうかのまさに大一番。

対する須見工を牽引するのは、天才打者として全国にその名を轟かせる新田明男。2人の対決が試合の主軸になるのは確かなのだが、事故死した弟・和也の思いを背負おうとする達也、明青学園に復讐するはずが本来の野球人へと戻っていく柏葉英二郎監督、さらには意外なプレーで試合を動かす須見工の2年生・大熊など、複雑に絡み合った思いが名勝負を編み上げていく。

連載当時、「何だよ、あだち充! 野球の勝負シーンもちゃんと描けるんじゃないか!」と多くの読者を驚かせた試合であり、野球マンガの大家となった今でもベストワンに挙げられることの多い一戦である。

試合のラスト、勝負が決するのと同時に、亡き和也もひとつの奇跡を残す。柏葉英二郎監督との後日談も、あだち充らしい言葉のやり取りを使ったエピソードで胸にグッと来る。

ベンチの駆け引きの面白さは他の追随を許さない

②彩珠学院 VS 聖母学苑(『ラストイニング』小学館)

埼玉県の地区予選決勝。古豪・彩珠学院と、新興勢力・聖母学苑による一戦。見どころは何といっても、両監督の采配。彩珠学院は、インチキセールスマンから転身を果たしたペテン師?・鳩ヶ谷圭輔。試合の流れと弱点を見抜くことにかけては超一流だ。

一方の聖母学苑の監督は、3度の甲子園出場経験を持つ智将・桐生義正。冷静沈着な分析力と、実績に裏打ちされた選手掌握術に長けている。

ベンチの駆け引きによる知的野球の面白さにかけては、最高峰に位置する一戦。野球好きなら間違いなく引き込まれる。また試合後半、全国から集められたエリート集団(いわゆる“外人部隊”)である聖母学苑の選手たちが一体となっていく展開は、単なる勧善懲悪に終わらない深みを作品にもたらしている。

思い入れ深い3年生たちが、手を伸ばした夢舞台

③青道 VS 稲城実業(『ダイヤのA』講談社)

©寺嶋裕二/講談社

主人公・沢村が1年生の夏に迎えた西東京大会決勝。相手は夏の連覇を狙う稲城実業。2年生エースの成宮鳴は、今大会失点ゼロでここまで勝ち上がってきている。しかし青道は、あえて小細工をせず、お得意の攻撃野球を展開。自分たちの野球を貫く。

なぜ、この試合が熱いのかといえば、まずは1年生の沢村栄純や降谷暁たちが初めて夏の大一番に直面したこと。さらに青道の2年生の捕手・御幸一也が稲城実業の中心メンバーたちと中学時代からの因縁があること。加えて3年生たちが甲子園か、引退かの瀬戸際に立たされたこと。3つの学年それぞれの熱い思いが交錯するのだ。

特に、連載が始まったときの3年生というのは、読者のほうも思い入れが強くなるもの。彼らが、野球人生をかけた勝負に挑むということで、物語は終盤、大盛り上がりを見せる。静かに、燃えたぎっていく3年生たちの思い。激しく、力強さを増していく下級生たちのプレー。最後のイニング、最後の瞬間まで目が離せない究極の一戦だ。

史上最大のジャイアントキリングは起こせるのか⁉

④聖秀学院 VS 海堂学園(『MAJOR』小学館)

横浜スタジアムで行われた神奈川県大会準々決勝。かつて自らが在籍した海堂学園に、新しく育て上げた聖秀学院のメンバーとして挑む茂野吾郎。エースの眉村健を温存し、吾郎を気にかける様子もない海堂学園だったが、試合は途中から雨中の決戦に。吾郎たち聖秀学院の粘りが、徐々に試合を均衡させていく。

「メジャー」は、茂野吾郎の成長物語であり、野球人としての一代記であるが、その野球人生は(特に若い頃は)苦難に満ちている。負け続けの人生と言ってもいい。だが、多くは自ら挑んだ苦難であり、望んだ挑戦でもある。

野球の超名門である海堂学園に入学し、地獄のような特訓にも耐えたにもかかわらず、あえて自分から学校を去り、打倒・海堂学園を掲げた吾郎。野球部のなかった聖秀学院に入り、ゼロから這い上がろうとする彼の反骨精神は、端から見れば無謀そのもの。彼の生き方を凝縮した試合であり、高校時代を象徴した一戦。海堂学園の壁は高く厚いが、果たして結果は吾郎に微笑んでくれるのか!?

負けてなお英雄。神奈川の象徴・不知火守が吠える!

⑤明訓 VS 白新(『大甲子園』秋田書店)

熱闘と言えば、絶対にハズせない白新・不知火守と、常勝・明訓ナインの戦い。地区大会で5度にわたってあいまみえた両者の戦いは正直、どの試合も熱いのだが、ここでは3年夏の神奈川県大会決勝を挙げた。

戦いを熱くしているのは、やはり不知火守の執念。山田太郎たちと同世代であったばかりに、全国で日の目を見ることができなかった男は、明訓に勝つことこそすべて、甲子園など関係ないというところまで覚悟を決めた。

不知火と明訓の対決で面白いところは、山田は不知火の超遅球が苦手だが、不知火は小技の利く殿馬が苦手といったジャンケンのような構造が内包されているところ。また、全国屈指の投手である不知火の、勝負に勝って試合に負けるはかなさも見どころのひとつだ。

ニコガクが総力戦で挑んだ、負けられない戦い

⑥二子玉川学園 VS 笹崎(『ROOKIES』集英社)

©森田まさのり・スタジオヒットマン/集英社

笹崎のエース・川上は、二子玉川学園のエース・安仁屋恵壹と因縁浅からぬ仲。安仁屋が中学時代にいたチームは、川上にノーヒットノーランを達成されていたのである。その2人は東東京大会の3回戦で激突。序盤は川上を意識していた安仁屋だったが、試合の途中で自分の目的は川上を倒すことではなく、甲子園へ行くことだと気づいた安仁屋は、素直に非を認めて反省する。

割れんばかりのヤジ、血染めのボール、腫れ上がる打撲……と二子玉川学園を次々に襲う試練。試合は総力戦になっていく。作者の森田まさのりと言えば、シリアスの中に小さな笑いを放り込む手法が得意だが、この試合はシリアス要素が多め。

二子玉川学園の川藤幸一監督が、笹崎のベンチに抗議へ向かうシーンは胸熱。試合の途中に挟まれる、相手エース・川上が乗り越えた挫折と苦悩のエピソードも涙を誘う。

九回裏109点差!! 野球マンガ史上最大の“逆境”

⑦全力学園 VS 日の出商業(『逆境ナイン』小学館・徳間書店)

どんな逆境にも負けない男・不屈闘志が、ついに辿り着いた地区予選決勝。相手は強豪・日の出商業。試合途中で気絶してしまった不屈が目覚めたとき、試合は何と九回裏! しかも得点は3対112。じつに109点差である!

おそらく高校野球マンガ史上最大の逆境! 果たして、不屈は乗り越えることができるのか!? アホらしい展開にバカらしい理屈を織り交ぜつつ、なぜか最後は強引に納得させてしまう作者・島本和彦マジックの真骨頂ここにあり!

「九回裏で109点差」というだけで、もう誰もが読まずにいられない。ツッコんだら負けだ。結末をその目に焼きつけろ!

雪辱を忘れず、全力を尽くす姿もザ・高校野球!

⑧朝霧 VS 滝山(『やったろうじゃん!!』小学館)

かつて練習試合で滝山にまったく歯が立たず、苦い思いをさせられた朝霧。その雪辱を果たす場面が、埼玉県予選の準決勝でやってきた。立ち上がりに滝山のエース・工藤へ先制攻撃を仕掛けるため、朝霧の喜多条順は打撃力のある選手を上位にズラリと並べる。これが功を奏して流れを引き寄せるも、滝山が意地の反撃。勝負は1点を争う攻防となっていく。

朝霧のエース・江崎は、はっきり言ってチートすぎるところがあるが、この試合では苦渋を舐めるシーンもあり、プレーにもひと際、熱気がこもっている。試合後半から決着に至るまでの流れは、作者・原秀則の冴えわたる技量を感じずにはいられない展開で、炎天下の熱戦を見事に表現している。

第三野球部の最大ライバルは、この男をおいていない

⑨桜 VS 銚子工業(『名門!第三野球部』講談社)

千葉県予選決勝。雑草軍団・第三野球部の前に立ちはだかるのは、檜あすなろをライバルと認める天才投手・桑本聡。彼は常に“高い壁”として第三野球部の前に立ちはだかっていた。最初は練習試合、同じ年の予選準決勝、翌年に再びの練習試合、そしてこの予選決勝……。

桑本は戦いを経るごとに、作中屈指の人気キャラクターとなっていった。檜あすなろと第三野球部のスゴさを素直に認め、自らも肉体改造を行ってパワーアップ。超高校級のカーブに加え、強力なストレートも身に付けた。

彼の大きな体と、尊大な「オレ様っぷり」は、主人公・あすなろの小さな体と、地道な「粘り強さ」との対比になっている。この予選決勝は、そんな正反対の2人が高校時代に集大成を迎えたという点で意味深い。

高校編の後は飛翔編へと続き、この2人がますます活躍。桑本に至っては、ほとんど主人公と変わらない扱いになっている。合わせて読んでもらいたい。

“男の戦い”が野球のワクを超えてバーストしていく!

⑩桐湘 VS 蔡理(『錻力のアーチスト』秋田書店)

Ⓒ細川雅巳(秋田書店)2014

公立校の雄・桐湘と、優勝候補の一角・蔡理による神奈川県大会準決勝。圧倒的な筋肉で相手を打ち砕く桐湘の四番・弐識敏と、マネージャーへの愛のために投げる蔡理のエース・蛮堂睦。どちらも人の話を聞かない変態であり、プレーも強引。特に蛮堂睦は、投げるたびにマネージャーへの愛の言葉を叫び、ボールは炎となって打者を熱風に包む(注・作画上の演出です)。

その風貌と言葉遣いは、「北斗の拳」のラオウそのもの。また、彼と弐識敏が対決した際は、なぜか2人とも上半身がハダカになっており、普通に殴り合っている(注・作画上の演出です)。今回の「熱闘」という言葉に、ある意味、これほど当てはまる対戦はあるまい。

文/ツクイヨシヒサ

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