人生の岐路に立った時、楽しい道を選ぶと後悔が少ない──東海オンエア 虫眼鏡×小説家・五十嵐律人対談

 現役弁護士であり、小説家として活躍する五十嵐律人さん。2020年、『法廷遊戯』で第62回メフィスト賞を受賞しデビューして以来、法律知識を生かしたリーガルミステリーで、人気を広げ続けている。

 そんな五十嵐さんの新作『幻告』は、リーガルミステリーとタイムスリップを融合した作品。法廷劇として、タイムリープSFとして、親子の人間ドラマとして楽しめる、五十嵐さんの新境地を拓いた一作に仕上がっている。

『幻告』の刊行に合わせ、五十嵐さんと各界著名人の対談企画がスタート。新刊の話はもちろん、仕事に向き合う姿勢、生き方、ミステリーの醍醐味など、さまざまなテーマでトークを繰り広げていただいた。第2回は、愛知県岡崎市を拠点に活動する6人組YouTubeクリエイター 東海オンエアの虫眼鏡さん。若くしてジョブチェンジしたふたりの生き方、企画の練り方などについて、語り合っていただいた。

(取材・文=野本由起 撮影=川口宗道)

一瞬のきらめきと安定した職業、どっちがワクワクするか考えてYouTuberを選びました(虫眼鏡)

──五十嵐さんは裁判所書記官を経て弁護士兼作家に、虫眼鏡さんは教師からYouTuberに転身されています。おふたりとも、異色のキャリアをたどって現在のお仕事に就かれたんですね。

東海オンエア 虫眼鏡さん(以下、虫眼鏡):五十嵐先生とは異色のレベルが違いますけどね(笑)。僕は先生に比べると、底辺レベルですから。

五十嵐:いや、とんでもないです。虫眼鏡さんは公務員だったんですね。ジョブチェンジしたきっかけは?

虫眼鏡:きっかけは、校長先生に呼び出しされたことでした。当時、小学2年生の担任だったんですけど、授業中に突然校長室に呼ばれて、行ってみたら「YouTubeに出てるらしいな」って校長バレしていたんです。ただ、その校長先生が男気のある方で「俺のクビでお前を救えるかもしれない。YouTuberか教員か、どちらかを選べ」と選択肢を示してくれたんですね。どっちにしようか考えましたが、結局教員を辞めることにしました。

五十嵐:スパッと決められましたか?

虫眼鏡:いや、なし崩し的に公務員を辞めた感じでしたね。当時、僕にとってYouTubeの活動は遊びの延長線上だったんです。公務員なら、よっぽどのことがなければ60歳まで安泰。ただ、どっちがワクワクするかなって考えた時に、男の子心が出てしまって。人がやっていないことをしたいと思って、YouTuberの道に飛び込んじゃいました。

──五十嵐さんは、どのように今のキャリアを築いていったのでしょう。

五十嵐:同じ年に司法試験と公務員試験に受かったので、まず弁護士になるか裁判所職員になるかという二択がありました。私の最終目標は作家だったので、取材もしながら定時に帰れそうな公務員を選んだんですね。そこで裁判所職員として働きながら、3年くらいひっそり小説を書いていました。

 その後、メフィスト賞をとったところで、上司に報告したんです。最初は祝福されましたが、「実は内容が裁判ネタでして……」と話したら、「それはまずいんじゃないか」と上司の顔色が変わりました。当然、守秘義務は守っているものの、裁判で見聞きしたことからインスピレーションを得ているのも事実です。それもあって、「作家活動は問題ないけれど、その代わり小説に書く内容をある程度事前に話してほしい」と言われてしまいました。とはいえ、小説は何かにおもねって書くものでもありません。そこで裁判所職員から弁護士になり、弁護士と作家を両方続けることにしました。

 ちなみに、虫眼鏡さんが教員を辞めた時、東海オンエアさんのチャンネル登録者はどれくらいだったのでしょう。

虫眼鏡:覚えていませんが、校長にバレるってことはちょっとくらい人気が出ていたかもしれないです。

五十嵐:YouTuberとして、勝算があったから教員を辞められたのでしょうか。

虫眼鏡:1、2年の勝算はありましたが、一瞬のきらめきと安定した職業、どっちが重いかわからなくて。YouTubeを選んだからには、自分でその価値を大きくしていくしかないと思いました。教員は聖職と言われるくらいですから、「YouTuberやってました」なんて言ったら採用試験は通りません。なので、教員を辞める時は二度と学校には戻れないという覚悟でした。ただ、僕は先生としてふさわしくないことはしていないつもりだったし、この活動が認められないなら見返してやるよという思いもありました。それがモチベーションにもなっています。

「5年後、10年後、どっちが楽しいか」という基準で進路を選ぶと、失敗しても後悔が少ない(五十嵐)

──五十嵐さんは、どのような思いから作家を目指したのでしょう。

五十嵐:司法試験に受かった時、「このまま弁護士になったら、30~40年この仕事をすることになるのか」と思ったんです。もう1回くらい何かに挑戦したいと思った時に、頭に浮かんだのが小説でした。でも、なかなか新人賞がとれず、30歳が近づいて焦り始めて……。それでも、ここで諦めたら負けた気がすると思い、見返したいという気持ちで頑張りました。

──小説家になるまでは、どのような生活をされていたのでしょう。

五十嵐:当時は、職場から徒歩1分のところにマンションを借りていたんです。朝起きて、小説を書いてから職場に行き、昼休みに家に戻ってまた書いて、定時になったらすぐ帰宅してまた書いて……という生活でした。もうどっちが本業かわからない状態でしたね。だから、講談社から賞をいただいた時は、うれしいというより安心感のほうが大きかったです。

──虫眼鏡さんが人生の選択をするうえで、指針にしていることは?

虫眼鏡:僕はもともと医者か薬剤師になりたかったんです。でも、家の事情で大学に6年通うのは無理だな、と。じゃあ、どういうテーマで自分の職業を選ぼうかとなった時に、楽しいことがしたいなと思ったんです。学校の先生って、子どもと遊んでるだけで褒められるんですよ(笑)。それが、ただただ楽しくて。教員という仕事に何の不満もありませんでしたが、YouTuberだともっと遊べるんですよね。

 今だと定年は65歳。多い人なら人生の半分以上、短い人でも3分の1は仕事してるわけじゃないですか。そう考えると、結婚相手よりも仕事のほうが真剣に選ぶべきだろうなと思いました。高い給料をもらえるつまんない仕事よりも、「楽しい!」って言えるほうがいい。そういう指針ですね。

──今、進路や仕事で悩んでいる人に向けて、おふたりからアドバイスはありますか?

虫眼鏡:僕は就活を経験していないんですけど、話を聞くと辛そうですよね。会社のネームバリューとか周りの期待もあるでしょうけど、僕としては「自分はこの仕事を65歳までやるんだ。人生の半分をこれに懸けるんだ」と思った時に、本当にそれでいいのかちょっと考えてほしいかな。どんなに給料がもらえても、楽しくなかったら辛いんじゃないかなって。

五十嵐:みなさんいろいろな事情があるので、辛い思いをしている方に「仕事辞めればいいじゃん」と気軽に言うことはできません。ただ、どちらを選んでもいいとなった時、現状維持を選ぶ人が多い気がします。おそらく現状維持のほうに重りがついていて、そちらを選びやすくなっているんでしょう。でも、そうではなく、フラットな視点で選ぶべきではないかと思います。

 また、「一度仕事を始めたら、とりあえず3年間は続けるべき」という考え方も、個人的には好きではなくて。3年続けたせいで辞められなくなる人もきっといるはず。それより「5年後、10年後、どちらのほうが楽しいか」という基準で進路を選ぶと、失敗しても後悔が少ないと思います。

虫眼鏡:もうひとつ僕が言っておきたいのは、「途中からでも道を変えられるよ」ってことですね。「めっちゃ辛い」「辞めたい」ってずっと言いながら、同じ職場で頑張り続けている人もいるじゃないですか。でも、「辞めようと思えば辞められるよ。仕事って、途中で変えてもいいんだよ」って。確かに辞める瞬間はめっちゃエネルギーと勇気を使いますが、道を変えてうまくいった人間として「道は変えていいんだよ」と伝えたいですね。

考える以外何もできない状態を作るため、体育座りでアイデアを考えています(五十嵐)

五十嵐:私から、虫眼鏡さんに伺いたいことがあるんです。長編小説の登場人物で「キャラクターが立ってるな」と思えるのは、3、4人が限界ではないかと思うんです。あとのキャラクターは、役割を与えられた人物という感じになってしまうんですね。

 でも、東海オンエアさんは6人全員が異なる個性を持っていて、それぞれの存在が際立っています。人気YouTuberグループを見ていると、企画力や編集力も優れていますが、最終的には人にファンがついているように感じます。東海オンエアさんのキャラクターの強さは、どこにあるのでしょう。

虫眼鏡:東海オンエアって、僕以外の5人はただの高校の同級生。僕がバイト先のひとつ先輩っていう関係なんです。だから、選りすぐりの面白いヤツを選んだというより、ワッと集まったただの集団なんですよね。ただ、学生時代、そういうグループってありませんでしたか? 周りから面白いグループだと思われていなくても、自分たちは「あの時のあのメンバー、すげぇ楽しかったよな」って思える軍団。

 きっと人間って、みんな特徴があって、みんな面白いんですよ。その面白さを出せる環境かどうかっていう違いがあるだけだと思うんですね。僕らの場合、自分たちのホームがあって、「コイツらの前だったら頑張ろう」って思えるヤツが揃っていて、たまたま面白さを発揮する瞬間にカメラが置いてあった。それを何の加工もしないまま、「はい、キュウリです。このまま食ってください」って差し出してるだけなんです。

 でも、小説の登場人物は実在しないから、「コイツの面白いところはここだよな」ってひとつずつ考えなきゃいけない。餃子みたいに手がかかるものを作らなきゃいけないわけですから、大変そうですよね。

五十嵐:僕がもし東海オンエアさんで小説を書くとしたら、視点人物は絶対虫眼鏡さんにするだろうと思うんです。視点人物は、個性が強いだけでは不十分。読者に寄り添い、読者と登場人物の架け橋になる存在でなければなりません。虫眼鏡さんは、まさにそう。小説だったら主人公だなと思いながら動画を観ています。

虫眼鏡:ありがとうございます。確かに僕の場合、YouTubeではあえて普通っぽいことを言うようにしてるところはありますね。東海オンエアでも、僕とりょうは普通の人ポジションなので。

──東海オンエアの企画力についても教えてください。みなさんが企画を考える時は、それぞれがアイデアを持ち寄るのでしょうか。

虫眼鏡:ネタ会議が2週間に一度あるので、ひとり何個かアイデアを提出します。僕の企画は「こういうゲームをやりたいです。僕に任せてください」って5分で終わるんですけど、としみつやしばゆーが出すネタは面白ワード1個だけってことも。そこから時間をかけてみんなで練り上げていくんです。

 でも、そこで効率だけを重視しないのが東海オンエアの良さなのかなとも思って。ごった煮みたいに「今日はこういう企画か」「今日はどうしちゃったんだ?」っていろんなネタが詰まっているのが、面白さなのかもしれないですね。

──五十嵐さんは、小説のネタはどうやって考えているのでしょう。

五十嵐:プロットを作らずに書くタイプなので、ずっと頭の中で考えています。ベッドの上で体育座りしながら、ひたすら考え続ける。その状態が半月くらい続いて、ようやく何か書けるかなと思って書き始めます。

虫眼鏡:なぜ体育座り……。

五十嵐:背中をどこにもつけず、ベッドの上にぽつんと体育座りしていると、考える以外何もすることがないんですよ。そうやってただ考えていると、アイデアが浮かぶことが多くて。

──虫眼鏡さんは、インプットのために何かしていることはありますか?

虫眼鏡:昔は、街を歩いてて「あ、なんか気になるな。これネタになるじゃん」ってサッとネタを出せたんですけど。だんだん自分たちの中でもハードルが上がってきましたし、今までやってきたネタとかぶらず、他の人とも違うことをしなきゃならないという制約が増えてきたんですね。そうなった時に、インプットとアウトプットの作業は別々にやらなきゃダメだなと思いました。だから、ここ2年くらいは何も考えずに予定を入れるようにしています。「何かネタにならないかな」じゃなくて、ただ見る、ただ遊ぶ。

 で、アウトプットする時は、五十嵐先生みたいに体育座りするしかないんですよ。僕、サウナが好きなので、サウナの中でめっちゃ考えようとするんですけど、「あっちぃ!」しか考えられない(笑)。何かやりながらだと、ダメなんだろうなと思います。

五十嵐:やっぱりインプットは大事ですよね。小説は同じ媒体なので他の作品を読んでもインスピレーションにつながらないんですけど、マンガやYouTubeの動画を観ていると「これ、リーガルミステリーにしたら面白いな」とアイデアが湧くことが多い気がして。……というのを口実に、YouTubeを観ています(笑)。

『幻告』は、裁判とタイムスリップを一緒に料理しているのが新鮮。こんなの初めてでした(虫眼鏡)

──では、五十嵐さんの新刊『幻告』についてお話を。虫眼鏡さんが『幻告』を読んだ感想は?

虫眼鏡:学生時代からいろいろな本を読んできましたが、作家さんの年齢は僕より30歳も40歳も上。ミステリーを読む時も、年上の作家さんが書く王道の作品、骨太なルールを「そういうものだ」と思って受け取ってきました。でも最近は僕とほとんど年齢が変わらない、平成生まれの作家さんも増えてきましたよね。そういう方々の作品って、ひねりがあるんですよね。アニメもマンガもYouTubeの動画もそうですが、今までの作品を踏まえて半ひねりを加えてきているように感じます。

 今回も、弁護士兼作家さんの小説だって聞いて、最初は「ヤバい、くそムズいのが来ちゃったかな」と思ったんですね。でも、読んでみたらタイムスリップという言葉が出てきて、目を疑ってしまって。現役の弁護士さんだから、普通に裁判小説を書いたって他の人には書けないようなすごい作品になるはず。なのにSF要素を入れて、裁判とタイムスリップを一緒に料理しているのがすごく新鮮で。チープな表現ですが、「こんな小説、初めて!」って思いましたね。

五十嵐:確かにリーガルミステリーと言うと、年配の弁護士と検察官が法廷でバチバチやりあう作品が多いですよね。でも、そればかりだと読者も物足りないのではないかと思います。僕は法律がすごく好きで、こんなに面白い学問はないと思っていますが、それを説明するには法律を一から学んでもらわなければなりません。でも、小説だったら、法律の面白さをうまく伝えられるんじゃないかと思ったんです。それで、「法律×○○」をテーマに小説を書いてきました。

 とはいえ、法律と掛け合わせる「○○」がおまけになっている気もしていて。よりインパクトのあるものはないかと考え、タイムスリップと掛け合わせることにしたんです。どうなるかと思ったら、思いのほか地に足がついた小説になりました。

──虫眼鏡さんは、この本をどういう方に勧めたいですか?

虫眼鏡:それこそミステリーオタクに勧めたいですね。王道ミステリーを好きな人に勧めて、「こんなんアリなんだ。こういう時代になったんだ」って驚いてほしいなと思います。「ミステリーにタイムスリップを取り入れたら、何でもアリやん」って思っちゃいそうですけど、先生がおっしゃる通り、地に足がついているんですよね。

 それに、ストーリーの面白さだけでなく、裁判についても勉強できました。タイムスリップをして裁判の結果を変えていく過程を読んで、「ああ、裁判所の中ではこういうことが起きているんだ」と初めて知って。提示された情報をもとに、自分の心情を排して事件を裁く裁判官という職業にも興味が湧きました。

五十嵐:裁判をエンタメにすべきとは思いませんが、興味を持ってもらうのは重要だと思っていて。でも、日本では裁判はベールに包まれていますし、裁判官という存在も謎めいています。それもあって、裁判官をメインに小説を書きたかったんです。

──虫眼鏡さんは、もともとミステリーがお好きだそうです。このジャンルに、どんな魅力を感じていますか?

虫眼鏡:最初に読書にハマったきっかけが江戸川乱歩だったので、読む本の7、8割はミステリーでした。最近は人が死なないミステリー、ユーモアミステリーなどジャンルがめっちゃ増えましたよね。それこそ僕がさっき言ったように、半ひねりした作品が多いと感じます。エンタメの殿様が小説だとしたら、ミステリーは殿様の中の殿様。そんな大親分がどんどんジャンルを広げているのが、すごく面白いなと思います。

五十嵐:書く側も必死なんですよね。私もいざ自分がデビューするとなった時、王道の本格ミステリーや青春ミステリーでは太刀打ちできないと思いました。本格ミステリーにも青春ミステリーにも、トップオブトップの先生方はそれなりの数いらっしゃいます。その中でオリジナリティを出し、自分の居場所を築いていくのは相当難しいことだと思います。

 それに、今の新人作家で小説がエンタメのトップだと思っている人は少ないような気がします。小説は殿様ではなく、いろんな方に楽しんでもらえるものでなければなりません。YouTubeやSNSなどこれだけ娯楽があふれていますから、文字だけで楽しませるなら工夫が必要です。それもあって、みなさん必死でオリジナリティを出そうとしているんじゃないでしょうか。ただ、それは小説に限らず、どのエンタメにも言えることだと思います。

虫眼鏡:ミステリーって強いですよね。小説の根幹には、何かわからないことがあり、それが徐々にわかるようになっていくという快感があると思います。だから、何かしらの謎を解くものは、全部ミステリーとも言えますよね。ミステリーの定義も広くなっていますし、柔軟性もあります。これからがますます楽しみなジャンルですね。

『東海オンエアの動画が6.4倍楽しくなる本 虫眼鏡の概要欄 クロニクル』(虫眼鏡/講談社文庫)

虫眼鏡さんによるエッセイシリーズ「虫眼鏡の概要欄」の第4弾。平成から令和にかけて書き連ねてきた動画概要欄の傑作選に加え、虫眼鏡さんの魅力たっぷりの書き下ろしエッセイが収録。

『幻告』(五十嵐律人/講談社)

裁判所書記官として働く宇久井傑(うぐい・すぐる)は、ある日、法廷で意識を失い、目覚めるとそこは、実の父親が有罪判決を受けた5年前の世界だった。事件資料を読み父の冤罪の可能性に気づいた傑は、タイムリープを繰り返しながら事件の真相に迫っていくが、やがて目にした未来では、最悪の事態が待ち受けていた――。

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