高橋ヨシキが映画『流麻溝十五号』と 『お隣さんはヒトラー?』をレビュー!

日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 地獄の"思想改造施設"に収監された3人の女たちの闘い!&「ヒトラーの南米逃亡説」を基に描くコメディ?

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『流麻溝十五号』

評点:★4点(5点満点)

©thuann Taiwan Film Corporation


©thuann Taiwan Film Corporation

「思想」は弾圧できても人間は生き延びる

台湾(中華民国)のいわゆる「白色テロ」、すなわち「動員戡乱時期臨時条款」によって反政府勢力とみなされた人たちが数多く収監され、あるいは処刑された恐怖政治の時代を描いた作品である(「白色テロ」時代は40年近く続くが、本作はその初期、1953年という設定)。

舞台となるのは日本統治時代に「火焼島」と呼ばれた小島に設置された思想犯のための強制収容所で(「新生訓導処」という)、主人公の女性たちはそこでさまざまな暴力や「思想改造」の不条理と直面することになる。

このような不条理はジョージ・オーウェルが『一九八四年』で描き出したものとまったく変わらない。だが、本作は悲痛ではあれど、オーウェルの作品ほど悲観的ではない。

台湾に限らず、歴史を通じてあらゆる場所で集団と権力は個人を圧殺しようと試みたが、それでも最後まで折れなかった人たちがいて、生き延びた人たちがいる。イデオロギーと結びついた暴力は手に負えないものだが、それが『一九八四年』のように最終的な勝利を収めたことはないのである。

シリアスな題材だがところどころユーモアも交えたテンポの良い作品であり、年齢も出自も違う主人公3人のキャラクターも魅力的だ。

STORY:1953年、政治的弾圧が続く台湾で思想改造・更生のため監獄に収監された3人の女性たち――絵を描くのが好きなユー、妹を拷問から守るため自ら囚人となったチェン。正義感の強い看護師のイェンは、次々と迫る不条理に立ち向かう。

監督:ゼロ・チョウ
出演:ユー・ペイチェン、リェン・ユーハン、シュー・リーウェン 
上映時間:112分

ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開中

『お隣さんはヒトラー?』

評点:★3.5点(5点満点)

©2022 All rights reserved to 2-Team Productions (2004) Ltd and Film Produkcja


©2022 All rights reserved to 2-Team Productions (2004) Ltd and Film Produkcja

これはヒトラー版の『フライトナイト』だ

正直、最初は「えっ、またそういうネタの映画なのか」と思ってしまったが、予想に反してグイグイ引き込まれた。

舞台は1960年のコロンビア。主人公はホロコーストで家族すべてを失ったサバイバーで、いまは閑散とした田舎で一人暮らしをする老人である。ところがある日、隣の空き家に怪しい年寄りのドイツ人が引っ越してくる。

あの男には見覚えがある! というのも、主人公は若い頃チェスの名手で、戦前にベルリンで開かれたチェス大会でヒトラー本人とすれ違ったことがあったからだが、駆け込んだイスラエル大使館は「ヒトラーは死亡しましたよ」とにべもない。

それでは、と、老人はカメラを買い込んで隣人がヒトラー本人であることを証明すべくその一挙手一投足を観察し記録しようとする。

まったく異なるジャンルの映画だが、この構造は「隣に越して来た男たちが実はヴァンパイアなのでは?」と高校生が大慌てするホラー・コメディの名作『フライトナイト』(1985年)にそっくりで、もちろん本作の前提となる歴史的事実は限りなく重いが、コメディ・タッチの優しいエンターテインメント映画に仕上がっている。

1時間36分と尺がタイトなのも良い。

STORY:1960年。ホロコーストを生き残った男ポルスキーは、南米コロンビアで暮らしていた。そんな彼の隣家にヒトラーに酷似したドイツ人が引っ越してくる。隣人がヒトラーだと証明するため、ポルスキーは証拠集めに奔走するが......。

監督:レオン・プルドフスキー
出演:デヴィッド・ヘイマン、ウド・キアほか
上映時間:96分

新宿ピカデリーほかにて全国公開中

【写真】『お隣さんはヒトラー?』のレビューにも注目!

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