政府の緊急事態宣言 今後の方針は

【ビブリオエッセー】「お性根」が見守る中で 「仏像さんを師とせよ―仏像修理の現場から」八坂寿史(淡交社)

著者は美術院国宝修理所で仏像修理を専門に手がけてきた技術者です。本書には「仏像さん修理は仁術」と書いています。お医者さんと同じように損傷の履歴(病歴)を知り、詳細な観察から何度も重ねる検討、そして解体などの施術へ、最先端の技術も使いながら熟練の手仕事で健康な姿を取り戻す仕事です。

駆け出し時代から先輩の技術を「見て盗む」毎日、その苦労話や専門技術の解説、思わぬ発見の話に引き込まれました。中でも心惹かれたのは仏像の「お性根(しょうね)」の話です。どの仏像も篤い信仰の対象として崇められていたので修理の時は「撥遣(はっけん)の法要」をしてお性根を抜かねばなりません。そのお性根が仏像の傍で修理を見ておられるというのです。そして困難な時には力を与えてくださるという著者の心象です。

私は有名な国宝の観音様がおられる聖林寺(桜井市)の住職の娘として貴重な体験をしました。昭和34年、観音堂が新築され、予定の日に観音様はお厨子から観音堂へ移られたのですが学校から帰るなり観音堂へ。今まで腰から上しか見えなかったお姿の全身を拝み、「立派やなあ。ほんと美しい」と感激したのを覚えています。翌日、誰もいない観音堂の扉を開けると朝日が差し込み、観音様の全身を包みました。その神々しいお姿は今も忘れられません。

本書を読んで気づきました。お性根を抜いたり入れたりで観音様ご自身も戸惑っておられたのではないでしょうか。ようやく落ち着かれ、一番初めにお堂を開けた私に輝くお姿を見せてくださったのだと。

その観音堂が今回、耐震修理されることになり、観音様は特別展のため先日、初めて東京へ旅立たれました。きっと多くの方々に感動を与えてくださると思います。

奈良県桜井市 中村尚代(78)

投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556―8661 産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

ジャンルで探す