ことほぐ甘粥、甘酒のこと/生物群「やさしい食べもの」②

 自炊をこよなく愛する内科医・生物群による、どこまでもやさしい食エッセイ。忙しない日常のなか、時に自分を甘やかし、許してくれる一皿の話。

 甘酒を自分で作るとき、温かいまま食べるとき、これは甘粥だなと思います。甘酒のことを90℃とか100℃とか熱々で食べない甘い粥の扱いをしています。

 すっきりしたい気持ちになりたいときに水を飲む、どうにも空腹で獰猛な気分になり、満たされたいときに炊いた米を食べる。そのあいだの欲を持ったときに粥を啜る。そして、粥に加えて祝いや寿ぎ(ことほぎ)があるのが甘粥のような甘酒だと思います。

 米と水を鍋の火にかけて、さらさらの粥を作る。米のでんぷんで、粒は残りながらもたくさんの米粒と水は渾然一体となり、お粥になって少しぽってりとする。それを60℃まで冷ます。調理用の長い温度計を粥の中に挿して目盛を見ていると、だんだん温度が下がってきます。ぬるま湯を混ぜて早く冷めるよう温度を調整してもいいでしょう。温度が下がったら、板になっている米麹をぽろぽろと手の中で崩しながら粥に加えて、全体を混ぜます。板になって売られている米麹は、米と米のあいだに靄や雲のような麹かびの作るふわふわの綿がついていて、発酵食品になったあとにはお目にかかれないそのものの姿を見せてくれます。60℃を維持できるよう、保温をしてそのまま置いておきます。置いておくだけで、8時間ほど経つと完成します。

 発酵させる60℃の保温の過程では、私は真空保温調理器を使っています。炊飯器の保温モードが一番気楽でしょうか。

 温かくできあがった甘い粥、甘酒をそのまま食べます。市販の甘酒よりだいぶさらさら度が低く、食べもののようなテクスチャーになっています。食べ方のおすすめは、冷たい無糖ヨーグルトと同じ皿によそうことです。似た見た目で違う味のものを同じお皿にのせてそれを食べると、目からの情報と口の中の情報が交叉して、不思議な体験になります。毎日の生活で少し不思議な体験を続けることが毎日を続けるこつのように感じます。甘くてぽってりとした手作りの甘酒と比べ、冷たいヨーグルトは舌がよそよそしく感じます。親しい、よそよそしい、親しい、よそよそしいが舌の上で目まぐるしく変わり、なんだかわからなくなるうえ、飽きずに食べることができます。

 甘酒が残ったとき、日本の食材に寄せた惣菜のようなカレーに入れることができます。私はインドカレーとかスリランカカレーを作ることがあるのですが、これらに入れるココナッツミルクのように甘酒を使います。特に、スリランカのカレーにはモルディブフィッシュという日本の鰹節のような食材を出汁のように使うことがあり、これらのカレーにはココナッツミルクもよく合います。つまり、モルディブフィッシュを鰹節、ココナッツミルクを甘酒に置き換えて日式ルーカレーとはまた違う、日本のカレーを作ることができるのです。具は豆のカレーにしてもいいし、貝や白身魚も合うと思います。また、中華料理の調味料に酒醸(チューニャン)という甘酒によく似たものがあります。甘酒を作って使いたいとき、回鍋肉や海老チリソース煮に入れるのも好きな使い方です。辛い豆板醤と甘い甘酒が肩を組んで味の濃い料理を美味しくしてくれます。

<第3回に続く>

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