【ビブリオエッセー】後宮の毒見役は名探偵 「薬屋のひとりごと」シリーズ 日向夏(ヒーロー文庫・主婦の友インフォス)

 「フグの毒、食べたい!」。これが、このライトノベル(ラノベ)のヒロイン、猫猫(マオマオ)の願望だ。

 週に数回は顔を出す書店で「御礼 12000000部突破」の帯に目が止まった。シリーズ新刊は第10巻。累計とはいえ1200万部とは凄い数字だ。登場人物の名前や食べ物、「上質紙が貴重」といった文章から察するに舞台は中国王朝だろう。

 その宮廷を舞台に猫猫の活躍が始まるのだが父は役人、母は妓女、育ての親は父の叔父で城下の花街(遊郭)にある診療所の医師。花街で生まれ育った猫猫は養父のもとで薬師(ここでは薬の専門家)をしている十代の少女だ。毒と薬草が大好きで自分の体で人体実験するほど。そこで「死ぬならフグの毒で」となる。

 花街という場所柄、危ない人たちに狙われないようソバカスを付け、不細工に見せていた。にもかかわらず薬草を採りに行った先で人さらいにあい、宮廷の後宮(いわゆる大奥)に下女として売り飛ばされてしまう。不幸を絵に描いたような生いたちだが本人は衣食住に困らないと平然としている。

 皇帝の上級妃である玉葉妃と赤ちゃんを「おしろい毒」から救った名推理を皮切りに次々と舞い込む難事件。下女から玉葉妃の侍女で毒見役に出世して喜んだり、暴いた結果、解雇され花街に出戻ったりもした。「おしろい毒」事件で猫猫に興味を持ったのが後宮を仕切る絶世の美形宦官、壬氏(ジンシ)。ふたりはドロドロした事件をサラサラ解き明かす。

 猫猫は毒と薬草以外には興味がない冷めたヒロイン。このシリーズは巣ごもりの日々に飽き飽きしている脳内を洗い流してくれるだろう。ラノベ好きの私も毒を食べてみたくなった。

 大阪府茨木市 比良坂壱 68

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