40歳過ぎてから夫婦で囲碁に挑戦。新井素子「目指せ初段!定年を迎えた夫と、晩酌しながら囲碁を打つ喜び」

(撮影:本社写真部)
40歳を過ぎてから夫婦で囲碁を始めた作家の新井素子さん。ものごころついた時から読書にばかり熱中していたという彼女にとっては珍しく、長年続く趣味になりました。囲碁との出合いが、新井さんにもたらしたものとは(構成:上田恵子 撮影:本社写真部)

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【写真】日本棋院100周年を祝して作った詰碁

右も左もわからぬまま 日本棋院の教室へ

「素子さんも、この囲碁ゲームをやってみませんか?」と誘われたのが、20年以上前のこと。わが家のホームパーティーに来ていた友人の一人が、『ヒカルの碁』という漫画が原作のゲームにハマっていたことがきっかけでした。

このゲームソフトが実によくできていて、いい手を打つと藤原佐為(ふじわらのさい)というキャラクターが「それはいいですね」と、ものすごくいい声で褒めてくれるんです(笑)。私も漫画を読んでいたので、早速購入。

結局パーティーに参加していた方の多くがゲームを手に入れ、わが家で対戦することになりました。

ただ、ゲーム機は画面が小さくて見づらく、打ちたかった場所とずれてしまうこともしばしば。どうせ集まっているのだからと、ほどなく私たちは本物の碁盤で対戦するようになりました。

囲碁は、ルール自体はシンプルで、黒と白の石を交互に打ち、陣地を多く囲ったほうが勝ちです。でも初心者には、どこで勝敗が決まったのかもわからない。ゲームみたいに機械が判断してくれないので、ホームパーティーに囲碁経験者を招いたりしながら、囲碁そのものに夢中になっていきました。

仲間内では、囲碁の本を読む人もいれば、近所の碁会所に通って力をつけようとする人も。そこで私たち夫婦は揃って市ケ谷駅前にある日本棋院の門を叩き、初心者向けの囲碁教室へ通うことにしたのです。

教室では1時間ほどプロ棋士である先生の講義を受け、その後に生徒同士で対局をするという流れでした。最初は十何級から始まり、4級くらいまではテテテッと上がったので、われながら強くなってきたと思っていたのですが、そこからが……。

「目指せ初段!」と言っていた当時と同じく、いまだに「目指せ初段!」と言ってます。(笑)

「ぬい」と呼んでいるぬいぐるみは、旅行にも連れていく。対局中の碁盤に並べて撮影した1枚(写真提供◎新井さん)

囲碁とお酒と温泉と。贅沢な合宿を開催

コロナが流行ったこともあり、もう教室には通っていないのですが、その先生がフレンドリーないい方でね。いつの間にか「先生の会」みたいなものができあがって、今はそちらの会に通っています。

すっかり生徒同士も仲良くなり、ある時から夫が企画して始めたのが、「囲碁合宿」。先生が温泉好きなので、温泉旅館で開催しています。旅館って碁盤を置いているところが多いのですよね。

合宿では、参加者が多い時はトーナメント戦、少ない時は総当たり戦で、ひたすら対局をします。決勝戦は先生に大盤解説をしてもらって大盛り上がり。贅沢ですよねえ(笑)。

多い時で16人ほど集まることもありますし、時には前日から前乗りしている人も。碁を打って、美味しいものを食べて、温泉につかってと、すこぶる充実した時間を過ごしています。

囲碁教室を探してくれたのは夫ですが、何かを始める時に、まずは教室に行くというのはとてもいい手段だと感じます。何よりいいのは、周りが皆初心者だから、「わからない仲間」ができること。大人になって、趣味を通じてできた友人たちとの関係は、とても新鮮です。

ほかにも、日本推理作家協会の「囲碁同好会」や川端康成先生がお作りになった「文人碁会」など、作家同士で囲碁を楽しむ、なんてことも。皆さん強くて、びっくりです。

囲碁の魅力は「考える」ことだと思っています。相手の打つ手は簡単には読めないものの、一所懸命考えていると数手先までは読めるようになる。そうやって、必死に考えるのが楽しいんですね。

子どもの頃は、本を読んでいると周りの音が聞こえなくなるタイプで、「呼んでも返事をしない」と家族から不評を買っていました。集中して囲碁を打っている時もやっぱり周りの音が聞こえなくなるのですが、その感じは結構好きです。

大人になると頭を使う機会が減るので、何かに夢中になる時間って良いものだなと思います。小説を書いている時ですか? 私は頭を使わずに書いてしまうので……。(笑)

ケンカになるので夫とは打ちません

囲碁は夫婦2人で同時に始めたため、実力もほぼ一緒。同じペースで学んでいけたのは幸いでした。

でも最近は、夫とはなるべく打たないようにしているんです。なぜなら、かなりの確率でケンカになるから(笑)。囲碁は対局後に感想戦という振り返りをするのですが、夫に自分の失敗を指摘されると、ついムカッとしちゃうんです……。

ただし旅行の時は別。囲碁は新幹線の中で時間つぶしにやるにはもってこいなので、携帯用の碁盤を持参して、夫婦で楽しんでいます。囲碁関係のイベントがあれば連れ立って行きますし、夫が録画しておいてくれた囲碁番組を観ながら碁石を並べてみたり。お互いに意見を言い合えるから、とても楽しいのです。

夫も定年を迎えたので2人の時間が増えて、「夫婦で同じ趣味があるって悪くないなあ」と思います。

ものごころついてから、私の唯一の趣味は本を読むことでした。今でも一番好きなのは読書です。それはもう、本を読んでいない自分など想像できないくらい。

でも、小説家という仕事をしていて趣味が読書というのもねえ(笑)。なので40歳を過ぎて囲碁という趣味を持てて、本当に良かったです。

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