【金木犀(キンモクセイ)】トイレ消臭剤の「元祖」。強い香りで虫を誘うが、雌株がないのでタネはできない物悲しい花〈身のまわりの植物マメ知識〉 

日本の草花を四季に応じて紹介する『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(著:田中修 絵:朝生ゆりこ 中央公論新社刊)から、いまの季節を彩る身近な植物を取り上げ、楽しく解説します。今回のテーマは「【金木犀】強い香りを放つ三大芳香花」です。

* * * * * * *

【写真】雌花がいないキンモクセイ

秋の訪れを感じさせてくれる香り

キンモクセイの香りは、「秋の香り」といわれ、小さく黄金色の多くの花から漂う甘い香りは、秋の訪れを感じさせてくれます。ただ、秋の香りとはいいますが、秋の間中、香っているものではありません。地域によって香る時期はずれるでしょうが、私の住んでいる関西地方では、10月の上旬、香るのは10日間ほどだけです。

この植物の英語名は、その強い香りゆえに、「香るオリーブ」を意味する「フレグランス・オリーブ」です。香りが強いので、「九里離れた場所まで漂う」という意味で、この植物は、中国名で「九里香(キュウリコウ)」といわれます。ただ、日本の一里は約四キロメートルですが、中国の一里は約400~500メートルですから、約3600~4500メートルに花の香りが飛ぶという意味です。

この植物は、春のジンチョウゲ、初夏のクチナシとともに、強い香りを放つ「三大芳香花(ほうこうか)」です。ジンチョウゲは「七里香(シチリコウ)」といわれるので、昔の人々は、キンモクセイの花の香りは七里香よりも強いことを、感じていたのでしょう。

この植物は、トイレのそばに植えられているといわれます。たとえば、公園の公衆トイレの横にキンモクセイがあります。「香りが強いからトイレの臭いを消すため」といわれます。でも、そんなことはないでしょう。キンモクセイの香りは、10日間ほど香るだけですから、トイレの横に植えておいてもトイレの臭いはごく短期間しか消すことはできません。

トイレ消臭剤の《元祖》といえる香り

「トイレの消臭剤」には、この植物の香りが、長い間、使われてきました。この理由は、香りが強いから選ばれたのでしょう。でも、近年ほとんどが使われません。そのため、この香りは、トイレ消臭剤の《元祖》となってしまいました。「なぜ、元祖になってしまったのか」と不思議です。この香りは、汲み取り式トイレのイメージがあまりに強いので、「現在の水洗トイレにはふさわしくない」といわれています。

秋に花咲くキンモクセイは、「花が二度咲く」といわれます。しかし、これは「キンモクセイの花が、秋以外の季節にもう一度咲く」といっているのではありません。

一般的には、キンモクセイは、10月上旬に10日間ほど花咲きます。ところが、原因は不明なのですが、その2週間ほど前に、あるいは、その2週間後にもう一度咲くという意味です。

たとえば、9月23日ごろに一度咲き、次に10月10日ごろに咲くのです。しかも、2度咲くうちの一度は、目立つほうの開花に比べて、数分の一ぐらいの花の個数しか咲きません。だから、普通には目立ちません。

しかし、「二度咲く」といわれるキンモクセイが、意外と多いのも確かです。特に国の天然記念物に指定されているキンモクセイの大樹は、「二度咲く」といわれることが多いのです。

たとえば、東京都八王子市の「小野田のキンモクセイ」、熊本県上益城郡甲佐町麻生原(かみましきぐんこうさまちあそうばる)のキンモクセイ、静岡県三島市の三嶋(みしま)大社の樹齢1200年を超えるキンモクセイ、宮崎県延岡市北浦町古江(ふるえ)の樹齢300年の「古江のキンモクセイ」などです。

キンモクセイはタネができない

キンモクセイは小さな黄金色の花をいっぱい咲かせますが、タネはできません。「なぜ、タネができないのか」との疑問がもたれます。

キンモクセイには、イチョウと同じように雄株と雌株があります。雄株と雌株は別々であっても、イチョウの雌株にギンナンができるように、キンモクセイの雌株にはタネができるはずです。ところが、日本には、キンモクセイの雌株がないのです。江戸時代に中国から日本にもたらされたのは雄株だけなのです。そのため、タネができないのです。

同じように、強い香りを漂わせるジンチョウゲも、タネをつくりません。キンモクセイとジンチョウゲには、花の香りを遠くへ飛ばすこと以外に、共通の性質がもう一つあるのです。

ジンチョウゲが、タネをつくらない理由は、キンモクセイと同じように、日本には雌株がないことです。印象深い甘い香りを発散させて春に花を咲かせているのは、すべて雄株なのです。キンモクセイとジンチョウゲには、奇妙な共通点があるのです。

これらの植物にタネができないことを知ると、「タネがないのに、どうして増えたのか」という疑問が浮かびます。おもに「挿し木」で、人工的に増やされているのです。これもジンチョウゲと同じであり、キンモクセイも自然の中で自分で増えることのない木なのです。

キンモクセイは、黄金色の目立つ花をいっぱい咲かせ、昆虫を誘います。しかし、せっかく虫を引き寄せても、子孫(タネ)をつくれません。その花の寂しさが香りに乗って、私たちに秋の物悲しさを誘うのかもしれません。

キンモクセイ(金木犀)

[科名]モクセイ科
[原産地]中国
[花言葉]謙遜、気高い人、志の高い人、変わらぬ魅力

ジャンルで探す