「下仁田」だけじゃない…大阪にもあった名物ねぎ

大阪伝統の「難波葱」と、長年生産に携わってきた稲田元正さん=大阪府松原市

 今の季節、鍋料理に欠かせない食材がねぎ。スーパーの野菜売り場では、地元産のほかにも遠方で作られたものが並ぶ。いわゆる「ご当地ねぎ」は、群馬県下仁田(しもにた)町の「下仁田ねぎ」が有名だが、このほかにも兵庫県朝来(あさご)市の「岩津ねぎ」や大阪府の「難波葱(なんばねぎ)」などご当地ねぎがあり、それぞれに伝わるおすすめの食べ方がある。ご当地ねぎを取材をしてみると、それぞれの土地に守り、育ててきた人たちの努力があった。(藤崎真生)
明治の難波はねぎ畑
 「難波葱配布してます」「生で食べてみてください」。今年1月中旬、大阪市中央区の南海難波駅前で、大阪府の関係者や農家ら約50人が声を張り上げ、伝統の野菜「難波葱」を配っていた。
 平成29(2017)年春に大阪府が取り組む「なにわの伝統野菜」に認証されて以来、知名度が上昇している難波葱。そんな中、この日から府内で「難波葱フェスタ」が始まった。
 歴史は江戸時代ごろにさかのぼる。大阪府によると、当時の書物には「難波がねぎの産地」との記述があったほか、南海電鉄の前身会社の社史も、明治18(1885)年に完成した難波駅の周辺はねぎ畑だったと記している。
 濃厚な甘み、強いぬめりと香りが親しまれたが、強いぬめりのため、機械で切るのが難しく、市場関係者から敬遠されるようになり、広く流通しなかったという。
 このような中、難波葱のおいしさを広めようと、有志らが平成22年に「難波葱の会」を結成。料理人に頼んでメニューに加えてもらったり、PRイベントを開いたりと地道な取り組みを重ねてきた。
 平成25年には「難波葱」と記された明治43(1910)年の種苗会社の品種カタログを発見。「大阪難波の名産」などと説明されていたこともあり、なにわの伝統野菜の認証につながった。現在は大阪府松原市などを中心に約50人が約180アール(大阪府確認分)で栽培している。
 元タウン紙編集長で同会事務局長の難波りんごさん(64)は「炊いても焼いても、甘みがあるのでたっぷり食べられる。『すき焼き』や『ぬた和(あ)え』など、どんな料理でも使える万能さがいい」。普通のねぎなら捨ててしまう根を含む「一番下の部分」にかたくり粉を付けて油で揚げるのがおすすめという。大阪・松原市自慢の「河内鴨」と難波葱を炊いた鍋も味わってみたい。
「200年の伝統」今に
 ここ数年で注目度が高まるのは兵庫県朝来市産の「岩津ねぎ」だ。国内有数の鉱山として栄えた市内の「生野銀山」で働く労働者の栄養源として育てられたことが起源といい、約200年の歴史を持つ。
 だが、春に種をまいてから収穫まで約8カ月かかるなど栽培が難しいため取り扱う農家も次第に減少。平成2(1990)年の段階では、農家数軒が約2ヘクタールで栽培という状況にまで陥った。
 こうした状況から、合併前の旧朝来町が、町内の岩津地区だけで栽培されていた岩津ねぎを町全域で育てることに決定。平成13年には商標登録を取得し、さらに17年には周辺3町と合併して現在の朝来市となって以降は市内全域で栽培するなど地道な努力を重ねた。その甲斐あって今では約30ヘクタール、約250人が生産に取り組む。
 さらに品質を守るため、岩津ねぎとして出荷するには「ねぎの白い部分の長さが25センチ以上、青い(緑の)部分は長さ50センチ以上」などの基準を設定。今季からは流通量アップのため、「白い部分23センチ以上、青い部分20センチ以上」といった品も出荷できるようになった。
 今季の出荷は3月21日まで。味の魅力は軟らかさと甘さ。「全部が食べられる」点が特徴で、おすすめの食べ方は天ぷらという。また、特産の但馬牛とすき焼きで食べるのは「最高のぜいたくです」と市の担当者は胸を張る。
甘くとろける殿様ねぎ
 「ご当地ねぎ」でも全国的に有名なのが群馬県下仁田町特産の「下仁田ねぎ」。白い部分が深く太いのが特徴で、県民にはおなじみの「上毛かるた」でも「ねぎとこんにゃく下仁田名産」と紹介されている。
 詳しい由来は明らかではないが、興味深い史料が残る。文化2(1805)年11月8日付の手紙で「『ねぎ200本至急送れ、運送代はいくらかかってもよい』」との内容。江戸の旗本から町内の旧家にあてたもので、この時点で珍重されていたことがわかる。
 こうしたことから「殿様ねぎ」とも呼ばれる下仁田ねぎ。生で食べるのは辛過ぎるが、火を入れることで「とろけるような…」甘みが生まれるのだという。
 町内産は生産農家が常連と直接取引している場合が多く、市場に出ることが少ない。それでも、この味を求めてシーズンには県内外から多くの問い合わせが。町の担当者は「とろけるような甘みを知ってほしい。一番のおいしさが味わえるのは、すき焼きだと思います」。今季の販売は2月中旬ごろまでの見込みだ。
 各地の伝統と歴史が刻み込まれた「ご当地ねぎ」。生産地に足を運んで味わえば、おいしさはより増すことだろう。
 個性あふれるご当地ねぎは、このほかにも存在する。
 「下仁田-」同様、全国的に広く知られるのが京都府の「九条ねぎ」だ。同府と府内全市町村などでつくる「京のふるさと産品協会」によると、1千年以上の歴史を持つという。葉の軟らかさと甘みが特色で、昭和63(1988)年には「京の伝統野菜」にも選ばれた品質を誇る。ぬた和えのほか「今の時期は鍋物に入れるのも最適ですし、炒めて食べるにもおいしいです」と同協会の担当者。また、九条ねぎを多く入れたみそ汁は「風邪の妙薬」と評された。
 このほかにも、埼玉県深谷(ふかや)市の特産は「深谷ねぎ」が有名だ。同市を中心に栽培されており、地元の「JAふかや」によると、明治時代初期から育てられているという。「白い部分」を食べる深谷ねぎの特徴はその甘さで、「イチゴ並みの糖度10はあります」と担当者。現在、旬を迎えており「鍋が中心となりますが、バラ肉やベーコンで巻いて『ねぎを主役に』食べるのもおいしいです」としている。

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