【大人の遠足】山梨・身延「初冬の久遠寺と周辺」 早起きで心身ともに浄化

身延山久遠寺の祖師堂(手前)と本堂。背景の身延山頂上にはロープウエ-の駅も見える

 心身ともにリフレッシュさせようと、日蓮宗総本山の身延山久遠寺とその周辺を訪れた。午前5時半。初冬の門前町は肌寒い。暗闇に朝を知らせる重厚な鐘の音が響く。ここから半日ほどの小さな旅を始めた。
 高さ21メートルの「三門」をくぐって進むと、目前に287段の「菩提梯(ぼだいてい)」が現れる。悟り(菩提)の境地に向かうという意味の石段だ。信者は「南無妙法蓮華経」の7字を1段に1字ずつ唱え、41回目に上り終える。
斜行エレベーターも
 高低差104メートル。足元をライトで照らし、息を荒らげ、途中で何度も立ち止まりながら上っていく。上から見下ろすと、石段の急傾斜に驚かされる。悟りには至らずも、「結構頑張ったな」と満足感が味わえる。足に自信がない人も大丈夫。駐車場と境内の間を珍しい「斜行エレベーター」が結んでいる。
 早起きしたのは、午前6時から本堂の「朝勤(ちょうごん)」に参列するためだ。365日、予約不要で無料という。久遠寺の庶務担当、山本是温(ぜおん)さんは「お勤めは朝がメインです。寺は誰にでも開かれています」と話す。
 訪れた日は、外国人観光客も含む200人近くが参列した。天井に迫力ある墨竜(ぼくりゅう)が描かれた本堂内に、読経の声と直径1・5メートルの大太鼓が響き渡る。身延山大学などの学生の一糸乱れぬ動きに感心した。終了後、経文が書かれた「お経葩(きょうは)」をいただき外に出ると、空はすっかり明るくなっていた。
 午前7時。次は身延山頂(1153メートル)へ。緩やかな西側の登山道を選び、落ち葉を踏みしめながら3時間足らずのハイキングを楽しんだ。奥之院思親閣を目指す信者も歩く道で、寺院や石仏も点在する。
 途中、何度もシカに遭遇した。「キュイーン」という高音の鳴き声。山すそを疾走する群れも目撃できた。山は久遠寺が管理しており、殺生の不安がないためだろうか。シカの動きはいきいきとしていた。
 読経、太鼓、シカ…。身延の旅は非日常的な「音」との出合いでもあるようだ。
「関東一」の高低差
 富士山、南アルプス、駿河湾など頂上からのパノラマは曇天で楽しめず、「身延山ロープウェイ」で早々と下山した。所要時間は7分。「関東一」の高低差763メートルを一気に下った。ここでも「頑張って山登りしたなあ」とやや自己満足。
 昼食は宿坊「覚林坊」でいただいた。「精進料理を気軽に」と、おかみの樋口純子さんが考案した「おてらんち」(1800円、税別、要予約)だ。日本庭園を眺めながら、揚げたユバを桜の葉で巻いた桜蒸しなどを味わう。大粒で甘みが強い町特産の「あけぼの大豆」を発酵させた自家製の納豆は、まろやかな口当たりだ。
 宿坊というと敷居が高そうだが、「外国人や金曜夜に高速バスで着き、土曜の朝勤に参列する女性も増えています」と樋口さん。最近は外国人客の要望で朝勤後のヨガ体験も始めた。この町は心と身体の浄化を求める人たちを、穏やかに受け入れる。(中川真)
 身延山久遠寺 山梨県身延町身延3567。朝勤は午前6時(4~9月は午前5時半)。宝物館(午前9時~午後4時、木曜休館、一般300円)では写経体験もできる。JR身延線身延駅からバス12分。電話は0556・62・1011。
 覚林坊 身延町身延3510。電話は0556・62・0014。

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