【書評】『昭和史講義 【戦後篇】(上・下)』筒井清忠編

 ■史家40人が描く決定版
 令和へと改元された昨年は、「昭和」の時代が幕を下ろしてから30年という時間を刻んだ年であった。「30年」とは英語で「ジェネレーション」ともいう。ちょうど一つの「時代」が廻(めぐ)る時間を指す。
 混乱と戦争、そして高度成長という激動の時代であった「昭和史」と対比された、安定とゆるやかな衰退に覆われた「平成史」の通史も書店に並ぶようになった。だが、「昭和史」と題する通史については、平成4年に経済史家の中村隆英により書かれたものと、18年に「戦後篇」が刊行された元文芸編集者の半藤一利により書かれたものと、いまでもその2冊が広く読まれ、その後続があまり見当たらない。
 本書はいわば昭和史の決定版となるべく、最新の研究成果を反映させた40人の第一線の歴史家による共著である。これまでの昭和史の通史は、編者の筒井が語るように、「何か肝心のことはわからないままという本が多い」。というのも、「戦後昭和史を知るための必要最低限の事項が究明されていない」からであろう。本書はそのようななかで、最先端の歴史学の研究成果が反映され、さらに読みやすいという贅沢(ぜいたく)な内容に仕上がっている。
 とにかく本書は、執筆者が豪華である。日本国憲法を論じた大石眞京都大学名誉教授や、戦後賠償問題を論じる波多野澄雄筑波大学名誉教授といった第一人者が重厚な概説を叙述すると同時に、戦前政治史が専門の五百旗頭(いおきべ)薫東京大学教授や奈良岡聰智(そうち)京都大学教授が、安保改定や歴史認識問題を新鮮な文章でつづる。また、その分野の最先端の研究を進める若手研究者が多く加わり、新鮮な発見があふれているところが、筒井の「歴史講義」シリーズの魅力だ。
 「まえがき」(上巻)で書かれているように、「多くの人にとっては自分が生きていた時代もしくは親・祖父母が生きた時代だけに、その謎を知りたいという欲求は当然強」いながらも、その「欲求」に答える実証的な著書は少なく、一般読者が手に取れるものはさらに限られていた。ようやくわれわれが、本書により昭和史の全貌を知ることができるようになったことを喜びたい。(ちくま新書・各1100円+税)
 評・細谷雄一(慶応大教授)

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