【書評】『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』室橋裕和著 本を手に、歩きに行こう

『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』 室橋裕和著(辰巳出版 1600円+税)

 新大久保(新宿区)はコリアンタウンだけではなかった。もちろん韓国の飲食店や雑貨店なども多いが、少し外れると、ベトナム、ネパールをはじめ、東南アジア、インド周辺、中東、中国などの人々が行き交い、日本語表記のない店もある。東南アジアの下町のようだという。
 ほんとかなと思ったが本当だった。大久保1、2丁目の人口の外国人比率は35%だそうだ。本書はタイや周辺国で10年にわたり取材した著者が2019(平成31)年から住み、路地の奥まで分け入り〈外国人たちはどんな仕事をし、どんな思いを持って、この街で生きているのか〉を探った最新ルポである。
 近くの店に家具を買いに行くと、頼みもしないのに3千円値引きしてくれた。「14時に持っていく」の約束に1時間以上遅れて現れたのは、日本語をまったく話せない中国人。アプリと筆談で意思疎通した。著者の体験はのっけから面白い。
 ベトナム人ガールズバーでは、シーシャ(水タバコ)の甘い香りが漂う中「18歳で来日。日本語学校を経て大学を卒業後、起業したの」とアオザイ姿の24歳の経営者が話す。彼女の経歴はこの街の店の経営者の典型だ、とやがて気づかされる。
 ハラル食材・飲食店、24時間営業の八百屋、宗教的な場、国際送金の店、外国人向け不動産屋…。コリアンタウンだけでなくなった背景に、11(同23)年の東日本大震災があった。震災後、帰国する韓国人が増え、その穴を埋めるかのように、留学ビザが下りやすくなったベトナム人、ネパール人らが集まった。人が増えれば店も増え、店が人を呼ぶ。コミュニティーも生まれる。10年で多国籍化したと、ネパール語の情報紙発行者の分析。
 もう一つのギアが日本人住民の高齢化とごく普通の日本の個人商店の撤退にある。100年続いた靴屋を閉じる店主が、「どういう街に変わっていくのかイメージできない」と語ったのが、あとあと尾を引いた。
 多国籍の彼らは概(おおむ)ね若く、聡明(そうめい)で働き者だ。ここでの小商いを手始めにビッグビジネスをと意欲を見せる者だらけである。遠くない将来、東京中が新大久保になるかもと思った。本書を手に歩きに行こうじゃないか。(辰巳出版・1600円+税)
 評・井上理津子(ノンフィクションライター)

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