【いきもの語り】2頭の相棒とメダルに挑戦 パラ馬術出場目指す吉越選手

エクセレント号(右)とバイロンエイティーン号の2頭で東京パラリンピックメダル獲得を目指す吉越奏詞選手=7月27日、千葉県四街道市(石原颯撮影)

 「切り込むのが遅い」
 「慌てない、卵型になっているよ」
 千葉県四街道市の四街道グリーンヒル乗馬クラブ。パラ馬術で東京パラリンピック出場を目指す吉越奏詞(そうし)選手(19)=目黒区=は、コーチからの指示を受けて手綱を引く力加減を修正しながら進路を導く。繰っているのは、昨年6月にオランダから海を渡ってきた「エクセレント号」。競技開始からわずか5年で世界選手権個人8位を獲得した期待のホープが、更なる飛躍を求めて迎えた新たな相棒だ。
 「エクセ(愛称)は競技会になるとやる気を出す。美しく演技したいというのが伝わってきます」
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 馬を正確かつ美しく扱うことを競う馬場馬術。パラリンピックでは動物と臨む唯一の競技だ。クラスはグレードI~Vの5つに分かれ、先天性の脳性まひにより右手と両足に障害がある吉越選手は、障害が2番目に重いグレードIIに属する。このグレードではテンポの異なる2種類の歩行運動を使い分け、円形を描くなど規定された項目を演技の中でこなしていく。ステップの正確性や馬との一体感などが評価ポイントだ。
 吉越選手は生後半年の頃に、兄が通っていたポニー教室で「ホースセラピー」を受けた。母、清美さんは「ほかのリハビリは全部ダメだったが、馬だけは喜んで乗ってくれた」と明かす。医者には車椅子宣告もされていたが、乗馬を通して運動機能が向上。自力で歩けるようになり、縮こまっていた右腕も手綱を握れるほど伸ばせるようになった。「普通の人と同じように馬に乗りたいという気持ちが変えたのでは」と清美さんは推察する。
 吉越選手にはもう1頭、相棒がいる。エクセレント号より小型の「バイロンエイティーン号」だ。運動機能に障害のある選手は健常者のように正確に指示が出せないため、乗り手の意図を察し、読み取る能力が馬にも求められる。エクセレント号よりも一回り以上歳を重ねているバイロンエイティーン号は、この能力が極めて高いという。パラリンピック東京大会の代表選考会の一つだった昨年6月の国内競技会では、バイロンエイティーン号で選考基準を突破。出場への足掛かりをつかんだ。
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 パラ馬術では選手と馬の組み合わせで出場資格を得なければならないが、新型コロナウイルスの影響で大会がことごとく中止になり、エクセレント号はまだ資格を得られていない。コロナ禍による不透明さがあるものの、今後は2頭態勢で東京大会に挑むべく、エクセレント号での出場資格獲得、そして全クラスで4人だけが出場できる代表枠入りが当面の目標となる。
 2時間ほどに及んだレッスンが終わりに近づくと、エクセレント号の躍動感が増したのが素人目でも分かった。「馬の気持ちを考えながら人馬一体になれるのが乗馬の魅力です」と吉越選手。日本勢初となるパラリンピックでのメダル獲得という目標は、自らを障害から解き放ってくれた馬への恩返しだ。
 「この1年の猶予は大きい。自身の課題を改善し、成長してメダルを獲得したい」
(石原颯、写真も)

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