求められる平穏な世界 「ハマスホイとデンマーク絵画」 

 童話作家のアンデルセンを生んだ北欧のデンマーク。同国を代表する画家たちの絵画を集めた「ハマスホイとデンマーク絵画」展が、東京・上野の東京都美術館で開催されている。国連の「世界幸福度ランキング」で何度も1位に輝き、「幸福の国」といわれている国から届いた穏やかな作品は、見るものに安らぎを与えてくれる。(渋沢和彦)
 20世紀初頭のフランスでフォービスムやキュビスムなど新しい美術が勃興した時代、デンマークではまったく異なる美術が花開いていた。それを代表する画家が、世紀末から20世紀前半に活躍した巨匠、ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864~1916年)だ。その作品は「室内-開いた扉、ストランゲーゼ30番地」のように、静けさに包まれている。開かれたドアと奥に広がる部屋。床には人が暮らす黒い痕跡が残るが、人の姿も家具もない。まるで引っ越してしまったように閑散としている。
 タイトルにあるストランゲーゼ30番地は、ハマスホイ夫妻が1898年から1909年まで暮らしたコペンハーゲンの旧市街の住所。17世紀建造の古風な建物で生活したことで、室内画の名作が生まれることとなった。約400点のうち3分の1は室内画だという。
  ×  ×  ×
 室内にいる人物も描いているが、後ろ姿が多い。「背を向けた若い女性のいる室内」などのように、背を向けていて表情が見えないため、謎めく。
 灰色を基調としたメランコリックな色彩が特徴。目に見えるすべてを完璧に描いているわけではない。脚色し、現実の風景とは違うものもある。それによって不安を感じる人もいるかもしれない。
 しかし、上品で静謐(せいひつ)な作品はいつしか「北欧のフェルメール」とも呼ばれ、たたえられている。実際、彼はフェルメールの作品を研究し、「手紙を読むイーダ」(不出品)を制作している。これもストランゲーゼの自宅が舞台で、夫人をモデルにした。
 ハマスホイが登場する前のデンマークは、プロイセンとの戦争に敗れ、19世紀前半は経済的に困窮していた。1860年代には愛国的な歴史画がもてはやされていたが、それに対する反発から、日常的な題材が求められていったという。80年代以後はデンマークを代表する画家たちによる家庭的で身近な場面をモチーフにした作品が人気を博した。
  ×  ×  ×
 ハマスホイは生前、国内外から高く評価されながらも、没後、しばらく忘れられていた。再び脚光を浴びたのは1990年代以降だった。パリのオルセー美術館、ニューヨークのグッゲンハイム美術館など名だたる美術館で次々と回顧展が開催され、日本でも2008年に国立西洋美術館で展覧会が開催された。
 今回の展覧会はハマスホイ作品約40点と19世紀デンマーク絵画を紹介。テーブルを囲み子供たちがみなで絵を描く場面など、ほほえましく小さな幸せを感じさせる作品が勢ぞろい。
 東京都美術館の高城靖之学芸員は「ハマスホイが活躍したデンマークでは一家だんらんといった、なにげない日常を描いた絵が人気だっだ。“親密さ”がデンマーク絵画の特徴となり、現代もそんな絵が好まれている」と話している。
 世界的に気候も社会も不安な状況が続いている現代だからこそ、ハマスホイをはじめとするデンマークの画家たちが描いた平穏な絵が優しく心に響くのかもしれない。
     ◇
 3月26日まで、月曜休、一般1600円。問い合わせはハローダイヤル03・5777・8600。

ジャンルで探す