【THE INTERVIEW】童話作家・角野栄子さん『「作家」と「魔女」の集まっちゃった思い出』 エッセーも一つの「物語」

「エッセーも一つの物語みたいなものだと思って書いています」

 □『「作家」と「魔女」の集まっちゃった思い出』(角川書店・1400円+税)
 ■幼少期・ブラジル時代・「魔女の宅急便」…
 戦前の厳かだけどにぎやかな年越し風景。ブラジルで出会った「赤毛の魔女」との交流。代表作『魔女の宅急便』が生まれるきっかけ-。児童文学の名手、角野栄子さん(84)を形作ってきた、小さいけれど宝石のようにキラキラ輝いた思い出が詰まったエッセー集だ。
 思い出は「集めた」のではなく、自然と「集まっちゃった」のだという。同書は、東京の下町で過ごした幼少期や20代で訪れたブラジルの思い出、魔女に心引かれるようになった経緯などを振り返ったエッセーを幅広く収録。どのエッセーも言葉選びのセンスと文章のリズムが良く、読んでいて楽しい気持ちになれる。
 「段ボール箱にしまっていた過去のエッセーを、編集の方が一冊の本にまとめてくれました。どれも本にしようと思って書いたエッセーではないし、執筆時期もテーマもバラバラですが、その時代の雰囲気がよく出ていると思います」
 戦後世代にとって戦前というと、どうしてもモノクロの情景が浮かびがち。だが、エッセーに描かれている戦前から戦後まもなくの風景は、実に色鮮やかだ。
 蚊帳(かや)を海に見立てて飛び込む遊び、海水浴で姉と作った砂のお城、通るのが恐ろしかった近所の薄暗い杉並木…。一人の少女がうれしくなったり、心底怖かったときの心模様が生き生きと伝わる。
 「エッセーを書くときに大事なのは、その人が『これを書きたい』と思ったときの心の動きと、実際に見た風景。絵本には『何が起きるのかしら』『それからどうなるの?』など、読む人の心を動かす物語が大切ですが、私はエッセーも一つの物語みたいなものだと思って書いています」
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 戦争が終わったのは小学5年の時。「貧しさと思想統制」を経験した少女にとって、戦後入ってきた欧米文化は輝いて見えた。「外国に行ってみたい」。24歳でブラジルに渡り、「心が海綿(スポンジ)のように何でも吸収する時期」を過ごした。「赤毛の魔女」と出会ったのもこの頃。本書には、彼女と過ごした楽しくて、ちょっと切ないエピソードも収録されている。
 作家デビューは35歳。物書きになるつもりはなかったが、恩師のアドバイスもあり、ブラジルでの経験を元にしたノンフィクションを書いた。「書き始めたら楽しいし、自分に合っている。次に本を出したのは42歳のとき。今度は、物語を書きたいと思いました」
 昭和60年には、魔女の卵キキが親元を離れ、独り立ちする姿を描いた『魔女の宅急便』を刊行。後にアニメ映画化もされた同作は今も多くの人に愛され続ける。
 「12、13歳という年齢はどの子も難しいことを考え出したり、心が不安定になったりする時期。そういう子供たちがキキには心を寄せやすいんだと思うの」
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 昨年、「児童文学のノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞作家賞に輝いた。「リンドグレーン(『長くつ下のピッピ』作者)をはじめ、名だたる受賞者には及びませんが、その系列に入れてもらえてうれしく思います」と語る。
 54年に始まったロングセラー『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズが今年で40周年を迎えるなど、読者層は3世代、4世代にわたる。
 「来年は作家になって50年。私は書きたい話がどんどん出てくる方で、記念になるような作品を書きたいと思っています。もちろん、話が出ないことも、鬱々とすることもあるけれど、そういう時は節操なく気分を変えてしまうんです。私の心が自由であれば、それでOKじゃない。そう思っていつも書いています」(本間英士)
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 ≪3つのQ≫
 Q好きな作家は?
 米作家のカーソン・マッカラーズで、卒論にも書きました。サマセット・モームやトルーマン・カポーティも好きです
 Q最近印象に残る作品は?
 海外のテレビドラマが好きで、近ごろは英BBCの刑事ドラマをよく見ています
 Q一番集まっちゃったものは?
 眼鏡。今は洋服よりも先に眼鏡を選びます。どれも高価なものではなく、プラスチック製。「遊びのアクセサリー」なんです
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【プロフィル】角野栄子(かどの・えいこ) 昭和10年、東京生まれ。早稲田大卒。24歳からブラジルに2年間滞在。45年、ノンフィクション『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で作家デビュー。産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞などを受賞。平成12年、紫綬褒章。26年、旭日小綬章。

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