【北限に挑む~食に託す復興】(下)民家の原生樹を活用してユズ栽培 岩手・陸前高田

「ユズ狩り体験会」で、脚立に乗ってユズの収穫に挑む参加者たち=平成30年11月、岩手県陸前高田市(千葉元撮影)

 雪がちらついた昨年11月下旬。岩手県陸前高田市の一角では、この年最後のユズ狩り体験会が開かれていた。
 「もう少し上。そうそう、そこ」
 県内外から集まった参加者らは主催者側のアドバイスを受けながら、大きく育ったユズの木の枝をめがけて長い枝切りばさみを伸ばす。ここはユズ園-ではなく、民家の庭だ。
 体験会を主催するのは、地元の農業組合や社会福祉法人などの団体で構成する「北限のゆず研究会」。寒冷地では不向きとされるユズの安定生産に挑み、町おこしにつなげようと模索を続けている。
 東日本大震災の津波で大きな被害を受けた地域では、産業の復興が課題の一つ。今回のユズ狩り体験会のように、農業を新しい視点で活性化させようという取り組みが、被災地で広がりをみせつつある。
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 同市や大船渡市の一部では、一般家庭の庭先にユズの木が自生。研究会によると、同会が植えたものを含めて約1700本(今年4月時点)のユズの木があるという。
 県内産のユズを使った新商品を開発しようとしていた県の蔵元「南部美人」(二戸市)が県に相談を持ち込んだ際、陸前高田市のユズを紹介され、平成22年から試験的に使い始めた。
 陸前高田市のユズは小ぶりながらも皮が厚く、香りの成分が多い特徴を生かし、24年に南部美人が「ゆずリキュール」を発売。2カ月で500本が完売する人気ぶりだった。
 「新たに産業をおこすより、今あるものでやっていけると思った」。研究会の佐々木隆志副会長は、完売した当時をこう振り返る。民家の原生樹のユズをブランド化し、製品化を進めようと考え、25年に「北限のゆず」として商標登録。本格的に商品化するため研究会を立ち上げた。
 研究会では県内の醸造会社と連携し、地元産のユズを取り入れたビールやハンドクリームなどを次々と商品化している。
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 ユズの木は収穫しやすいように、大きく成長する前に剪定(せんてい)するのが一般的だ。しかし、一般の民家では脚立が必要な高さまで伸びてしまった木も多い。研究会にとっても、各民家を回りきるには人手が足りないのが現状だった。
 だが、困難な状況を逆手に取った。ユズ狩り体験会を開催して「サポーター」を募ると、毎年県内外から多くの人が訪れるようになり、9トンほど収穫できた年もあった。ユズの売り上げの一部は木の所有者の一部に還元される仕組みで、佐々木さんは「外から来た人に楽しんでもらえて、地域の人の生活の足しにもなる」と強調する。
 当面の目標を「まずは安定生産を目指したい」と語る佐々木さん。研究会では将来的に市内にユズ園を整備する予定だ。震災後も依然として盛り土が目立つ市内に、鮮やかな黄色が映える季節が、もうすぐやってくる。

 この連載は千葉元、塔野岡剛が担当しました。

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