【書評】『任務の終わり 上・下』スティーヴン・キング著、白石朗訳 静かな感動もたらす完結編

『任務の終わり 上・下』スティーヴン・キング著、白石朗訳

 メルセデス・ベンツで群衆に突っ込み多くの死傷者を出した、通称〈メルセデス・キラー〉の事件から6年。生き残りはしたものの重篤な後遺症を負った娘を母が殺し、自分も死ぬという痛ましい事件が起きた。だが、かつて犯人と対決した退職刑事のホッジズと相棒のホリーは、その現場に違和感を覚える。
 さらに調べてみると、他にも事件の生存者が心中していたことが判明。また、当時の犯人は脳神経科クリニックに入院中で意思の疎通も難しい状態なのに、なぜか彼の周りで怪現象が頻発する。はたしてこれらは偶然なのか?
 本書『任務の終わり』は、ホラー小説の大家であるスティーヴン・キングが初めて書いた真正面からのミステリ『ミスター・メルセデス』に始まる3部作の完結編だ。これまでの2作ではあえてお家芸のホラー要素を抑えてきたキング。だが前作『ファインダーズ・キーパーズ』のラストに記されたホラー展開を予感させるような一場面に、ゾクリとしつつ期待を抱いた読者も多かったのではないか。
 その予想通り、本作ではこれまで封印していたホラー要素が一気に解き放たれた。正統派ミステリとしての既刊ももちろん読み応えは十分だったが、これぞキング! という展開に胸が躍った。
 言葉も体も不自由な犯人がとある方法で人々を〈乗っ取る〉くだりにはキングの『セル』を思わせる極めて現代的な恐怖があるし、自らの病で動きが制限されるホッジズはタイムリミットサスペンスの興奮を呼び起こす。上下巻のボリュームでありながら、読み出したら止まらない。
 だがキングの最大の魅力はスリルや恐怖だけではなく、その中で人と人が結びつき、信じ合い、庇(かば)い合い、ともに問題に打ちかつ姿を描いているという部分にある。3作かけてそのつながりを丁寧に描いてきたからこそ、本書のラストは静かな感動の涙を読者にもたらすのだ。
 恐怖、サスペンス、そして自らの信念と愛する人のために戦う姿。キングの魅力が詰まった3部作である。1作目からお読みいただきたい。(文芸春秋・各1800円+税)
 評・大矢博子(書評家)

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