「映像化は絶対に俺がするぞ」大根仁監督を発奮させた「地面師たち」原作の魅力とは?《ドラマが世界的大ヒット》

話題沸騰のドラマシリーズ「地面師たち」はどのように生まれたのか。監督の大根仁氏と、原作者の新庄耕氏が語り合った。

【画像】大根氏はNetflixと5年独占契約を結び、新作のシリーズ・映画を複数制作することが発表された

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〈Netflixで配信中のドラマシリーズ「地面師たち」。7月、世界同時配信が開始されると、6週にわたって日本のNetflix週間TOP10(シリーズ)で首位を独走。グローバルTOP10(非英語作品、シリーズ)でも2位に浮上するなど、世界的大ヒットとなっている。

Netflixシリーズ「地面師たち」 Netflixにて世界独占配信中  Ⓒ新庄耕/集英社

 2018年から2019年にかけて、10人以上もの逮捕者を出した「積水ハウス地面師詐欺事件」に着想を得た新庄氏による原作小説は、辻本拓海(綾野剛)、ハリソン山中(豊川悦司)ら、地面師詐欺グループの犯罪劇を描いている。〉

勝負を賭けた「地面師たち」

 新庄 大根監督は私の小説が出る前から、地面師詐欺事件に興味を持たれていたんですよね。

 大根 世田谷の自宅から高輪の職場まで自転車で通勤していて、途中に事件の現場となった旅館「海喜館」があったんです。自分の生活圏なので取り壊されるまでの約10年間ほぼ毎日見ていました。五反田は急速に再開発が進んでオフィスビルが建ち並んでいますが、かつては花街でした。「海喜館」にはその頃の雰囲気がかすかに残っていて、その妖気に惹かれ、時折、スマホで写真を撮っていたんです。

 新庄 「なんでなくならないんだろう?」という都会の中の「エアポケット」みたいな場所ですね。『狭小邸宅』というデビュー作を出した時に不動産業を取材したのですが、仕入部隊は土地を常に探している。だから都会のド真ん中に海喜館みたいな大きな土地がまだ残っていることは、普通あり得ない。

 大根 その海喜館が、ある日テレビを点けたらニュースの画面に映っていて、思わず「マジか!?」と声が出ていました。それで「この事件を映像化したらめちゃくちゃ面白い」と、時系列に並べたチャートを作り始めたんです。作業をしていくと、ドキュメンタリーとしては面白そうでも、フィクションとしてはどうも弱い。でもこの企画は絶対に自分でやりたいから、「いっそ誰かこの事件を元に小説でも書いてくれないかなあ」と思っていました。

 新庄 私は純文学畑の出身で、2012年のデビュー後は、低空飛行を続けていました。そんな折、編集者から地面師事件をテーマに勝負しないかと提案されたんです。これでダメだったら筆を折る覚悟で書いた最初のエンタメ作品でした。ただ、「『オーシャンズ11』みたいなポップな感じですかね」という提案に対しては、もう少し人間ドラマとして描きたいという思いがありました。

 大根 「地面師たち」は僕にとっても勝負を賭けた作品でした。

 30代の頃から深夜ドラマを手がけてきて、「モテキ」のように映画化されるものも出てきて、40代は自分のやりたい企画も実現できるようになりました。ただ50代に差しかかる頃、自己模倣というか、過去の自分の作品に囚われて縮小再生産的になっていると感じて、自分から発信する作品は「1回休もう」と、ここ数年は、大河ドラマ「いだてん」や映画「クレヨンしんちゃん」、ドラマ「エルピス」といった受注仕事を中心にしていました。次に自分の企画でやるなら、これまでやってこなかった作品をつくろう、と思っていたところで出会ったのが、新庄先生の『地面師たち』だった。こんなことは滅多になく、何かに呼ばれている気がしました。

原作との運命的な出会い

 新庄 監督が私の小説を見つけてくれたのは、海喜館のすぐ近くだったんですよね。

 大根 これも不思議な縁で、事件発覚から約1年後、海喜館の向かいにあった書店に何気なく立ち寄ったら、平積みコーナーに、まるで「ご当地犯罪小説」(笑)のように本が置いてあったんです。もう中身も確認せずにその場で買いました。ノンフィクションと違って、登場人物がユニークで、ハリソン山中と辻本拓海の師弟関係などはこれまであまり見たことがない歪(いびつ)さ。一気に魅了されて無我夢中で読み終えました。

「映像化は絶対に俺がするぞ」という思いでしたから、読みながら頭の中にはもう映像やキャストが自ずと浮かび上がってくる。その日の深夜には企画書を書き上げました。それで、その勢いのまま、版元の集英社に電話をかけたんです。

 新庄 本の奥付にある代表番号にかけてくださったそうですね。こんな電話は滅多にないから、電話を受けた編集者が「オオネ……?」と戸惑ったと聞きました。上司に報告したら、「映画『バクマン。』の大根監督だよ!」って(笑)。

「地面師たち」はいくつか映像化の話が来ていたのでコンペになったのですが、満場一致で大根監督の企画に決まりました。

 映像化の企画書というのは、大概パワーポイントでビジュアル的には綺麗に作られているものがほとんどのようですが、大根監督の企画書だけは、A4の紙13枚に活字がびっしり。この作品をやりたいということに加えて、監督としてこれまでどんな道筋をたどってきたか、どんな問題意識を持っているか、だから自分が撮らなきゃいけないんだ、ということが理路整然と書かれていて、圧倒されました。

(大根 仁,新庄 耕/文藝春秋 2024年11月号)

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