裕福そうな男性を囲んでポケットから貴重品を抜き取り…女たちの大胆不敵な“犯行現場”

 絵によっては一瞥で全体像が掴めるものと、じっくり見ていくうちに状況が明らかになるものがあり、17世紀フランスの画家ラ・トゥール(1593-1652)の「女占い師」は後者のタイプ。まずはじっくり眺めてみましょう。ポイントは画中人物の視線と手の動きです。

よく見ると、男性の爪の先は黒く描かれている。その素性は裕福そうな見た目とは違うのかも
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「女占い師」
1630年代 油彩・カンヴァス メトロポリタン美術館所蔵

 華やかな衣装をまとった人物が並び、中央に卵形の顔の男女。一見、彼らは目配せし合っているようですが、実は互いに違う人物と見合っています。男性の視線はやや右側に向き、そこには白い布で頭をおおった老女の横顔が。ローブを片方の肩でとめるのは典型的なロマの服装で、彼女が女占い師だと分かります。男性は手を出していますが、これは手相占いではなく手の平に載せたコインを通して占うものです。しかしそのやり取りに隠れ、二人の後ろに立つ女性が、男性の肩にかかる鎖を切ってメダルを盗もうとしているではありませんか。老女のローブの連続する斜めの線と男性の手と鎖がちょうどV字を作り、この犯行現場を強調しています。しかも老女のローブには鷹とウサギという狩りの柄があしらわれ、男性の状況を比喩的に示唆しているという深読みも可能。

 犯行がもう一つ。卵形の顔の女性の視線はぎゅっと左側へと向いていて、どうやら男性の左側の影に紛れた女性と合図し合っているようです。男性は右肘を大きく張り、手を腰にあてているため、鑑賞者の視線はおのずと下へ。そこでは左端の女性が男性のポケットから貴重品を抜き取ろうとしている瞬間。後ろに控える女性はそっと手を出し、戦利品を受け取ろうとしているのでしょう。

 つまり、みんな女占い師の仲間。彼女たちの犯行手口を、ラ・トゥールは次のような巧みな構成で表しています。短縮法で描かれた男性の左手は鑑賞者側に差し出され、画面内に誘いこむ演出。画面上半分でのシレッとした緊張感と下半分でのあからさまな犯行の対照性。状況を明瞭にする男性を半円状に囲む構図。そして鎖を切る手元が濃色の服を背景に、コインのやり取りより少し暗めに抑えてあります。

 ロマの占い師と客の騙し合いという主題は16世紀末頃から流行し、複雑化しながらバリエーションを生みました。本作はその終わり頃に属し、その謎めいた内容が見る人の想像力を掻き立て続けています。ラ・トゥールはよく宗教画を描いたことから、本作は単なる教訓画ではなく、男性を聖書の放蕩息子と見る説もあります。また、中央の正面を向いた女性があまりに印象深くロマらしさが薄いことから、セルバンテス作「ラ・ジタニラ」の主人公プレシオサ説も。この絵は左端が数10センチ切断されていると考えられ、だとすると元は男性がもっと中央を占めていたはず。もしかすると切断の理由は、魅力的な彼女をより目立たせるためだったのかも。

「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」
大阪市立美術館にて2022年1月16日まで。巡回あり
https://met.exhn.jp/

●展覧会の開催予定等は変更になる場合があります。お出掛け前にHPなどでご確認ください。

(秋田 麻早子/週刊文春 2021年11月25日号)

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