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ついに完成!外国人のための文書改革に落とし穴…「コウザフリカエ」って何ですか? #役所をやさしく

イラスト・逸見恒沙子

「小難しい」言葉の代名詞ともいえる「お役所言葉」を、市民にとって、もっとやさしくすべく、神戸市が「やさしい日本語」で進めている公文書改革。ついに完成した「やさしい日本語」の文書が、本当に日本語が苦手な人にとって分かりやすくなったのか、検証が始まりました。でも、舞台になった窓口からは、意外なつぶやきが聞こえてきました。「対象の外国人がいない」「やさしい日本語の使いどころが分からない」ーーいったいなぜ?

【画像】役所の文書の「やさしい日本語」ビフォーアフター

困った様子の留学生
神戸市役所の若手や外国人職員による「やさしい日本語推進チーム」は、試作した「やさしい」文書を、窓口で使って、外国人の反応を確かめる検証を始めました。

協力したのは、中央区保険年金医療課。日本独自の「国民健康保険制度」「国民年金制度」を扱う部署です。



〈土屋係長のつぶやき〉

中央区保険年金医療課に配属されて今年2年目です。 中央区は外国人のお客様が多く、初めて業務の引継ぎに来た時、とても驚きました。



日本の健康保険制度をご理解いただくのに日々苦労しています。 そんな窓口で、「やさしい日本語」を使う試験が始まりました。



ある日、窓口に来たのは、少したどたどしい日本語で話すベトナム人留学生でした。 「コウザフリカエ」が分からなくて、困惑した様子でした。



これまでは説明に困ると、通訳サービスに頼っていましたが、その場で職員がすぐに「やさしい日本語」に置き換えて、こんな風に説明してみました。



「あなたは銀行にお金がありますか? これは、あなたの銀行にあるお金から、保険のお金を払うための申し込みです。これに申し込みをすると、この『払う紙』はあなたの家に来ません。私たちは、毎月27日に、あなたの銀行のお金から同じ金額を受け取ります」



留学生の顔から困った様子が消えました。「それは便利ですね。申し込みます」



留学生は、やさしい日本語で書かれた資料を持ち帰りました。



「コウザフリカエ」



日本人にとってもなじみのない言葉。もし、同様の制度やサービスに慣れ親しんでいなければ、なかなかどんな制度かイメージができません。そんな時に、「コウザフリカエ」と言葉を繰り返すのではなく、イメージがしやすいように、制度を説明することが大事なんだと思いました。

外国人がいない…
〈土屋係長のつぶやき〉

でも、今年は窓口で外国人を見かけることはほとんどありませんでした。



新型コロナウイルスの影響です。海外との往来が緩和された秋以降、日本語学校の学生など少しずつ見かけるようにはなっていましたが、まだ「やさしい日本語」の資料を渡せた例はほんの数件です。



やさしい日本語の資料を使って反応を見てみる、という試験が始まったのですが、渡す人がなかなか来ません。



それに、入国したばかりで、これから日本語学校に通うような人には、たとえやさしい日本語であっても理解は難しいです。



中央区役所には英語、中国語、ベトナム語の同じ資料があります。ほとんどの人はその資料で足りてしまうのです。 窓口の担当者からは「どこでやさしい日本語の資料を使えばいいのか分からない」という声も聞こえてきます。

活躍できないのか?
窓口の本音を聞いて、神戸市役所やさしい日本語推進チームの中井係長は、ヤケ酒が止まりません。



〈中井係長のつぶやき〉

あんなに苦労して作ったのに(ぐびっ)



窓口では活躍できていないのか(ぐびっ)



外国人にも、職員にも、やさしい日本語は求められていないのか(ぐびっ)



「withnews」の原稿どうしようかなぁ(ぐびっ)



まさか失敗なんて…(ごくごく)



あっ、無意識にコンビニで買ったストロング酎ハイがもう空だ。




〈土屋係長のつぶやき〉

翻訳した資料を用意できていないような、希少言語の人は、「やさしい日本語」の方があれば、難しい日本語よりも助かると思います。



バングラデシュの人などに、活用するときもありますよ。



それに、郵送の時は、いいですよね。窓口では相手の母国語と、日本語の理解度が確認できるので、いろいろな対応ができますが、郵送では、相手の得意な言語も分からないので、やさしい日本語での対応がとても効果的だと思います。



先日、在留期限が近い外国人に送る「保険証の更新手続きの通知」にやさしい日本語バージョンを使ってみました。この通知を持って区役所に来た外国人がいました。以前のバージョンに比べて、通知の内容はしっかり伝わっているみたいでした。



ましてや、新型コロナ関連の情報のように、常に新しい情報を出さなければならない時や、災害時のように迅速な情報提供が求められる時には、すべてを多言語に訳している余裕がありません。そんなときが、きっとやさしい日本語の出番ではないかと思います。



多言語とやさしい日本語。



それぞれのメリットとデメリットを整理して、場面に応じて使い分けることが大切なんだと思いますよ。 日本に来た外国人の方に、「中央区へようこそ!」というメッセージと、やさしい気持ちを込めた、やさしい日本語の資料をお渡しするのも良いよね。



だから、中井係長、もうそんなにヤケ酒しないで……。

適材適所でやってみよう
〈中井係長のつぶやき〉

なるほど!



なんでもかんでも「やさしい日本語」に置き換えればいいという訳ではないのか。



やさしい日本語なら、外国の語学が苦手でも、すべての職員が実践できる。誰でも情報を迅速に提供したり、いつでも更新したりできる。



「日本語」で言い換えることで、難しい内容を正しく伝えられる。



一方で、今回対象にした国民健康保険に新たに入った人向けの案内文書は、やさしい日本語で対応するには不適切だったのかもしれない。



だって、入国したばかりで、日本語がまだ苦手な人が多いだろうし、慣れ親しんでない制度も複雑なものだから。多言語で翻訳した資料を用意するのがいいんだろう。



これは失敗したけど、いい勉強になった。



でも、本当に「やさしい日本語」の資料が外国人に分かりやすいのか、検証は続けないと。このままでは、サンプルがほとんど集まらないぞ(ぐびぐびっ)



おや? この大量の空き缶はなんだろう。

失敗は成功の母
窓口での試験運用ではなかなかサンプルが集まらないことが分かった中井係長。
さて、今後、どのように効果検証を進めていけばいいのでしょうか。

中井さんの励まし役でもある、ベトナム人職員のダンさんはこんな声をかけました。



〈ベトナム人職員ダンさんのつぶやき〉

焦らずに、ゆっくり考えることが大切。自己満足よりも、外国人のためになることが一番大事ですよ。

「失敗は成功の母」




 ◇

今週のつぶやき担当者

〈土屋係長〉
神戸市中央区国民健康保険料収納担当。当課に配属されて2年目。保険料算定、保険料の収納対策を統括する。

〈中井係長〉
神戸市役所 市長室 国際部国際課。やさしい日本語推進プロジェクトの中心的役割のはずなのに、落ち込みがち。酒好き。


〈多文化共生専門員 ダンさん〉
ベトナム人。来日9年目。神戸市役所 市長室 国際部 国際課 多文化共生専門員。神戸市ベトナム語版Facebookの開設・運営など、外国人の視点から神戸市の多文化共生関連事業に携わる。プロジェクトでは、自分の経験に基づき、外国人に求められる情報ややさしい日本語について監修。

#役所をやさしく
これは神戸市とwithnewsの共同企画です。

小難しい「お役所言葉」を、誰にでも分かりやすい「やさしい日本語」にしたい。

神戸市の若手や外国人職員が中心になって立ち上げた「やさしい日本語推進プロジェクト」で、さまざまな声の板挟みになる現場や外国人の「本音」を紹介していきます。本当に役所は「やさしく」なるのか。毎週金曜日に配信予定です。

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