「病院ランキングはあてにならない」がん治療の名医が教える“がん病院”の後悔しない選び方
がんの可能性が高い、またはがんと診断されたとき、望む治療や療養に合う病院を探すことは納得のいく治療を受けるためのカギ。告知直後には患者本人も家族も混乱してしまうものだが、時間は待ってはくれない。現役医師が語る失敗しない選択基準とは?
「大事なのは、まず病状をきちんと把握すること、そして標準治療をしっかり受けることです」
と言うのは、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之先生。国内における臨床試験と抗がん剤治療のパイオニアの一人である。
「手術件数が多い=腕がいい」とは限らない
がんの標準治療とは、「手術」「放射線治療」「薬物療法(化学療法、分子標的薬、免疫療法、ホルモン療法)」の基本3つで、しっかりとした科学的根拠(エビデンス)に基づいた、最も効果が期待できる世界標準の治療法。標準治療なら健康保険が適用になり、高額になりがちながんの医療費も多くがカバーされるのも利点。対して代替療法は自由診療で保険が利かず、金銭面の負担も大きい。
標準治療を受ける上で、病院選びも重要だ。
「ここでありがちなのが、名医に手術してほしいといって、手術実績でランキングの高い医師や話題の病院に駆けつけるパターン」と勝俣先生。しかし、せっかくなら少しでも腕のいい医師に診てもらいたい、と思うのが人情だが……。
「がんに関しては手術件数と生存率が相関するというデータはありません。なので手術件数が多い=腕がいい、とは限らない。個人的には、根拠のあやふやなランキング本などを当てにするのはやめたほうがいいと思います。
がんに関しては手術の腕というより、がんのステージや病状が予後を大きく左右する。だから腕のいい医師を探すより、標準治療をしっかり行っている病院にかかることが重要です」(勝俣先生、以下同)
病院選びの一つの目安になるのが「がん診療連携拠点病院」。全国どこに住んでいても質の高いがん治療が受けられることを目的に国により都道府県ごとに指定された病院で、現在は都道府県がん診療連携拠点病院が51か所、地域がん診療連携拠点病院が357か所、特定領域がん診療連携拠点病院が1か所、地域がん診療病院が47か所の全国計456か所が該当する。
「がん診療連携拠点病院は全国すべての県に2、3か所は必ず設定されているので、地元で治療を受けられるというメリットも大きい。評判の医者にかかろうとすると、数か月待たされることもあり、そこでがんが進行してしまうことも考えられる。何よりがんは手術で取り除いたら終わりというものではありません。
再発を防ぐための抗がん剤治療や放射線治療など術後治療で数年病院に通うこともある。また再発の可能性がある病気という意味でも、通いやすさは重要です。わざわざ大都市に行ったりしなくても、地元の病院なら治療しながら仕事もできるし、子育てもできる。がんと共存しながら自分らしく生きていけるでしょう」
病院選びでもう一つのポイントが、「腫瘍内科医」がいる病院を選ぶこと。腫瘍内科医は日本では「がん薬物療法専門医」とも呼ばれる抗がん剤治療のエキスパートで、がんの診断から治療まで、がん専門医として総合的なマネージメントを担う。
「ただ日本ではまだ腫瘍内科医が少ないのが現状で、がん診療連携拠点病院であっても、腫瘍内科医がいないところもあります。腫瘍内科医を探すなら「日本臨床腫瘍学会」のウェブサイトにがん薬物療法専門医として名前が掲載されているので確認してください」
セカンドオピニオンをためらわずに求める
がんのステージや年齢、患者の意思や背景など、がんは一人ひとりの病状に合わせて治療法が異なり、その過程でいくつもの選択肢が突きつけられる。だが主治医に提案された治療法が本当にベストなのか悩んでも、素人には判断が難しい。他の医師の意見も聞きたいけれど、主治医に切り出すのは気が引けて─、ということもあるだろう。
「そんなときはためらわず、セカンドオピニオンを求めることがおすすめ。今はセカンドオピニオンを受けたいと言われたら、医師は拒否しないのが一般的」と勝俣先生。
ただし、まずは現在診察を受けている主治医の話をしっかり聞くことが大前提。
「セカンドオピニオンを受けても、自分の病状を説明できない人がいます。がんと言われただけで頭が真っ白になり、ファーストオピニオンである主治医の話をきちんと聞いていないんです。自分がどこのがんなのか、がんのステージすらわかっていなかったりもする。今の治療方針が合っているかどうか、主治医の意見を確認するのがセカンドオピニオンです」
セカンドオピニオンの病院を決めたら、主治医にもらった紹介状や検査結果を持って、セカンドオピニオンの医師の診断を仰ぐ。
セカンドオピニオンを受ける医師は、ファーストオピニオンの医師と同等かそれ以上の専門性を持つ医師が望ましく、がん診療連携拠点病院や、がん治療で実績がある病院を基準に決定を。セカンドオピニオンは健康保険が利かず、自費診療で3万〜5万円が相場とされている。
「セカンドオピニオンを受けたら、その診断内容を主治医に伝え、改めて治療方針を決定します。それでも主治医の方針に納得できなければ、転院を検討してもいいでしょう。ただ、がんの治療には時間との勝負という側面もあります。むやみに多くのセカンドオピニオンを受けたり、病院を探し回ることは避けたいところです」
「がんと診断されたすぐあとがベストタイミング」
加えて、気をつけたいのが、セカンドオピニオンを受けるタイミングだ。
「セカンドオピニオンを求めるなら、確定診断を受けたすぐあとがタイミングとしてベターとされています。けれどそのタイミングでセカンドオピニオンを受ける人は1割くらい。たいていがんが再発したあとや治療が行き詰まってからセカンドオピニオンを求めることになる。でも治療で一番大事なのは、確定診断を含めた最初の治療の段階です」
まだまだ誤解の多いがん治療。いざというときに備え、正しい知識を身につけて。
「がんは決して珍しい病気ではないはずなのに、きちんと知られていない。がんはいまだに死に直結するイメージがあり、本当のことを知るのが怖い、という気持ちがあるようです。ただ正しいことを知ることで、安心にもつながる。ご自身や大切な家族のためにも、がんについて正しく知り、適切な治療を受けてもらえたらと思います」
こんなとき、どうしたらいい?
病院選びで迷ったら…
→都道府県ごとにあるがん診療連携拠点病院
→できれば腫瘍内科医がいる病院を選ぶ
→今後の治療も考えて通いやすさも考慮
診断や治療方針で別の医師に聞きたいときは…
→まずはファーストオピニオンをしっかり聞く
→セカンドオピニオンを求めることをためらわない
→セカンドオピニオンは確定診断の直後に
医師以外にがんについて相談したいときは…
→がん診療連携拠点病院などに設置されているがん相談支援センターへ
→がんの体験者に相談できるピアサポートを活用
勝俣範之先生●日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授、部長、外来化学療法室室長。国立がんセンター医長を経て、2011年より現職。あらゆる部位のがんを診られる「腫瘍内科」の立ち上げは、当時の日本では画期的であった。国内における臨床試験と抗がん剤治療のパイオニアの一人。
取材・文/小野寺悦子
11/04 21:00
週刊女性PRIME