北海道は「中国の32番目の省」になってしまうのか?

北海道・ニセコ町のスキー場(出所:写真AC)

(藤谷 昌敏:日本戦略研究フォーラム政策提言委員、元公安調査庁金沢公安調査事務所長)

 本年(2021年)6月、「重要土地利用規制法」が成立した。この法律の目的は、中国に代表される外国資本が不適切な目的で日本の土地を取得し、利用するリスクを減らすことである。

 自衛隊の基地など日本の安全保障上、重要な地域での土地利用を規制する法律であり、施設の周囲およそ1キロメートル内や国境近くの離島を「注視区域」とする。区域内で大きな構造物を立てて電波を妨害したり、ライフラインを寸断したりするといった日本の安全保障を脅かす土地利用を確認すれば、所有者に中止を勧告・命令できる。中止勧告や命令に従わない場合は懲役2年以下か罰金200万円以下を科す。さらに司令部といった機密情報が集まる拠点の周辺などは「特別注視区域」とみなし、土地売買に事前の届け出を義務付ける。

 区域指定の具体的な判断基準を盛り込んだ基本方針を閣議決定した後、2022年度中に運用を始める。電波を妨害しかねない構造物の高さや土地調査の方法もあらかじめ定める。中国による基地周辺での森林買収などの事例を受け整備した。

 政府は安全保障上重要と判断した土地に関し、外国資本の取引を規制する指定区域の検討を始めた。自衛隊のレーダー施設など600カ所程度の防衛関係施設のほか、原子力発電所などの周辺を想定する。対象となる土地の情報を管理し、中国を含む外資の動向を把握する体制を整えるという(2021年8月11日付『日本経済新聞』)。

 外国人による土地・建物の取得は、これまで日本では野放しにされてきたが、経済安全保障の重要な課題との観点から、この法律の制定によって国の監視下に置かれることとなった。

中国の影響が拡大する北海道

 近年、中国系企業が北海道の離農した広大な農地やきれいな水源、経営難に陥ったスキー場やゴルフ場、温泉施設などを買収し、新たに宿泊施設や娯楽施設を建設する動きを見せている。

 有名なのは、北海道ニセコ町のニセコアンヌプリ山の4つのスキー場を中心とした観光地で、良質な雪質がスキー客の人気を集め、多数の外国人が観光で訪れるようになった。その後、中国系不動産開発会社やホテルが次々と土地や施設を買い占めた。こうした動きは、北海道各地に広がっており、例えば道南の洞爺湖周辺では、日本人なら見向きもしない、道路もないような土地が中国系企業に買われている。土地の人々は「こんなことはバブル以来だ」と言う。

 中でも問題なのは、限界集落が今後もどんどん増加する傾向があることだ。北海道庁によれば、2021年4月現在で、道内には3638の集落があり、そのうち1190の集落において65歳以上の割合が50%を超えており、今後、人口減少や高齢化の進展に伴い、交通手段の確保や買い物など一部の集落で生じている様々な問題が多くの集落へ拡大していくことが懸念されている。特に人口の少ない道北・道東地域では、土地や建物が無料もしくは著しく安い価格で販売されており、中国系の不動産会社や個人が次々に買収に乗り出している。

 一方、現地の日本人の中には、地域活性化につながるとして積極的に買収に応じている者も多く、このままでは中国人コミュニティが北海道各地にできるようになるだろう。そうなれば、治安の悪化や失業する日本人が増えるほか、リゾート地が中国人観光客に占領される、水源地が汚染される、農地では水争いさえ起きかねない。また、北海道の重要資源である農産物や漁獲物が中国系企業に独占されて不当に値上げされたり、世界的なブランド肉や果実などの知的財産権が侵害されるおそれがある。さらに日本に移民して帰化する者が増えていけば、選挙で多数を占め、中国系日本人の発言力が非常に強くなる事態も想定される。

北海道は中国の第32番目の省になるのか

 中国国内では、北海道は中国の第32番目の省だと言われている。実際、外国資本が日本国内で買収した森林の面積は、林野庁が調査、公表に乗り出した2010年から増え続け、21年までの累計が調査開始時点比4.2倍の2376ヘクタールに達しており、その波は北海道だけではなく、九州などにも広がっている。

 今から16年前の2005年5月9日、JR札幌駅近くの札幌第1合同庁舎で、国土交通省と北海道開発局が主催して「夢未来懇談会」というイベントが開催された。この懇談会では通訳や中国語教室などを手がける「北海道チャイナワーク」(札幌市中央区、1999年12月1日設立、資本金1850万円)の経営者、張相律氏が「北海道人口1000万人戦略」と題して講演を行った。張氏は、「今後、世界は、資源無限から資源限界となる、自由競争社会から計画競争社会に、国家競争から地域競争になる」と主張し、「北海道は世界の先進地域のモデルになる可能性が高く、北海道の人口を1千万人に増やせる」と提言した。特に「海外からの安い労働力の導入」「北海道独自の入国管理法の制定による海外人材の召集」「留学生を集めるための授業料の安い各種大学の設立」などを提案した。

 ここで注目すべきは「北海道独自の入管法」だ。張氏は「北海道に限定し、ノービザ観光を実施し、観光客を増やす」「住宅など不動産を購入した裕福な外国人には住民資格を与える」「留学生を積極的に受け入れ、北海道に残る仕組みを作る」「研修制度を廃止し、正式な労働者として労働力を受け入れる」「北海道から日本のほかの地域に行くときは日本の入管法に適応させる」など具体的な制度見直しと、「札幌中華街を建設し、国際都市の先進地域としての地位を確立する。1千万人のうち200万人は移住者でなければならない」などと主張したという(2017年2月25日付『産経新聞』)。

 この張氏の提言は、人口減少に苦しむ北海道にとって非常に魅力的な内容ではあったが、結局、その意図は日本の法制度を歪曲し、日本の統治を形骸化させることに等しいものだった。

 本来、外国人の土地取得には国際法上、相互主義が適用される。その趣旨から言っても、中国で外国人の土地・建物の入手が禁止されている以上、日本が中国人に自由に購入することを許さなければならない理由はない。

 今後、日本政府は、「重要土地利用規制法」を形骸化させることなく積極的に活用し、さらに発展・拡大させて、中国による乱脈な買収を阻止しなければ、過疎化の進む日本の各地域が中国の大きな影響下に置かれかねない。

[筆者プロフィール] 藤谷 昌敏(ふじたに・まさとし)
 1954(昭和29)年、北海道生れ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA危機管理研究所代表。

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