4都府県の緊急事態宣言延長 愛知・福岡も追加

コロナ禍で再び増加に転じつつある自殺者とうつ病の憂鬱

イラスト:近藤慎太郎

 今回から数回にわたり、「うつ病」について解説していきます。うつ病は、何らかの出来事をきっかけに、気持ちがふさいだり落ち込んだりしてしまう病気です。うつ病は、本連載で解説してきた睡眠障害、過敏性腸症候群とも密接に関連しています。

 一言で言えば、大元にはメンタルの不調があり、それがうつ病をはじめとして、睡眠障害や過敏性腸症候群など、様々な体調の変化を生じるのです。また、うつ病が睡眠障害を引き起こしたり、過敏性腸症候群がうつ病を引き起こしたりすることもあります。

 みなさんの周りの人や、もしかしたらみなさん自身の中にも、「もしかしたらこの症状は…」と思い当たる節がある人もいるかもしれません。メンタルの不調やそれに伴う様々な症状に悩まされている人は、決して珍しくありません。むしろ、現代病と言ってもいいぐらい多いのです。

 もともと日本人にはうつ病が多いという背景がありますが、それがこのコロナ禍で、ますます顕在化しています。

 新型コロナウイルスの問題は、依然として収束していません。感染力の強い変異型ウイルスの蔓延など、私たちは新しい難題に日々さらされ続けています。私たちは、いわば暗いトンネルの中をずっと歩き続けており、いまだに光明は見えていません。精神的にも、経済的にも非常に厳しい状態に置かれている方も多いと思います。

 もしかすると、「こんな大変な時にうつ病の話なんて聞きたくないよ」という人もいるかもしれません。

 しかし、このような現状だからこそ、あえてきちんとした知識を身につけることが大切なのではないでしょうか。うつ病にならないためにできることを日々実践したり、「最近調子が悪いのはうつ病のせいなのかもしれない」と早めに気づきを得たりすること。それが、 メンタルの状態をできるだけ健全に管理、調整することにつながります。これも一種の予防医療です。そして、コロナ禍を生きる私たちにとって、最優先の生存戦略と言っても過言ではありません。

 さて、うつ病について詳しく解説する前に、最近話題になることも多い、日本の「自殺者数」についてみて行きましょう。

自殺者はコロナの死亡者の2倍以上

 警察庁のホームページでは、自殺者数の統計が報告されています。それによると、2020(令和2)年度の自殺者数の総数は、2万1081人でした。

 ちなみに厚生労働省の発表によると、2021(令和3)年4月29日の時点で、新型コロナウイルス感染症による日本の死亡者は累計で1万107人です。実にその2倍以上の人数が2020年度の1年間だけで自殺しているということになります。

 もちろん自殺とコロナ禍は、単純に比較できる事象ではありませんが、足元がグラリとするような、何かがおかしいとアラームが鳴るような気持にもなります。

 もともと日本は、世界的に見ても自殺者の数が多いことが分かっています。

 世界保健機関(WHO)による「自殺を予防する:世界の優先課題」によれば、2011年における世界の「自殺死亡数」は約80万人でした。実数で言うと米国、ロシア、日本、韓国の順に多く、人口で調整した「自殺率」では、韓国、日本、ロシア、フィンランドの順に多い。これらの国々にどのような病理があるのかも深掘りしたいところですが、別の機会にゆずります。

 さて、過去には日本の自殺者数は年間3万人を超え、非常に大きな社会問題となっていました。

日本における自殺者の推移

 ご覧の通り、1998年に前年比で約35%も増加して、一気に3万人を超えています。この主な原因は「バブル経済の崩壊」です。多くの人が経済的に困窮し、自殺を選択するまで追い詰められてしまいました。そして、バブル経済の崩壊による深刻な悪影響は長く尾を引き、自殺者が多いという状況は、高止まりしたまま推移していました。

 そのような状況を改善するべく、2006年には「自殺対策基本法」が制定されています。さらには、2015年には職場でのメンタルの管理として「ストレスチェック制度」も義務付けされました。このストレスチェックについて少し解説しましょう。

ストレスチェックは心の健康診断

 ストレスチェックは、まだまだ発展途上にあるものの、ぜひ継続的に受けていただきたい制度です。なぜなら、メンタルについての「健康診断に該当するもの」が、この世にはほとんどないからです。

 みなさんの大多数が、一般的な健康診断を受けていると思います。採血や採尿、レントゲン、心電図などで、生活習慣病や心臓、肺の病気がないかどうかをチェックします。しかし、これらの健康診断をいくら受けても、自分のメンタルの状態については一切分かりません。ストレスが溜まっているのかどうか、去年と比べてどうなのか、一般の人と比べてどれぐらいの状況にあるのか・・・など、判断する材料がなかったのです。

 確かに、メンタルの不調は多くが主観的なものなので、それらを客観的な指標として取り扱うのが難しいという問題点があります。しかし、難しいからといって放置し続けていれば、日本の自殺者数を減らすという目標はかなえられません。なんとかデータ化して、予防や治療に繋げようという試みが、ストレスチェックなのです。

イラスト:近藤慎太郎

イラスト:近藤慎太郎

 みなさんの中にはストレスチェックを受けたことがある人も多いと思いますが、現状では日本人全員が受けられるわけではありません。自営業や、専業主婦(夫)の人にはなじみが薄いと思います。ぜひこの機会に参考にしてみてください。

自殺者数はリーマン・ショック以来の増加に

 このような様々なメンタルヘルス対策が効果を発揮したのか、2010年ごろから自殺者数は緩やかに減少し、バブル崩壊以前の状況に近づきつつあったのです。

 しかしここで新型コロナウイルスの問題が起こりました。

 2021年3月末の時点では、新型コロナウイルスの感染拡大に関連した解雇や雇い止めの人数(見込みを含む)が10万人を超えました。この数は、これからまだまだ増えることになるでしょう。多くの人が、経済的に非常に厳しい状況に置かれています。この現状を反映したのか、自殺者数がまたジワッと上昇しているのです。

 前述したように2020(令和2)年度の総自殺者数は2万1081人でした。2019(令和元)年が2万169人ですので、912人(4.5%)の増加となっています。これまで10年連続で減少していたのですが、リーマン・ショック直後の09年以来、11年ぶりに増加に転じています。特に女性や若年層の増加が目立っています。

 この原因として、男性よりも女性の方が非正規雇用で働いている人の割合が多いこと、飲食店やアパレル業界など、コロナの被害が直撃した業態で働いている人が多いことが原因と考えられています。

 また、非正規雇用や自営業であれば、ストレスチェックなどの国の支援策、セーフティーネットも十分に行き渡っていない可能性があります。

国の支援策はできるだけ使おう

 今回のコロナ禍に対する国の動きに関しては、みなさん色々な意見を持っていると思います。支援を受けているのは他の人ばかりで、自分には届いていないと感じている人もいるでしょう。

 しかし、支援策にはかなり多くの種類があるし、こういうものの常で、十分に周知されておらず分かりづらい。もしかすると活用できるものもあるかもしれないので、ぜひ各種相談窓口や、経済産業省の支援策などを確認してみてください。

 次回は自殺の原因には何が多いのか、詳しく解説し、対策を考えていきます。

ジャンルで探す