大騒ぎするほど虚しさが募る「復興五輪」の合言葉

福島県いわき市で「復興の火」として展示された聖火(2021年3月25日、写真:ZUMA Press/アフロ)

(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

海外からの観客受け入れ中止

 公益財団法人「新聞通信調査会」が3月20日、米国、フランス、中国、韓国、タイの5カ国で行った世論調査結果を公表した。新型コロナウイルスが収束しない中での東京五輪・パラリンピックの開催について、「中止すべきだ」と「さらに延期すべきだ」を合わせた回答が、すべての国で7割を超えている。これは日本国内でも同様で、ほとんどの調査で「中止」「再延期」が7割から8割に達している。

 このもとで聖火リレーが始まったのだが、これでオリンピックムードが盛り上がっていくとは到底思えない。

 2020東京オリンピック・パラリンピックの1年延期を決めた昨年(2020年)3月24日、当時の安倍晋三首相は、「今後人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして、完全な形で東京オリンピック・パラリンピックを開催する」と語った。当時から、この言葉には強い違和感を持った。あまりにもお気楽な発言だからだ。すでに世界では、多くの感染者と死者が出ていた。当時、まだワクチンもなかった。その中で「完全な形」などというのは、無責任きわまりない発言だと思ったものだ。

 それが今では、世界で1億3000万人を超える感染者、280万人を超える死者が出ているのだ。日本でも48万人以上が感染し、死者は9000人を超えている。日本でも、世界でも感染者と死者が、日々増え続けている。フランスなどは、3度目のロックダウンが始まっている。

 ところが安倍首相の後を継いだ菅義偉首相も同じように「コロナに勝った証しとして」などと語っている。犠牲になった方々に「コロナに勝ちましたよ」と言うのか。あまりにも無神経な発言である。結果は、海外からの観客受け入れは中止となった。「完全な形」での開催はこれでできなくなった。「コロナに勝った」ではなく、「コロナが勝った」のだ。

ワクチン対応でも菅首相は失敗

 変異株のコロナが大阪や兵庫でまん延している。専門家も指摘するように感染力が強いウイルスになっている。いずれ東京や首都圏にも及んでくるだろう。緊急事態宣言の解除が大阪などより遅かった東京、首都圏は大阪のように爆発的に感染者が増える可能性が高い。何しろ対策は飲食店の時短営業しか取っていないのだから。入店できる人数の制限などの措置も、なぜかいまだに取られていない。本当に抑え込む気があるのか疑わしくなる。

 だったら切り札と言われるワクチンはどうか。『週刊文春』(4月8日号)に、「日本はなぜ先進国最下位になったのか 菅『ワクチン敗戦』徹底検証」という記事が掲載されている。それによれば、官邸で菅首相は一人苛立ち、「もうちょっと(各知事が)何かやってくれよな」「緊急事態宣言とかまん延防止措置の前にまず(各知事が要請する)時短だろう」「時短をやれよ、時短を」と語っていたそうだ。やっぱり時短営業しかないのだ。

 ワクチン接種回数は、日本の場合、世界の中でも飛び抜けて少ない。接種を完了した人数は、4月5日現在でアメリカでは6037万人、トルコ712万人、イギリス、ロシア、イスラエル、ブラジル、ドイツが400万人以上、日本はわずか18万人に過ぎない。極端に遅いのだ。なぜこうなったのか。

 文春記事によれば、今年1月に厚労省が発表したファイザーとの正式契約は、2021年内に7200万人分提供となっているそうだ。しかし、これまでの発表では「今年6月末までに」となっていたのが、「年内」と半年も後ろ倒しになっていたのだ。こうなった原因の1つは、権限の小さいファイザーの日本法人と交渉していたためだという。注射を打つ人員も不足しており、高齢者への接種完了は、6月末どころか8月まで無理だという。オリンピック・パラリンピックどころではない。

「復興五輪」という言葉の虚しさ

 私はもともと東京でオリンピック・パラリンピックを開催することには反対だった。東京はすべてのものが集中し、あらゆる面で過密、飽和状態になっている。1964年の東京五輪のように、敗戦から復興し、これから高度成長を成し遂げていこうという時代ではない。どうしても日本でやりたいなら福岡とか札幌など東京以外の都市でやるべきだと考えていた。

 とってつけたように「復興五輪」などと言われてきたが、本当にそうなっているのか。確かに交通インフラなども整備され、仮設住宅に住んでいる人も大きく減少してきた。だが聖火リレーが福島から始まった3月25日、県外の避難先から見に来たという男性が、“きれいになった所だけを走らせている。走るなら壊れたままの家や被災したまま放置されている所を走らせるべきだ”と憤る姿がテレビで放映されていた。

 3月4日付のロイターの記事によれば、白い防護服に長靴姿の男性が、「傷んで雑草がはびこる自宅の前に立ち、あたりを見回しながら、つぶやいた。『住居の墓場に来たみたい』」と報じている。記事はさらに続く。

「2011年の東日本大震災と東京電力9501.T福島第1原子力発電所からの放射能流出により、壊滅的な被害を受けた福島県双葉町。同町では夏の東京五輪の聖火リレーを想定し、駅前の道路の補修や町中の除染が急ピッチで続いている」
「その作業を指さし、『ここで(東京五輪の)聖火リレーをやって欲しくない』と話した。原発事故で7000人を超す双葉町民が失ったものを伝えるには、荒廃し、廃墟となった地域も聖火リレーの通過点として含めるべきだ」

 過酷事故を引き起こした福島第一原発について安倍首相は、2013年9月、東京五輪招致に向けた国際オリンピック委員会(IOC)総会の場で「(原発事故の状況は)コントロールされている」と述べた。だが放射能汚染水一つをとってもコントロールされているどころか、海に放水しようかなどという議論が真剣にされている始末だ。燃料デブリの試験的取り出しも、渡航制限の影響で英国製装置の輸送のメドが立たず1年程度遅れる見通しだという。

 福島第一原発の事故によって、いまだに3万数千人の人が避難生活を余儀なくされている。全体の避難者は4万人を超えている。「復興五輪」などという綺麗事で問題を済ませてはならない。

国際水連が日本での飛び込みW杯中止

 NHK(4月2日)や朝日新聞デジタル(4月3日)などの報道によると、オリンピック会場の東京アクアティクスセンターで4月18日~23日に行われる予定だった飛び込みのワールドカップについて、主催者である国際水泳連盟(FINA)が中止する意向を伝えてきたという。同様に、5月1日~4日にかけて行われる予定であったアーティスティックスイミング(AS)も中止。5月末に福岡市で実施する計画であった海などで泳ぐオープンウォータースイミング(OWS)も中止ということになった。いずれも五輪最終予選を兼ねた大会だったという。

 なぜこうなったのか。朝日新聞(4月4日付)によれば、「日本は原則、海外選手の受け入れを認めていない。政府が例外的に入国を認める『特段の事情』枠で、緊急性や公益性のある新規入国を受け入れている。選手やコーチは検査で陰性が証明できれば翌日から練習できるが、審判や大会関係者は入国後3日間のホテル隔離が必要だ。関係者によると、FINA側はこうした水際対策や来日に必要な査証(ビザ)の手続きに不満を示した。加えて、関係者のホテルの貸し切り代などコロナ対策にかかる費用をどこが負担するのか、調整が難航していたという」。

 予選が行われなければ、どうやって出場選手を選考するのか。過去の実績だけだと、当然多くの選手や関係者の反発を招きかねない。

 国際水連の判断には、コロナ禍での国際的なスポーツ大会開催の難しさが如実に表われている。オリンピック・パラリンピックは、こんな程度のことでは収まらなくなる。

ジャンルで探す